奴隷の勇者たち
伊城コト
第1話 プロローグ
青く澄んだ空を見ていた。
飛行機雲が流れている。
俺たちは体育の授業中にその音に空を見上げた。
甲高い音に目映い光が空を覆い尽くす。
「おい。なんか光って――」
稲妻? 落雷か。
そんな一瞬の思考の次に視界に飛び込んだ景色は石で出来た高い天井だった。
「召喚は成功です! 王様!」
「「おおっ――」」
ドライアイスの煙のようなものが晴れると何やら大人たちの騒がしい声が周囲からした。
視線を戻すとそこには見慣れない姿の大人たちがいた。
「いやはや、一度で成功するとは流石王国筆頭の魔術師よ」
「お褒めに預かり光栄でございます」
若く精悍な青年が恭しく頭を下げる。
片手にはこれ見よがしに荘厳な杖。
ディテールに宝石をあしらった絢爛な長杖だった。
「言葉は通じておるか? 意思疎通に不備はないな?」
ファンタジーでしか見たことのないような煌びやかな衣装に身を包んだ中年の男は金の座に腰掛けて俺たちを見下ろしていた。
「万事滞りなく」
青年もまた黒いローブ姿から頭を出して俺たちを見下ろしている。
「おい、桜木……俺、頭がおかしくなったかもしれない」
「大丈夫だ……俺にも見えてる……」
ざわめき出すクラスメイトに玉座の隣にいた青年が手にした杖で地を鳴らし声を張り上げた。
「静粛に! 王の御前である!」
「……それでは、大臣――」
何やら大人たちのひそひそとしたやり取りの後に王の横で控えていた緑色の重そうな服を着込んだ男が俺たちの前に出た。
一見して
「君たちはこの我らが神が治める
「は?」
「映画の撮影か?」
男は俺たちの声をかき消すような大声で尚も続ける。
「その使命とは! かの蛮人の国アルステラの蛮行謀略を阻止し、またこの世界を我らが王の手によって平定し治めることを手助けすることである!」
以上! と区切られた俺たちは何やらさっぱりという顔を見合わせた。
「俺見たことある……これ、異世界転移とか異世界召喚ってやつだよ……」
クラスで一番根暗なイメージが強い坂本がおおおっと興奮しながらそんなことを言った。
「映画だろ……よく見ろ、ハリウッドスターがいるかもしれない」
大人たちは値踏みするようにひそひそとこちらを伺って声を潜めている。
「皆様! まずは宴と参りましょう。さあ、こちらへ!」
偉そうな衣装を着込んだ男が手招きするので俺たちは辺りをキョロキョロ見回してカメラを探したりした。
「なあ、とにかく今は従った方がいいんじゃないのか? 全員記憶喪失になってるかもしれないし」
「その可能性は思い付かなかった。でもさっきまでサッカーの授業してたよな? 俺ら」
「さあ! 早くこちらへ!」
おずおずと歩き出す俺たちは槍を持った兵士5人に後ろを塞がれる。
この意味不明の状況に苦笑いするしかない俺はひとまず男の背中をみんなと共に追った。
「すげぇ……」
「なんだよこれ……本物かよ……」
巨大――まさにその一言に尽きる。
パッと見ただけで悠々とサッカーが出来る広さの廊下だ……信じられない。
天井なんて何十メートルあるのかも分からない。しかもその空間が途方もないスケールで続いている!
「皆様のこれからの家となる城、驚かれているようですがここはまだ廊下です。さあもう少し歩けばいいところへご案内致しましょう」
俺は固唾を呑んだ。
これで廊下かよ!
