音楽の海の中で

どくどく

音楽の海を泳ぐ

 GWゴールデンウィークの一日、その日の目覚めはスマートフォンのアラームではなく高らかに響く管楽器の音だった。

 すでに日はのぼり、窓から差し込む太陽の光。五月の心地良い青空にリズミカルな音楽が響く。それは少しずつテンポが上がり、その熱が加速していく。

 昨日飲んだお酒を浄化するように紙パックのジュースを口にしながら、今日が何の日かを思い出す。


『高槻ジャズストリート』


 高槻の町で開催される町おこしイベントだ。GWの二日間、高槻の街中にある公民館や公園などで行われる音楽ライブ。街そのものが音楽会場となる、と言っても過言ではないほどである。

 ジャズストリートとあるが、音楽はジャズだけではない。ラテン系の明るい音楽が流れることもあれば、ゴスペル系の静かに心に染み入る音楽が流れることもある。プロばかりではなくアマチュアバンドの参加もあるのだ。

 運営はすべてボランティアで行われており、これら全てを無料で聞くことが出来るのだ。

 心は既にお祭りムードだ。身だしなみを整え、音楽の海にダイブしよう。


 ジャズストリートの行われる範囲は、大雑把に言ってしまえばJR高槻と阪急高槻の近郊だ。

 主だった会場は駅近郊のイベントホールや公園などだ。駅を降りてすぐの広場や電車の高架下と言った音の反響がいいところもあれば、音響施設のある喫茶店やBARもあり、デパートの屋上と言った場所もある。

 変わった会場をあげれば、神社の境内や教会といった場所だろうか。博物館や大学の資料館と言ったところもあった。

 どこを歩こうとも耳に聞こえる様々な楽器の音。そして祭りの喧騒。まだ日は中天に至ってないのに、街の熱気は上がり続けている。パンフレットを片手に、さて何処に行こうかと頭を悩ませる。

 恥ずかしい話だが、音楽には疎い。ゲストミュージシャンとして様々なミュージシャンが参加しているのだが、そのほとんど――白状すれば全員――聞いたことのない名前だ。

 だが、それでも楽しめることは知っている。


 音楽は人類共通の言語だからだ。


 ジャズは八〇年ほど前にアフリカの音楽感覚と西洋音楽が融合して生まれた物だ。人種や文化といった垣根を超えた物。素晴らしい事を素晴らしいと受け止める当時のミュージシャンが生んだ文化の融合。

 当時の時代背景を想像すれば、その壁は高かっただろう。それに比べれば、無知という垣根など実に小さなことか。否、『知らない』からこそ未知の楽しみがあるとポジティブになれる。

 飲み物を購入し適当な会場に足を運ぶ。幸運なことに、演奏は始まったばかりのようだ。

 音の波が会場を包みこむ。

 楽しいという感覚が溢れ出る。

 このミュージシャンがどういう人かなんてわからない。楽器の種類なんてわからない。ジャンルなんてわからない。全てわからない音楽の海。その海に身を委ねる。体の芯がビリビリと震えるのは、音の振動かはたまた心の震えか。

 

 この日、高槻市は音楽の海に包まれていた。

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