王様の娘が俺の彼女になるそうです。
七詩のなめ
第1話 プロローグ
この世界に生きる一プレイヤーとして、世界とは、人生とは、一種のゲームだと説く。しかも、復活なし、ステータスに大きな差ありのデスゲームという無理ゲーだ。
総プレイヤーは優に七十億を超え、そのほんのひと握りが実質的なプレイヤーという最初から職業を決められているRPGで、途中からのジョブ変更はできない。
これを理不尽と呼ばずしてなんと呼ぼうか。
そんなデスゲームの中で、俺、
「……今日も遅刻かよ」
その言葉に悪びれは見当たらない。心から漏れた独り言のようなことを言ってから、俺はゆっくりと立ち上がる。
そして、足元で伸びてしまっているヤンキーたちを見て、再び溜息を着いた。
2020年、世界は日本を中心として大幅に壊れた。まず、関東を襲った大地震。次に日本最大の山、富士山の噴火。そして、それらの影響による全国での原子力の爆発。
そのせいで、日本は東西南北の四つの島に分裂した。北は北海道と東北地方、南は九州地方と四国地方、西は関西地方、東は関東地方と中部地方、となんとも綺麗に分かれた。
もちろん、日本だけが被害を受けたわけではない。日本が被害を受けている時、アメリカとロシアでは些細なことから再び戦争が勃発。それは日本を除いた全世界を巻き込んだ戦争で
とまあ、こんな感じで2020年は地獄の年と呼ばれているのだが、時は進み2050年。日本は四人の国王を定め、四つでひとつの国として制定された。
ここまでが今までの大まかな歴史だ。国王制定から50年が経った今、俺たち若者と呼ばれる人の一部に特殊な能力を持つ者が現れ始めた。
と言っても、超能力ではない。言うならば、第六感のその先の能力。大昔に人々が行っていたものの真髄。『魔法』や『呪術』と言ったファンタジーなものだ。
人々は魔法や呪術を『魔術』と呼び、それを使える者を総じて『魔術師』と呼んだ。
「それにしても、俺の出席日数も大分怪しいな。進級……できるのか?」
ヤンキーの山を降りて、既に遅刻してしまっている学校に向かって歩き出しながら、俺は他人事のように言う。
路地裏を今まさに出ようとしているところで、俺は妙な違和感を感じた。それは、何かを忘れているような……否、何かを感じ取ったような違和感だ。
足元にあった小石を掴み、路地裏から大通りに出る境目に向けて投げた。
すると、小石は境目のところでバチバチとスパークを起こして、煙を上げながら地面に落ちた。
どうやら、『結界』が張ってあるらしい。
『結界』というのは、外と内を引き離すもので、簡単に言えば見えない壁を作り、勝手に外と内という境界を作り上げることを言う。そして、外と内に分けられた場所は、術者が開放しない限り境界が消えず閉じ込められる。今で言えば、裏路地と表通りの境目を境界として結界を張っているという感じだろう。つまり、俺はこの裏路地から出られなくなったというわけだ。
一体どこのどいつだよ、と落胆していると背後から若い男の声がした。
「き、貴様! 貴様のしたことは警察である私が目にしたぞ!」
……え、待って? これってやばくない?
俺は警察と名乗る若い男を見て、しばし自分のしたことを思い出す。
まず、俺はヤンキーに喧嘩を売られた。そして、なし崩しのように喧嘩を買い、勝利した。すると、学校のチャイムが鳴り、遅刻してしまった。そして、それを見ていたらしい警察官が俺を威嚇している。
で、今のこの状況になる。
現状、ヤンキーたちはすべて伸びてしまっている。どう考えても状況説明をしてくれそうにない。それに、この警察官は魔術が使えるようだ。
……マズくない? 俺、魔術は使えないんだけど。
逃げようにも結界があって逃げられない。相手は魔術師だし、俺は一高校生だ。どう見繕っても戦力差が埋まらない。
うむ。困ったぞ。非常に困った。
俺が考えていると、警察官が呪符を手に持ち警告してきた。
「動くな! 貴様はもう逃げられない!」
「待て待て。俺は被害者だぞ? てか、動くなって言われて動かない奴はいないだろうが!」
言って、俺は結界とは逆の向き、警察官がいる方向に走る。それを見て、警察官が呪術をするために構える。
俺は、別に戦うわけじゃない。むしろ、戦うことができない。警察も無条件に呪符が使えるわけじゃない。このまま警察官の横をすり抜けて逃げる!
