保護者ですから

朝、教室に行くと寿直と硯さんが二人きりで過ごしていた。

これは邪魔しちゃダメなやつじゃなかろうか。

俺には誰かと違って覗き趣味はないのでそっと引き返す。

かといって行くところなんてないよな。

居場所を探して歩いていると2年1組の教室から声が聞こえた。

「おはよう、笹井君」

「嘉木か。おはよう」

こいつずいぶん早く登校してるんだな。

てことは前に朝一で昇降口で絡まれたとき、嘉木はずいぶん早いうちから待っていたということだろうか。

「笹井君早いんだね」

「たまたまだ。そういう嘉木も早いんだな」

「わたしもたまたまだよ。さては笹井君、教室に行ったらカップルがいちゃいちゃしてて入れなかった?」

なんで知ってるんだよ。

つうかあいつら付き合ってはいないだろ。

もしそうなら寿直はちゃんと俺や直哉には言うと思う。

「そんなんじゃねえよ」

「教室にいたの硯さんだよね。男の子のほうは名前は知らないけど笹井君の友達じゃなかったっけ」

「硯さんのことは知ってんのか」

「1年の時に同じクラスだった」

そうなのか。

硯さんと嘉木。

うーーん。

「さぞかし仲悪かっただろうな」

「な、なんで知ってるの」

マジかよ。あてずっぽうだったんだがな。

でも大人しくて真面目そうな硯さんと、喧しくて破天荒な嘉木とじゃ相性悪いだろ。

逆に仲良かったりすることもあるかもしれんが、嘉木だからなあ。

「見りゃわかるだろ。そもそもお前と相性のいい人間が思いつかない」

「笹井君、本当に口悪いね」

「お互い様だ。嘉木はもう少し大人しくなれないのか。それこそ硯さんを見習え」

そう言うと嘉木は変な顔をして首を傾げた。

「硯さんは大人しくないよ?」

「は? 大人しいだろ」

「笹井君の目は節穴かなにかなの?

硯さんは言いたいことはっきり言うし、独断と偏見で物事を進めるし、自分勝手だし適当だし我儘だし」

それこそ嘉木の偏見ではないか。

というかお前が硯さんを嫌いなだけだろ。

感情でものをいうのは良くない。

でもよくよく考えると俺は硯さんと話したことないんだよなあ。

寿直が好きみたいなのと、クラス委員長だから知ってるだけで、それ以外の情報は特にない。

「嘉木は硯さんとケンカでもしたのか」

「したした。めっちゃした。よくしょうもないことでぶつかってたよ。

お互い引かないし、お互い好き勝手言ってたからしょっちゅう揉めてた」

「そういうのをお互い様って言うんだろうな」

「だろうね」

一応嘉木にも自覚はあるらしい。

てことは硯さんも同じように嘉木のこと嫌いなんだろうか。

あんまり誰かを嫌う感じの子には見えないけど、いかんせん女子高生だからなあ。

陰でなに考えてるかなんてわからない。

高校生、それも女子の人間関係は複雑なのだ。

「仲直りしたりとかは?」

「必要ある?」

「ないな」

クラス違うしな。

……。

だから違うクラスに割り振られたっていう可能性もある。

高校生にもなってそうぎゃんぎゃんケンカしてる二人を同じクラスにするのは教師だって面倒だろうし。

「待て、1年のころは硯さんはそんなに活発だったのか」

「うん。元気有り余ってたよ」

お前には言われたくないだろうよ。

でも今はそんな感じじゃない。

なんかあったのかな。寿直ならなにか知っていたりするんだろうか。

「知りたい?」

「いや全然。他人の事情に首を突っ込みたくない」

「そうだよね。笹井君はそういうタイプだよね。いいと思うよ」

うんうんと嘉木はわかったような顔で頷いた。そこはかとなくイラッと来るがまあいいだろう。

ふと気が付くと何人か登校し始めていた。

そろそろ教室に戻ってもいいだろうか。

「じゃあ俺、教室行くから」

「そう? まだ二人っきりだと思うけど」

「なんで」

「さっきから2組の人たちが廊下でうろうろしてる」

言われてあたりを見渡すと、嘉木の言うとおりだった。

廊下で立ち尽くしたり、2組の教室の中を窓越しに覗いたりしているのは全部2組の生徒だ。

「それこそ俺が先陣を切らねえと誰も入れねえじゃんかよ」

「それもそうだ。いってらっしゃい。がんばって」

「はいはい」

嘉木に別れを告げて2組の教室のドアを開ける。

ちょうど寿直が立ち上がったところで、やつはこっちを向いて笑顔で手を振った。

対照的に硯さんには睨まれた。

そんなに照れなくてもいいのにな。

「けいすけおはよーー」

「おはよう寿直。邪魔して悪かったな」

「いいよ、ちょうど切り上げたところだったから。

で、嘉木さんとはどう?」

「え?」

「なんでもなーーい」

待て待て、どういう意味だ。寿直は嘉木が登校していることも俺がそっと退避したことも知ってたのか?

だとしたら寿直、性格悪いぞ。

なんで俺の周りはこう性格悪いやつらばかりなんだ。

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