第2話 彼の正体
この疑問は翌日たまたま移動教室の為に廊下を歩いてて判明する。やっぱり一年生だったんだ。彼はC組の教室にいた。なんでテニスラケット持ってたの?
放課後になり、今日はスケッチブックを持っているので、そのままテニスコートへと向かう。彼は来るんだろうか。
テニスコートには、ぞろぞろと着替えを済ませた部員が集まってきて居た。
私を見た途端、昨日の一年生が慌ててネットを用意してくれた。
「ありがとう」
と、一声かけてベンチに座る。動機が不純なだけに申し訳なさが溢れてくる。
「君って、何?」
また後ろから声をかけられた。あの部長ではない。慌てて振り向くと、彼がいた。
「え、何って…」
「美術部員だ。気にせず練習しろ。まずは着替えろ」
部長またいたんだ。彼の後ろには部長がいた。
「はい」
ちょっとふてぶてしい言い方。素直な一年生とは程遠いな。
「なんとか凛……」
「小林です」
なんで下の名前は覚えてるの。
「ああ、そう小林。今日は帽子持ってるのか。昨日、焼けて顔が赤いからもう遅いかもな」
私の答えなど聞かず、さっさと奥の部員の元に行ってしまった。あー、もう。顔が赤いのは昨日のせいじゃない。話かけられたからだ。近づくには、この方法しかないって思ったのに、実際うまくいくと、戸惑って何も言えなかった。そんなに赤いの? 私は帽子を深くかぶる。
ダメだ。なんで彼ってラケット持ってるの? 一年生は基礎トレーニングばかりで、あとは球拾い。彼も同じだ。
これじゃあ絵に描けないよ。仕方なく他の部員を描くしかなかった。
そんな日が何日か過ぎて行った。桜もすべての花びらを落とし、枝の間には青空が広がってる。少し慣れてきた学園生活だけど、彼との距離は全く縮まらない。早くしないと、絵も描かないと。
今日の放課後、テニスコートはいつもと違っていた。ホワイトボードが出されていて、そこに名前が並べてあった。どうやら、レギュラー争奪戦のようだ。あ、あれ? そこには彼の名前があった。人数は二年と三年生全てより少ない。一年生で球拾いしかしてない彼の名があるわけない、はずなのに……。
確かに彼はテニスラケットを毎日持ってくる。使わないのにって毎日、私は思っていた。
あ、ちなみに彼の名前は部長やその他の部員が呼ぶので知っていた。サエキと。
レギュラー争奪戦にあるのは佐伯涼。みんなはサエキ、サエキと彼を呼んでるんだから、同じサエキはいないだろう。
おっと、テニス部じゃない、私がボードを見つめ過ぎていた。慌てて、定位置に座る。もうすでにネットは用意されてるし。ごめんなさい。いつも用意してくれてる二人!
前に描くものがないから、後ろの話を聞いててもいいだろう、部長の話がはじまろうとしてる。
「部長、なんで一年生の佐伯の名前があるんですか!」
トーナメントから自分が外れたのか入ってるのか、彼が二年生や三年生を押し退けて名前があがっているからか、部長の発言前に声があがる。
「佐伯は前の学校でレギュラーだったそうだ。ほとんど在籍していないので、中学からの引き抜きだったんだろう。というわけで先生の判断でレギュラー争奪戦に名前を入れている。不服な奴も多いと思うが、そう思うなら佐伯に勝て」
ちょっと、いやかなりのざわめきがある。
「我が部に入部する前に、津島と佐伯が勝手に試合をして見ていただろうが、気にせずいつものようにやってくれ。次は毎年恒例の親善試合だ、関東大会に出るなら必ず勝たないといけない相手だ、みんな気合い入れてやってほしい。以上だ。それぞれコート準備しろ。あと、佐伯ラケット持って来い」
ここのテニス部って強いんだろうか? 全くの運動音痴の私には見ていてもさっぱりわからない。
だけど、あの時テニスコートから出てきた彼は、津島という先輩に勝っていたんだろう。その話が出た時にみんなに緊張が走ってた。
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