不機嫌な理由は教えられません
「で、新崎君はなにをしたわけ」
いいんちょうがめちゃくちゃに怒っている。
首とか絞められそうだし、なんなら軽く脅されたりもするかもしれない。
「別になんにもしてないよ」
とはいえここは昼休みの教室だから、なにも言わない。
今日はけいすけが他のクラスの友達とごはんに行ったし、なおやも部活の友達とごはんにするというのでおれはいいんちょうの隣の席にやってきた。
ひそひそこそこそする人もいないし快適だね。
「嘘。じゃあなんでそんなに怪我してるの。
しかも派手な人たちきてないし」
「おれの怪我はちょっと転んだだけだよ。あの人たちのことは知らない。なんで揃いも揃って休みなんだろうね?」
「白々しい……」
いいんちょうの視線が痛い。
焦げそうだし穴が開きそうだ。
「そんなに熱く見つめられると照れるんだけど。
「張り倒すわよ」
「張り倒せるものならどうぞ」
そんな細腕でなにができるのさ。
言外にそう言うといいんちょうはむすっとしてお弁当を食べ続けた。
でもおれがなにもしないでいたら、いいんちょうはどうする気だったんだろう。
彼女は彼女なりにやり返そうとしていたみたいだけど。
「いいんちょうはなにをしようとしていたの?」
「なにって?」
「あの人たちになにか反撃しようとしていたでしょう」
「ああ」
それね、といいんちょうはそっぽを向く。
そのまま視線を合わせずに彼女はつぶやいた。
「期末テストの時に答えを職員室から盗み出そうとしてたからちょっと通報しようとしただけ」
「それだけ?」
「それだけ」
「それじゃあ適当にお説教されて終わりじゃない」
「そうなのよ」
はあ、といいんちょうはため息をついた。
まあそうだよね。
普通あんな体を張ったり、警察呼んだりなんかしないよね。
いいんちょうのやり方は良くも悪くも高校生的考えだと思う。
「じゃあ新崎君ならどうするの」
「おれ? 軽く殴られてから警察呼ぶ」
「呼んだんだ……」
「もののたとえだよ」
言うつもりなんかなかったけど、それこそ良くも悪くも高校生的考えのいいんちょうならまさか本当に実行したとは思わないだろう。
それに誰か一人にくらい話しておかないと息が詰まっちゃいそうだし。
「じゃあなんで派手な人たちきてないの」
「だから知らないって」
そう笑顔で躱していいんちょうに顔を寄せる。
いいんちょうは嫌そうに顔を背けた。
その顔だけで満足なので身を引いて、机の上に散らかしたままのパンを選別する。
「新崎君さあ」
「うん?」
「誰にでもそういうことするの良くないよ」
いいんちょうは鈍いのだろうか。
それとも本気なのだろうか。
どっちでもいいけど、誤解されるのは嫌だなあ。
だってそうでしょう。おれはどこかの誰かと違って、いいんちょうで遊ぶ気なんかこれっぽちもないのだから。
「いいんちょう。いや、すずりけいかさん」
「な、に」
「おれ、誰かれ構わず優しくとかしないから。そういうキャラじゃないことくらいわかってるでしょ」
「そ、そう」
「だからあんまりおれのこと舐めてるとぱくっといっちゃうからね」
そう笑ってみせると、いいんちょうは照れたように顔を背けた。
まったくかわいいなあ。
やっぱりおれはこの人のこと好きみたい。
こんなかわいい子、なかなかいないよ?
なおやが付き合いだしたというあいうちさんも、顔はかわいいけどけいすけ曰く中身かわいくないし。
けいすけが絡まれているかぎさんは賑やかすぎてどうしていいかわからない。
他にも女の子はいっぱいいる。
だけど。
やっぱりいいんちょうが一番かわいい。
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