ツクルトキ
Ezaki Malc
第1話
鈍い音が響く。
それは今までに何度も聞いた音だった。
またか、と思うと同時に腕に着けた端末に話しかける。
「警察にかけてくれ」
了承の合図の電子音が聞こえた後、三コールで繋がった。
「飛び降りだ。処理してくれ」
それだけを告げて通信を切る。これで十分に事が足りる。
些事に構っている暇はない。そう思い、私は足を早めた。
「ただいま」
マフラーとコートについた雪をはらい、手作り感溢れるコート掛けにそれらを掛けていく。すると、パタパタと玄関まで走ってくる音が聞こえてきた。
「おかえり~」
そのままの勢いで抱きついてきた夏奈を両腕で抱き止める。
「お外はどうだった?」
夏奈はキラキラした瞳でいつものように聞いてくる。
「寒かった」
少し思案してから私がそう告げると、
「それだけ?」
「……雪が降っていたな」
すると、不満げな表情をした夏奈が先ほどまで着ていた私のコートを指差した。
「そんなの、それ見ればわかるもん」
夏奈が指差したコートには、はらっても落ちなかった細い雪が載っていた。
そして、私はいつものように
「いつもと変わらないよ」
そう言うと、夏奈は頬を膨らませた。
「むぅ」
夏奈を床に降ろして、飛びついた拍子に土間に落ちてしまっていたスリッパを拾い上げる。
汚れなどが付いているように見えなかったが手で軽くはらって夏奈に渡す。
夏奈は微笑んで、
「ありがとう」
いつものように私にそう言ったのだ。
ツクルトキ Ezaki Malc @ezaki_malc
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