そんな叫び同然の声に俺も同意する。
「あの、質問いっすか」
「何でしょうか」
「俺たちってここで何させられるんすか?」
男は歩きながらウムと唸った。
「皆様、特定の女性はお持ちではないはずですが、いかがですかな」
「あ、あー……あれ?」
「そういえば松本はどうした? あいつ彼女持ちだったよな」
「いないな、最初からいなかったっけ?」
「あ、そういえば浩介もいないぞ。キーパーしてたはずだ」
俺たちの声は広すぎる廊下に全く反響しない。むしろ不安を煽るように小さく消えていくのみだ。
「そういうことでございます。私共は皆様の幸福とこの国の幸福を願う者。
そして誠に勝手ながら皆様にこちらの世界で幸福になって頂くためにお越し頂いたのです。
ですからまずはこの世界で良き伴侶をお探しください」
前方にいた島脇は手を頭の後ろで組んで口笛を吹いた。
ひゅうと甲高い口笛が1つ鳴る。
「それって、俺たちに子供作れって事すか?」
「おい」
笑い出すクラスメイトたち。
「はい、お望みとあらば生涯そのような行為に耽って頂いても結構です」
「は? ははっ生涯? 一生セックスしてていいってこと?」
冗談だろ。という空気の中で淡い期待もしている。でも生涯って……どんなスケールだよ。
ここはどう考えても地球じゃない。夢、白昼夢、そんな感じだ。集団催眠か?
だけど、ひょっとしたら、もしかしてという期待が誰の顔にも垣間見えた。
……哀しい男の性だった。
ふと窓の外を見ると巨大な大木が聳え立っていた。
雲を劈くような圧倒的な自然の大きさ。
地球とは明らかに違う文明がそこには溢れている。
「お、おい! あれ見ろよ!」
クラスメイトは興奮した様子で巨大な窓に群がる。
「中心に見える大木が我が国の誇る聖なる大木、ユグラシルでございます。
街並は皆様のところに比べれば平凡かもしれませんが、負けてはないと思いますぞ」
「いや、これアメリカのニューヨークより凄いんじゃないか?」
「木の根に走っているのは電車ですかね?」
「空に飛んでるの龍だよな?」
まさしく異次元の世界だった。
ビルの間に這う木の根は碁盤の目に街を覆っている。
不規則に見える根の成長をまるでコントロールしているようだった。
建物はコンクリートかどうかもわからない。
木ではないようだが石のようにも見えない。
例えるならカロリーメイトのような色合いだ。
自然と人間社会との共生。
空には翼の生えた生き物に乗って移動する人々がいた。
俺たちはたっぷりその光景を堪能してから再び案内を再開される。
「さあ、着きましたよ」
たっぷり10分は歩かされて俺たちはこれまた豪華客船を縦にしたような馬鹿げた大きさを持つ扉の前に居た。
見上げるほどに大きく継ぎ目もない。
木材なんだろうが木材には思えない。
こんな大木を切り出すことがまず俺たちの世界ではあり得ないからだ。
「しばしお待ちくださいませ」
がこんと軽い地響きの後に扉が轟々と呻りながら開き出す。
「やべえ、興奮してきた」
熱気と甘い香りがびゅうと風に乗って運ばれてくると中には彩り豊かなドレスに身を包んだ少女の群が見渡す限りに並んでいた。
「「「ようこそ! 勇者様!」」」
拍手がぱらぱらとなり楽器の音が響き出すと同時、万雷の拍手の喝采を浴びる俺たち。
「さあ、皆様一列にお並びください!
私の後ろに付いてきて下さい!
段の高いところを真っ直ぐ歩きますよ!」
叫ばないと聞こえないほどの喝采と音楽。
俺たちは突然の緊張になすがまま一列に並んで歩き出す。
階段を少し上がって視界が高くなると少女たちの頭上を歩くような格好になった。
見渡す限りの少女、少女、少女――。
「すげえ……みんな滅茶苦茶可愛いぞ!」
「なんですか、この人たちは」
「レベル高ぇ……」
歩き出すと下から手を伸ばし出して握手を求めようとする少女もいた。
靴に絡む柔らかい手もある。
年齢はそれぞれなのか身長差もそれなりにあるが、皆揃いも揃って美人である。
とにかく目が痛くなるほど色とりどりでそれが何千人、何万人? という数で俺たちに黄色い声と拍手を送っているのだからまったく人生で感じたことのない高揚感に満ちていた。
「ここに居られる方は皆様の良き伴侶となろうという心を持った高貴なる女性の方々です。
年齢は下が8才から上が18才までございます。
どなたを選んでも構いませんが選ぶためには必要な形式がございますので今は名前を覚え留めるにしておいてくだされ」
前を歩く久保田は顔を真っ赤にして左右を見渡している。
横顔だけ見てもだらしない。
俺もあんな気持ち悪い顔をしているのかもしれないと思うと少し冷静になれる。
握手に応えている島脇はなかなか図太いな。
「俺、絶対こういうのに縁がないと思ってた……ああ、お母さんお父さん。産んでくれてありがとう」
なんか……後ろの八幡か? 感極まってるみたいだ。
気持ちは分かる。いや、正直に言えば俺だって気持ちは同じだ。
生涯、いや人生を何度繰り返したってこれだけの美少女に視線を向けられ、あまつさえ迫られることなどないと断言できる。
第一規模が違いすぎる。なんだこれは?
