寸止め
放課後、啓介や寿直とわかれて教室を出ると廊下で京子ちゃんが待っていた。
俺に気づくとにこっと笑って近寄ってくる。
うーーん、こんなかわいい子が俺の彼女でいいんだろうか。まだ不安が残る。
彼女。一応? たぶん。
「直哉先輩なにぼんやりしてるんですか。部活行きますよ」
「あ、はい。行きます」
京子ちゃんに促されて校舎を出たところで。彼女が振り返った。
「お話は聞かせてもらいました」
「話? あー、啓介と嘉木さんの話?」
「それです」
なんだ、そのために廊下にいたのか。
そうだよなあ。
俺のこと待っててくれるとか、そんなかわいいことしてくれないよね。
「あれだけ嘉木先輩は啓介先輩に執着されているのに、啓介先輩は危機感がないんですかね」
「男ってそういうもんだから。
女の子と違ってさ、自分は大丈夫とか、襲われても戦ったり逃げたりすればいいって慢心してるんだよ。
あとは純粋に啓介が鈍いのもあるし、嘉木さんが本当にそういう意味で啓介に近寄ってるわけじゃない可能性もあるし」
「そういうものですかね」
京子ちゃんはなにを懸念しているんだろう。
嘉木さんが啓介に対して恋愛感情を持っているかどうかがそんなに気になる?
なんで?
なんて、俺も俺もで気にしすぎだな。
京子ちゃんは啓介に対して恋愛感情はないと言っていた。
であればそれを信じるべきだし信じたい。だってそうでなければ俺が可哀想だろう。
「直哉先輩は嘉木先輩が啓介先輩に対して強硬手段に出たらどうしようって不安ないんですか」
「まったくないわけじゃないけど、啓介は啓介で嘉木さんに対して誠実に対応をしようってし始めてるんだから大丈夫じゃねえの。
嘉木さんだってそういうこと全く分からない子じゃないだろうし」
「それはどうでしょうね」
「?」
「いえ、なんでもないです」
……。
やっぱり気になる。
嘉木さんのことは正直俺にとってはどうでもいい。
だってそれは啓介がなんとかすべきことで、俺や他の人間が口を突っ込むことじゃない。
俺が気になるのは京子ちゃんだ。
こんなにも啓介と嘉木さんの仲を気にするのはなんでだ。
京子ちゃん自身が啓介のこと気にしてるからじゃねえの。
もしそういうことを言ってもはぐらかされるだろうけど、気になっちゃうんだ。
「京子ちゃんさ」
「なんでしょう」
「啓介が」
「はい」
「いや、なんでもない」
結局聞けないヘタレな俺です。
聞けるかっていうんだよ。だってそれでウザがられたりキモがられたりしたら立ち直れないかもしれない。
なんかもうため息しか出ないな。
「直哉先輩?」
「うん?」
「なに落ち込んでるんですか? らしくないです。キスしましょうか?」
「いや、大丈夫……はあ!?」
うっかり聞き流すところだったが、いったいこの後輩はなにを言い出すんだ?
いや、彼女なんだからキスくらいしてもいいのか?
いやいやいや、ここ学校だからそういうのまずいだろ!?
「なに慌ててるんですか。冗談ですよ」
「え、あ、そう」
そうか……冗談か。舞い上がっちゃった俺が馬鹿みたいだね!!
くっそ、覚えてろ。いつか仕返しをしてやる。
なんてふてくされていると京子ちゃんはくすくす笑っている。
「ふふ、直哉先輩面白いですね」
「あのなあ。好きな女の子にキスとか言われたら喜んじゃうだろ。
そういうこと軽々しく言うなよな」
「それは申し訳ございませんでした。以後気をつけます」
本当に申し訳ないと思っているのかね。
このままされっぱなしも悔しいので手を伸ばして京子ちゃんの頭をぐりぐりっと撫でた。
京子ちゃんはひゃーーとか言って髪を直している。
「何てことするんですか!!」
「仕返し」
「お、大人げのない先輩ですね」
「かわいげのない後輩にはこれくらいで十分だ」
そろそろ部室棟が近くなってきた。
次に恋人っぽいことができるのは部活の後だろうか。
少しだけ我慢しよう。
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