はちみつ

昼休みに俺は京子ちゃんと屋上にいた。

といっても色気のあるデートではない。

たんに冬弥と昼飯を食べる啓介を観察するためである。

いやほんと、なんでこんなことしてんの俺。

啓介と冬弥は屋上に上がってすぐのところで飯を食っている。

俺と京子ちゃんは給水塔の上でそれを眺めていた。

若干の不安定さにいろんな意味でドキドキです。

「ところで直哉先輩」

「なんでしょうか」

「啓介先輩と祥子先輩って仲いいんですか」

「なんでそう思うの?」

うーーん、と京子ちゃんは首をかしげた。

一見啓介は祥子先輩とは仲が悪そうに見える。というか啓介が祥子先輩を嫌いそうに見える。

祥子先輩の話をされるのを嫌うし、比較されることも嫌がる。

だというのに京子ちゃんがそう思うのは何故。

「だって啓介先輩自身から祥子先輩を嫌うような言葉は出ていませんし。

そもそも祥子先輩あっての啓介先輩、という言い方を嫌うだけでそれは祥子先輩が悪いわけじゃないですよね。

啓介先輩はそういうことで祥子先輩を嫌うような、逆恨みをするタイプには見えません」

そっか。なんだかんだで京子ちゃんは啓介のことをちゃんと見ているようだ。

監察、とは言っているもののやっぱりそれなりに気にしてるんだろうなあ。

「そうだね。京子ちゃんの言うとおり、啓介は祥子先輩のこと嫌いじゃないよ。

むしろ姉弟間の仲はいい方だ。それを周りがうるさく言うから外では近寄らないだけでさ」

「やっぱりそうでしたか。

だとしたら、私は余計なことをしてしまいましたね」

「京子ちゃん?」

「いえ、なんでもありません」

京子ちゃんは困ったような顔をして啓介たちに視線を向けた。

俺もそちらを見ると、先ほどと変わらず啓介と冬弥が飯を食っている。

と、そこに女子生徒がやってきた。

ショートカットに小柄な体躯、せわしない動き。

「嘉木さん?」

そう口に出すと京子ちゃんに

「しーっ」

と怒られた。そういう顔もかわいくていいと思います。

嘉木さんは啓介に向かって勢いよく頭を下げる。

彼女はまたなにか啓介を怒らせたのだろうか。

最近ではそれが当たり前になりつつあって、啓介も愚痴を言わなくなってきたからよくわからない。

だがその後二言三言会話すると、なんと啓介が嘉木さんに向かってスマートフォンを差し出した。

「マジかよ」

「啓介先輩が嘉木先輩を受け入れた?

いえでもまさかそんな」

「? なにがまさか、なの」

「あ、えっと。なんでもないです」

怪しい。京子ちゃん、啓介か嘉木さんかどちらかに余計なことを吹き込んでるんじゃなかろうか。

ていうか確実にそうだよなあ。

本当にしょうもない後輩である。

「しっかし啓介が嘉木さんと、あれは連絡先を交換してるんだよな?

一体どういう心境の変化だ」

「うーーん……。余程藤崎先輩に宥められたんでしょうか」

「冬弥がちょっとやそっと宥めたくらいで言うこと聞くんなら苦労してねえよ」

「そうですよねえ」

思わず二人で首をかしげてしまう。

そうこうしているうちに嘉木さんは屋上から出ていった。

そして啓介と冬弥も立ち上がり屋内へ戻っていく。

俺らも戻ろうか、と声をかけようとした瞬間、俺のスマートフォンが震えた。

「? ……あらーー」

横から覗き込んだ京子ちゃんが失笑する。

そこには啓介から一言

『覗きデートなんて悪趣味だぞ』

とだけ送られてきていた。

どうやらバレバレだったらしい。

冬弥にもばれていたのだろうか。

まあいい。こうなったら開き直って啓介に嘉木さんとなにがあったか聞いてやろう。

「よろしくお願いします。直哉先輩」

「おう、任せとけ。……けど、聞いた内容を全部京子ちゃんに教えるとは限らないからな」

「えー、何でですか!」

「友達だからだよ」

ちえーー、と京子ちゃんが膨れる。

俺も友達を売るほど馬鹿じゃないってことだ。

京子ちゃんを急かして教室に戻った。

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