東京ドームを10個くらい連結させて全宇宙の美少女を掻き集めたのか?
顔が見えなくなる向こう側まで女の子から手を振られてる俺たちは今どんなイケメンアイドルよりも人気があるぞ。
「さ、皆様。こちらの席に」
案内されたのは壇上だった。
少女たちの肩くらいの高さにあるそこに俺たちは一列に並ばされる。
本当にアイドルグループにでもなったような気分だ。
いや、自信がない。正直言って凄く恥ずかしい。
凄くと言う表現さえ生ぬるいほど恥ずかしい。
自分の存在感、意識なんかがゆっくりとフェードアウトしていく気分だ。
気を抜いたら倒れる。
男が手を叩くと少女たちの拍手が徐々に鳴り止んだ。
「拡声魔法を使いますので、皆様私から一歩後ろへお下がりください」
ふわりと風に押されたように下がるとさながら軍人のように俺たちはぴったりと揃ったまま一歩下がった。謎のシンクロ率である。
「まずはここへお集まり頂いた淑女の皆様。
我らがパナーン帝国繁栄のためその身と心を砕いてくださったこと誠、感謝の極みでありここに最上の御礼を述べさせて頂きます」
すごい、本当に何処を見ても美少女ばかりだ。
溌剌とした子から闇のありそうな子、キツい感じの子からおっとりとした子まで皆それぞれが羨望の眼差しを向けている。
髪の色がいろいろあるようだけど、やっぱり坂本の言うとおり異世界と考えて間違いないのかもしれない。
こんな規模の映画ならハリウッドはもうこの段階で一銭も残っていないだろう。
「さて、我らが数千万の奴隷の命と引き換えに呼びかけに応じて下さった勇者召喚ですが、儀式はここにこうして相成りましたこと、まずは次代の英雄を育む淑女の皆様にご紹介させて頂きたくこの場を設けさせて頂きました」
今こいつ命と引き換えとか言わなかったか。
「失礼します」
何やら日本のメイド喫茶顔負けのふりふりが付いた可愛い女性が一番端にいる高橋の前で身を低くして体に定規を当て始める。仕立て屋みたいだ。
「可愛いね、名前は?」
歳は俺たちと同じくらいだろうか。
島脇のやつ調子こいていきなり口説いてやがる。
「
凄いぞオルタシア。その素っ気なさ。
俺たちが普通の人間であることを思い出させてくれる。
「私のことは気にせず前を向いておられたほうが凜々しく見えますよ」
とんでもないことになってきたと思いつつも俺たちは前に向き直るしかなかった。
可愛い女の子たちを大勢前にさらに緊張していくのが分かる。
「まずは、一番左側におられる勇者様から自己紹介をお願いしていきましょう」
マイク、ではないが杖の先を向けられて高橋が少し上擦った声で答えた。
「た、
「(……それだけか?)」
男の小声にどういうことだ? と思っているとオルタシアが耳に髪を掻き上げながら横から割ってきて高橋に耳打ちした。その瞬間、高橋は顔を真っ赤にしたが――
「えっと……好きな女性のタイプは胸の大きい人です。
優しくて少し年下がいいです」
そっちか!? というより、ここに来て性癖暴露しやがった。
高橋はクラスでも優等生が鼻につく模範的な奴だったはず。
性教育の授業では「必要なのは性を学ぶことではなく、自分たちを知ること」とかふざけた優等生ぶりがちょっとウザイくらいの奴だった。
それが……なんだこの状況は? おっぱい大好きとか言ったぞこいつ。
いや、大好きとはいってないか。
俺たちは13人揃いも揃って性癖を暴露するように指示された。
俺ももちろん言っておいた。しかし、あれでよかったのだろうか……。
普通の女子ならどん引きものだろう。
ともかく全員の性癖がバラされる過程で俺たちの緊張は少し解かれたように思う。
「皆様、それでは次に勇者の証をお見せ下さい。
念のために申しますが、下の方ではありませんよ」
最悪のギャグである。もちろん美少女たちは誰も笑ってない。
一部失笑が漏れたくらいだ。ここで脱ぐ奴がいるとしたら、島脇か……あ、ノリで手を掛けてた。
黄色い声が飛んでいる。
しかし、勇者の証とはいわれても何も思い付かないし知らない。
男がまた俺たちの前で指示を出した。
「皆様にはそれぞれ能力がございます。虚空を見つめ
「
独特の発光体の粒子がぱっと散ったように見えた瞬間、その場にきらきらと輝くラメのようなものが文字を形成していた。
ご丁寧に枠まである。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・
【スキル】……変換……
