第14話 寝坊と嫉妬
やばい! がばっと起きた私。寝坊した! 昨日自分は試合に出ないのにやたらと緊張して眠れなかった。
急いで着替える。え? 制服? 応援だしいいか。スケッチブックとお弁当と水筒、ああ、時間が。
慌てて外に飛びだし、ああ、場所の地図! もう一度家に入り部屋に戻る。
息を切らして試合会場を探す。やっとみつけた。あ、あれ? もう試合ははじまっているが、コートにも控えの場所にも応援席にも涼の姿はない。え? どこ? 会場内をぐるっとまわってやっとみつけた。木陰で寝転んでいる涼を。なにしてんのよ。
近づいて行くと女の子が見えた。涼に何か話かけてる。私はクルッと回って涼に背を向ける。どうしよう感じたことのないこの胸の痛みと熱く燃える気持ち。嫉妬か。ただ話かけてるだけなのに。私って嫉妬深い性格なんだな。あの制服ってどっかの女子高だったような。今日は女子も試合なのかな。
フーッと息を吐いて気持ちを持ち直す。クルッと振り返り涼の元に向かう。さっきは帽子でよく見えなかったけど、やっぱり涼だった。その子と話す為に起き上がったみたいだった。
「涼!」
声をかける。女の子に早く離れて欲しくて。
「凛! 遅いよ!」
女の子は何か行って去って行った。
「寝坊しちゃって。なんで試合会場にいないのよ?」
「控え、補欠なんだよ。順当にいけば出番なし。何かやる気なくなって」
「怒られるよ。試合応援しないと」
「凛もこないし」
チラリと見ていう。遅れた私が説教してどうかと思うけど。
「佐々木部長に絶対怒られるよ。そんな拗ねた子供みたいなことせずに行こう。ね」
手を差し出す。涼はその手を取りひっぱる。
「あ」
当然私が引っ張られて転ぶ。私は涼に乗りかかるかたちになる。
「もう」
「さっき、嫉妬して声かけたの? こっち見てから向こう向いてた」
ああ、さっきの私を涼に全部見られてた。
「あ……うん。どうしようか考えてたの。知り合い?」
「さあ、向こうは俺のこと知ってたみたい。頑張ってとか言われて。今日試合するかわかんないから返事に困ってたんだ」
何? ファン? 中学の同級生かな?
「凛走ってきた? 汗だく!」
涼は私の背中を触ってくる! もう!
私は体制を整えて座って涼にもう一度言う。
「試合観に行くよ!」
「じゃあ、嫉妬してた?」
「してた。ほら、行くよ」
今度は腕を取り引き上げる。
「わかったよ」
試合は二試合目に入っていた。緊迫した試合を後ろで見ていたら、先輩達が涼と私も前へと呼ぶ。あ、そうか、スケッチだ。
交代の隙間をぬって二人で前へと行く。すごいやっぱり試合だ。私は描いて行く。と、ふと頭に帽子が乗せられた。
あ、そういえば、朝急いでいたから帽子忘れて来てたんだ。みると佐々木部長がかぶせてくれたみたいだ。軽く会釈でお礼がわり。声は出せそうにない。
部長は試合に集中してる。佐々木部長も帽子はかぶってるから、予備の帽子なんだろうな、これ。
白熱した試合だったけどそこまでの接戦とはならずに勝てた。
私はいいものが描けそうで、ワクワクしていたが隣の涼は無言だった。無言でコートを睨みつける。
次の帝流学園との試合はお昼後からだった。私は涼とさっきいた木陰にいった。気持ちいい風が通る絶好の場所だったから。
「いただきます」
「……」
「涼! もう拗ねない」
「だって出番なしって。せっかくユニフォーム着てるのに」
わからないでもない。
「聞いてきたんだけどね。噂好きな友達にね。親善試合だけど相手がどんなだか興味あって」
「たいしたことなかったじゃないか。さっきの試合」
涼にとってはたいしたことない相手になるんだな。先輩達が楽勝とまではいかなかったのに。
「さっきの学校じゃない、次が本番なのよ。そのためにうちはここに来てるって」
「え!?」
「次の総体に向けて相手を知るために今日の試合があるって。地区大会の一番の強敵はこれからやる帝流なんだって」
「でも、なんで? なんで。総当たりで部長と同じく無敗の俺が控えって」
「部長を控えにする訳にはいかないからじゃない? それで、涼を控えにするのは、持ち札を隠しているんじゃない?」
「隠している……か」
言葉を噛みしめるように涼はいった。
「そう、勝敗が関係ない親善試合だからできる事。次からは全力でやらないといけないからね。あくまでも帝流学園を意識してのことじゃない? 今日でなくて、本番に涼を出せるって」
「それ、凛の分析だろ?」
「なによ。いいでしょ。ほら機嫌直して食べよう。ここ気持ちいい」
「そうだな。もう、いいや。一年でこれ着てるだけで」
「なに、その開き直りは」
良かった。機嫌が直って。誰でも納得出来ないだろう、掴み取った地位につけなかったんだから。
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