大空の希望
來紀
第1話 福岡空港へ…
『ANA3575滑走路34への着陸を許可する』
『JAL302滑走路34への移動を許可、タワーの周波数へ変更せよ』
管制塔は忙しく、管制用語が並び事故のないようにしっかり支持していた。
俺もその1人である。
『SKY866E4より早く出てください、後続機が来ます。そのまま福岡グランドへ周波数を切り替えてください。』
今日は天候が悪く太宰府側(滑走路16)への着陸ができず市街地側(滑走路34)からのILS進入となったためニアミスなどあれば大惨事は免れない。そんなことがある可能性のある日に新米2年目記念日の俺が指示を出していることに心拍数が上がり緊張し無線のスイッチにかかる左手の親指が震える。
『福岡タワー、こちらDAL1664着陸許可はまだでしょうか?』
一瞬ぼーっとしていて許可を出しそびれていた。
『DAL1664すまない、横風が強く先方機からゴーアラウンド(着陸やり直し)があったため風が弱まるまで上空待機してください。福岡ディパーチャーへ周波数を切り替えてください。』
今日は台風が近づいており毎分毎秒に風が強くなり視界が悪くなる。
市街地からの着陸が危険な今日にもっと危険な条件が揃い始めているためデルタ航空の着陸を拒否してしまった。
これは怖さからだ。
「來紀、その判断は正しい。全機へ通達しろ、空港閉鎖だと。」
後ろの統括席から大館統括管制官から支持があった。
「は、はい!分かりました…」
俺が訓練生の時に指導を担当してくださっていてレーティング(管制するための国家免許)取得まで毎日のように怒られ続けていたため俺の指示に賛同してくれたことに恐怖感を持ってしまった。
『全機へ告ぐ、福岡空港は台風により滑走路を閉鎖中である、繰り返す、福岡空港は滑走路閉鎖中である。燃料の少ない航空機はダイバート(代替空港への着陸)を、燃料に余裕がある飛行機は空中待機してください。』
震える親指を無理やりスイッチから剥がした。台風の目は空港に直撃する進路をとっていた。5時間はこのままかもしれない……そう思っていた時、一機の航空機が無線交信を行ってきた。
『福岡タワー、こちらJAL865機内で急病人が発生、着陸を求める』
その無線が入ってきた瞬間、どうしよう…、と迷ってしまった。
その時大館統括が割って入ってきた。
『JAL865こちら福岡タワー、例外だが着陸を許可する、使用滑走路は34、ILS進入で着陸せよ、風は横風20ノット』
滑走路封鎖を覆す指示だった。
俺はそれをただ単に見ているだけだった。
それからは近づくごとに大館統括が風の情報を送り続けた。
飛行機は大きく揺れながらも着陸に成功した。
『JAL865、スポット60に救急車を準備している。他のタキシング機は止めてあるからノンストップで行くように』
大館が付け加えるように最後言った。
『最後まで情報をありがとう、協力に感謝する、JAL865』
私はずっと大館統括の背中を見ながら唖然とするばかりであった。
この日は私達が勤務中に封鎖を解くことはなかった。
「今日の勤務はここまで、明日は台風一過で16を主に使うことになるだろう、來紀!」
「は、はい!」
「それまでに迷いを断ち切ってこい。天満宮に落とされたらたまったもんじゃねぇからな。」
この会話にアハハとみんなは笑っていたが俺だけ苦笑いにとどまった。
「そうだ、忘れてたが新たな訓練生が明日来るから、柳!お前に教官任せた。」
大館が指名したのは柳さんだった。
大館班どころか福岡空港の管制部に数少ない女性管制官だ。
「分かりました。」
柳さんはその一言だった。
「これでブリーフィングを終わる、みんなお疲れさん」
みんなが一斉に帰る準備をしはじめた。
俺はため息をつきながら家路についた。
「ただいまー、おかえりー」
一人暮らしによくある寂しい言葉掛けだ。
夕飯は買ってきたコンビニ弁当。
明日は昼から空港出勤だから早めに寝る。
彼女無しの俺にはおやすみと言える人は親しかいない。
寂しい管制官になった2年目記念日だ。
注釈
JAL…日本航空
ANA…全日空
SKY…スカイマーク航空
DEL…デルタ航空
これらの後に付いている数字は便名です。
例:JAL865…日本航空865便
福岡タワー…離着陸を担当するブース
福岡ディパーチャー…離陸後の目的地誘導を行うブース
福岡グランド…着陸後のスポットへ向かうまで、離陸前のスポットから滑走路へ向かうまでを担当するブース
今回出てはいませんが今後出しそうなので説明しておきます
福岡デリバリー…主に目的地までの飛行経路を出発前に確認するブース
福岡アプローチ…福岡空港を目的地とする飛行機を空港へ誘導、タワーへの引渡しまでを担当するブース
福岡コントロール…空港管理(デリバリー・グランド・タワー・アプローチ・ディパーチャー)外の空域を担当、出発地のディパーチャー後、目的地のアプローチ前までを担当する(これだけは空港外で管理)
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