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
おお……と眺めていると目の前の少女たちが騒ぎ出したので隣の方を見ると高橋が消えていた。
「素晴らしい。彼は
龍に変化すればどのような攻撃も寄せ付けないでしょう」
うわあ、どこかで見たことあるぞその力。
たしか氷付けにされたりすると死ぬんじゃなかったっけ……。
霧島は炎を自由に操れる超能力か。
異世界人には魔力がないため霧島は魔力を消費しないとか公言されて歓声に包まれている。
魔力なんてあるのか? ゲームみたいな世界だな。
確かに消費がない力は凄いと思うけど……魔力ってまじでなんだろう。
島脇は身体能力向上だとか。
運ばれてきた手の平サイズの石を握りつぶしてから美少女たちの盛り上がりようが凄い。
石を手で砕くって普通皮膚が持たないだろ……怖ぇ……。
久保田は気配遮断とかいう地味なスキルだ。
試しに使って貰うと周囲にどよめきが起こった。
目の前にいるはずなのにいないように感じるのだ。
動いているものに注視すると静止しているものに意識がいかなくなるというMotubeの動画を見たことがあるがまさにそんな感じだ。
何かがあるのはわかるのに背景にしか見えないというやつだ。
一番ヤバい気がする。
暗殺者かよ。
「次はサクラギユウト殿の番だが、よろしいか?」
「すみません、俺ちょっと最後でもいいですか? 確認したいことがあるんで」
「どうしたユウト、まさかクズスキルを?」
「いやそういうんじゃないから」
軽くイラっときた。いきなり呼び捨てかよ。
てか、手の平返す速度速すぎるだろ。
「では次、ヤハタカオル殿」
俺はちょっと伏せ目がちに一歩引いて隣の八幡に順番を譲る。
クズではない……ないよな? じゃないと思う。
気になったのはスキルを使う感覚が理解できないことだ。
突然異世界に召喚されたからって五感の他にプラスワンされるわけじゃない。
その辺りを少し時間を掛けて確かめたかった。
「お、おれ……俺のは……」
八幡が青白い顔で何かを言おうとしている。
「どうされたのですかな、ヤハタカオル殿」
息を荒くして、目を固く瞑ったり開いたりしながら画面を見ているようだ。
ちなみにこの画面は他人からは見えないらしい。
「て、スキル名は……転生、です」
「おお……」
落胆か安堵か男はそれきり声を発しなかった。
静寂にまずいと感じたのか、男がうんと頷いて尋ねる。
「つまりこういうことですかな、ヤハタカオル殿は死んでも蘇る……と」
「はい……」
一応美少女たちは拍手を送ったが、空気は微妙すぎた。
「死なないのは強いが……」
「不死とかならまだな」
「うん」
と軽く同情の視線である。
さて、こんな調子で12人の能力が明かされ、いよいよ俺の番が回ってきた。
「それでは最後はサクラギユウト殿です。さ、スキル名を」
俺は軽いノリでいくことにした。
「スキル名は変換、どういうものかはやってみないと……」
――ざわ。
ざわざわと会場がうるさくなる。
むさい男は杖を落として拡声魔法を使うのも忘れて俺の両肩を握りしめた。
「そ、それは誠か――?」
「は、はい」
男は手を叩くと台座が運ばれてくる。
その上にはさっきの島脇のときよりも大きめの石の塊が用意された。
「何かに変換してみてくだされ」
順当にいけばまあそういう解釈になるだろう。
変換は物質的な意味合いと考えられる。
水を火にしたり土を水にしたりとそういった類いなんじゃないかと俺も思う。
しかし使い方はわからない。
試しに手を置いてみる。
何にしたらわかりやすいだろうか。
錬金術という言葉があるくらいだし、金にすることが一番わかりやすいか。
金になれと念じてみる。
ならない――。
大衆が俺に注目している。
頭から血の気が引いていくような感覚。
全身から嫌な汗が吹き上がるのがわかる。
目を瞑って深呼吸しもう一度念じた。
(金になれ)
どよめきがおこった。
「はぁ――!」
男の声に驚いて俺は目を開けた。
そこには目頭を押さえて顔を俯ける男の顔があった。
何度も深い息を吐いて必死に何かを堪えている。
「ぐすっ――何という、ああ……神の申し子だ……くっ、うぐ……民の、これで民の生活もようやく――はぁ……っ良かった、本当に……」
涙と鼻水で濡れた汚い男は杖を拾うと声を張り上げた。
「王様! お聞き下さい! 勇者様の中に森羅万象を司る勇者が現れました!