そういう算段で逃げようとすると、警察官は俺の考えとは反して呪符を容易に使ってみせた。
呪符が俺の体に触れ、膨大な力と変わって俺の体に電撃を走らせた。
「がっ」
電撃をくらった俺はその場に倒れこむ。全身からビリビリと残留している電気がスパークを起こしていた。
ていうか、俺は一般市民ですよ? こうも簡単に攻撃されちゃ困るんですけど……。まあ、警察が罪人に手加減をしても、それはそれで困るのだが。
というよりも、警察の方は俺を罪人と勘違いされているようですが、さっきも言ったけど俺は被害者ですよ? 喧嘩を売られた挙句、恐喝されたのでボコボコにしただけですよ?
……もうね、どうすればいいわけ?
俺は全身から煙を上げながら、ゆっくりと立ち上がった。
「なっ……き、貴様、何者だ! さっきの電圧は数時間は起きられないものなんだぞ!?」
そんなもの人に向けて放つなよ!
俺はくらくらする頭でそう叫んでから、攻撃されたことと今日の不幸で溜まりに溜まったストレスが爆発寸前になるのを感じて、ふぅっと息を吐く。
そして、
「かなり痛かったぞ? てか、スゲェムカついてんだよ。いい機会だ、少しだけ本気を見せてやるよ」
俺は両目を瞑り、片目だけを開いた。すると、視界はさっきより少しだけ黄色くなり、体にも異変が現れる。
まず、半透明な耳と二本の尻尾が生えている。そして、体に流れる膨大な力がさっきまでの俺とは思えないような雰囲気を醸し出している。
警察もそのことに気がついたのか、警戒を強めている。ふと、警察官が俺の顔を見て、ハッと何かに気がついたような顔をした。
「黄金の右目……そうか! 貴様、憑き物だったんだな!」
憑き物。それは魔術で人ならざるものを人という器に封印し、それを力として利用する人のことだ。力を利用する際のデメリットとしては過度な疲労と目の色の変化くらいだろう。俺のように体に変化が出るのは希のようだが、決して少ないとも言えない。むしろ、体に変化が出るほどの強力な化け物を体に封印していることになり、警戒が深まるのだ。
ただし、憑き物とは文字のごとく、ただの物だ。決して人としての扱いはされない。
でもまあ、それがどうしたって話だけどな。
俺は利用できるものは利用するし、利用できないものは無視するような男だから、人としての扱いをされないことに関して微塵も不満を持ってはいない。
それどころか、この力は利用法さえ間違えなければかなりのプラスになる優れものだと思っている。
そういうこともあって、俺は『普通』ではないのだ。
「憑き物め! ここで祓ってやる!」
そう言って、警察は俺に呪符を再び投げつける。しかし、俺はそれを目にも止まらないスピードで避け、警察の背後をとった。
さて、どうしてやろうか。殴るもよし、蹴るもよし、殺さなければ後で何とでもなる。
手始めにぶっ飛ばしてやろうか。
そう思っていると、空から雷が落ちた。晴れ渡る空から、だ。
力を解放していると特定の能力が身につくので反応できたが、警察は反応できていない。
このままでは雷に全身をこんがりと焼かれてしまう。そうなれば、ただでは済まないだろう。
「くっ、間に合え!」
地面を蹴り、警察を突き飛ばしてから俺が逃げようとすると、足元にあったゴミにつまずきその場で転んでしまった。そして、光速で向かってくる高圧の電気エネルギーが俺をこんがり肉にしようと迫ってくる。
あ、俺もこの電圧は死ぬわ。
後悔先に立たず。まったくもってその通りだ。こうして、俺は雷に打たれ、死んでしまうのだろう。そう考えていると、数刻経っても雷はいっさら俺の体を貫いては来ない。
痛みを感じる前に死んだのかとも考えたが、現実はもっとすごかった。
栗色のセミロングの手入れされた髪の毛、甘い香り、可愛らしい容姿をした少女。そして、少女が抑えていたのは先刻まで俺を貫こうとしていた雷だった。
「あはは♪ 危ない危ない。もう少し遅かったら君を貫いていたところだったよー」
おいおいマジかよ……。
こんなとんでもないことが、不出来な俺と上出来な彼女との最初の出会いである。
そして、この出会いが世界の転換点だったことを、今の俺はまだ知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます