正直こういう展開を待ってました
ある日の朝、いつもより早めに教室に行くといいんちょうがいた。
「おはよう、いいんちょう」
「おはよう、新崎君」
いいんちょうは黙々と教科書をめくったり、ノートになにやら書き込んだりしている。
せっかく二人っきりなので、彼女の前の席に座って覗き込んでみた。
「邪魔なんだけど」
「たまには朝からデートもよくない?」
「デートじゃないから」
顔も上げずに追い払われそうになる。でもそこで引くおれじゃない。
だって珍しいんだ。いいんちょうがこんな早くから教室にいるなんて。
いつもはもっと時間ぎりぎりになってからやってくる。
「早起きしちゃったの?」
「私は元々いつもこれくらいの時間に学校に来てる」
「そうなんだ」
「教室にいないだけ」
「なんで」
「ウザいから」
なにがだろう。クラスメイトが? 教師が?
それとも。
追及してもなにも教えてくれないだろうからなあ。
「ほら、遊ばれるでしょ」
珍しくいいんちょうが話を続けた。
今日はどうやらそういう珍しいことが続く日らしい。
おれは黙って続きを促す。
「うちのクラスの派手な人たちさ、私で遊ぶの好きだから」
私と、ではなく私で。
それは知っている。いじめといたずらのちょうど中間くらい。
ちょっとふざけてただけですと言ってしまえばそれくらい。
でもそういうのをいじめって言うんじゃないのかなあ。
「いいんちょうは嫌じゃないの」
「嫌だよ」
「なら」
「もう少し耐えてみようと思って」
「でも」
「まあ、見ててよ。面白いことになるから」
そう言って笑ったいいんちょうは本当に怖い顔をしていた。
なんていうか夢に見そう。
悪い悪い笑顔で、きっとうちのクラスの派手な人たちはひどい目に合うんだろうなあ。
そういう顔だった。
「いいんちょうが良いならいいけどさ」
本当は嫌なんだけど。
でもああそうか。
「だからおれで憂さ晴らししてるの?」
「そうだよ」
「いいんちょうは性格悪いなあ」
それで彼女の気が晴れるならいいんだけどさ。
おれは宿題してるだけだし、むしろ授業中は寝ていたい派だから宿題の範囲を教えてもらえるの助かるし。
「新崎君は」
「うん?」
「そんな話を聞いた後でもきゅんって音はするのかな」
「するよそりゃ」
もちろんさっき言った通りいいんちょうは性格悪いと思うけどさ。
でもへこたれない強さみたいなものとか、曲がらないなにかとか、そういうの嫌いじゃない。
地味だけどしなやかっぽいのいいじゃん。
「困ったらおれに言ってもいいんだよ。一応男の子だから」
「例えばどうするの」
「いいんちょうに嫌がらせする連中の机に鏡を張り付ける」
「地味にウザいやつ」
「嫌でしょ」
言ってから気が付いたけど、ちっとも男らしいやり方じゃなかった。
男らしいやり方なんて知らないんだけどさ。
本当はさ、いいんちょうを困らせる奴なんてみんなぶん殴っちゃえばいいと思うよ。
でもそうはいかないから。
いいんちょうは虎視眈々と反撃の機会を見計らってるし、おれはただそれまで憂さ晴らしに付き合う。
なんていうかネガティブな青春だけどそんなもんだろう。
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