我々の勝利は確実ですぞ!!」
喝采が起こった。
黄色い喝采だった。
「ユウト様! ばんざぁい――!」
この盛り上がりようはなんだと俺は他の男子(クラスメイト)の顔を見た。
「本当に金になったんだろうな」
島脇は明らかに嫉妬まじりな口調で近づいてきて台座の上の金塊を握りつぶそうとした。
するとスライムのようにぐにゃりと変形し割れなかった。
「はぁ!?」
「まじかよ……」
「金ってこんなになるのか?」
「柔らかい金属だとは知っていたけど……」
「桜木、お前億万長者になれるじゃん」
ざわざわとしてきた会場で司会の男はおろおろとしながら拡声器の杖を握った。
「では、皆様。これより食事会を始めます。
立食ではございますがどうぞ心ゆくまでパーティをお楽しみください」
俺のスキルは成功した。
何か現実とは思えない感覚だ。
男に連れられて俺たちは美少女の中に放り込まれようとしていた。
付いて来いと男は言うのだが、こんな獲物を狙う豹みたいな少女の海に下りたらどうなるかわからない。
そう思っているとオルタシアが駆け寄ってきて俺だけの耳元に囁かれる。
「ユウト様はまず国王様にご挨拶をお願い致します」
ひそひそと話された耳がこそばゆい。
「ユウト様~」という声に後ろ髪を引かれながら俺はオルタシアに着いていくと舞台裏から廊下に出た。
今度は普通のサイズの廊下だった。
「ああ、一気に静かになりましたね……」
ほっと安堵すると同時に一気に張り詰めていた糸が切れて気が遠のく。
美少女からの視線も結構緊張を強いられていたようだ。
「ユウト様は今まで女性の経験はおありでしょうか」
「はあ、全くないです」
「申し訳ありません、確かにそういう条件で召喚したのですがユウト様だけは際立って美形でしたので少し疑ってしまいました」
「美形ですか? この俺が?」
自慢じゃないが年齢=彼女居ない暦プラス、自他共に認める不細工である……。
母親にあんたは父さんに似て生まれてしまったのよと言われてショックだったことを覚えている。母さんは美人なのに俺はその遺伝子をナノ単位ですら受け継げなかったと打ちひしがれたものだ。
その俺が美形? この国の価値観は一体何がどうなっているのやら。
「さあ、お入り下さい」
いきなりベッドとかあったら逃げようと心構えしていたが、どうやら扉の雰囲気からするにただの個室のようだった。
「……」
だだっ広い空間の中央に立つ男は肩幅が滅茶苦茶広く、重そうなマントを羽織って仁王立ちしていた。
視線が卑しく俺を値踏みしている。
男の背中にテラスが見えるところを見るとここは会場の上にある部屋みたいだ。
「そなたがサクラギユウトか」
「え、はい……」
石畳を少し歩いて近づく。
どうやら俺は王と対峙しているらしい。
少し気後れしてしまう。
「我はこの国の王、ルグストラ・パナーンである。そなたに是非、我が娘をもらい受けて頂きたい」
どういうことよ?
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