その7 白星(しろぼし)
「スクナライデン!!」
大空に
頑強さを強烈に伝える太く逞しい四肢。
人間とは異なり胸、腹、腰と明確にブロックの分かれた体幹も、等しく
武人の兜を縦に押しつぶしたような形状の頭部は首にめり込んで据わり、頭頂部からは槍状の角飾りがまっすぐ伸びる。
双眸が放つ橙色の光は、タメエモンの闘志の表れだ。
全身をくまなく覆った
「なあ、あの声タメエモンじゃね?」
足元で名乗りを聞いたトハギは、響いた声色が覚えのある男のものであることに気付いた。
「タメエモンだ。すげえ!」
スクナライデンが構築された時点で大はしゃぎだったナモミが更に興奮。
一時はうろたえたタメエモンであったが、漸く
「おうとも!
残響する声を残し、白金のメタルソップ型力士が大地を蹴った。
ただそれだけの造作もない動きで、大地は揺れて家屋がうねり、地下で埋め火が爆ぜたかと思うような地響きが連続。
林の木々を易々と掻き分けて、超巨漢力士は駆ける駆ける。
「すごい、すごいぞ!これならあっという間だ!」
人間の十倍をゆうに越す巨人の歩幅にかかれば、
ほどなくして、先刻までは見上げても見上げ足りぬほどであった巨大魔者の姿が見えた。今はもう、同じ高さで目を合わせることができる。
「やいやい
「あらぁ?その声は粗末棒のカレ?
猛烈な地響きと共にやってきた白金巨人を見上げるゲバの口から、驚きと共に呟きが漏れる。
「
クァズーレの地上に生きる者には及びもつかない不可思議宝物『
人びとは特に強力で強大な『力』を具えたものを、
――ゆえに、
人智を超えた
それが、それらが、『
「
「おうよ!どういうわけか、移動神殿の女神様が力を貸してくれたのよ!」
「ルア様が……ああッ!?」
頭上から響く声を聞き、スクナライデンの全身の
「まさか、その
「タエル殿、すまんがおたくの神殿をちょいと拝借するぞ」
オークに鍋を借りたときと変わらぬ調子で断りを入れるタメエモン。事後かつ緊急時のため、タエルも泣く泣く了承せざるを得なかった。
「タメエモン殿!くれぐれも大事に扱ってくださいよ!」
「できるだけな!」
今日出会った戦友とのやりとりを終えたタメエモン=スクナライデンが改めて目の前の
<<
「なんだか知らんがやってくれい、女神様」
<<
どこか人間離れした少女の声に合わせ、白金力士の
機神は腰を落とし重心を確固とした後、突風のごとき踏み込みで眼前の
「グワワワッ!?」
ゲバとタエルの足止めを徐々に押して村へと近付いていた
太く逞しい両脚の爆発的な踏み込みと、背面に配置された
力の限り両腕を突き放すと、
「
よろめきながら立ち上がる
不意打ちに近い突進だったとは言え、強靭さには自身のある両脚で踏ん張ることすらあたわず押し返され突き放された。
巨体任せの怪力無双を自負する“彼女”にとって、それは未知の体験だ。
自身と同じレベルの体躯と力を持ち、更に加えて彼我の重心を巧みに操る
ゆえに、この巨大なる“井の中の
<<――“のこった!”>>
女神ルアの
突っ込んでくる
<<――“のこった!”>>
スクナライデン、巻きつく舌を残った左腕でしかと握り締めるや、蛙の巨体をハンマー投げの要領で振り回し。
「土手に叩きつけるつもりだ!巻き込まれない場所まで下がるぞ」
「すごい地響きですね……走るのもままならない!」
二大巨躯が立ち回る只中に居合わせたゲバとタエルは、味方である巨人の一挙手一投足に注意を払い右往左往だ。
ゲバの予想から間もなく、
たまらずスクナライデンの右腕から舌を巻き戻す。張り手解禁!
<<――“のこった!”>>
スクナライデン、右の掌底を巨蛙の下腹に叩き込み。低く鈍い音が響く。
「ゲロゲロゲローッ!」
強烈な腹張り手を喰らった
土砂崩れのような胃液に混じり、衣服を溶かされたメータが吐き出された。目を回しているが命に別状なし。救出成功だ。
「身軽になったワ……もう許さないわよォォォォッッッ!」
吐瀉物の沼が飛沫を放ち、
太陽を背に、上空。凄まじい蛙脚力で跳躍した巨大魔者はドロップキックの体勢に入っている。
「ぶつかりが怖くて、相撲ができるか!」
対するスクナライデンに、
身長数十メートル、体重100トンに迫る巨体を一瞬にして跳躍せしめる脚力がスクナライデンの胸板を打つ。
鉄塊が打たれる金属音が木霊して――スクナライデン、健在!真正面から受けた蛙脚をそのまま胴体で押し返した。
本日何度目かの大転倒からグロッキー色ありありと立ち上がる
<<――“のこった!”“のこった!”>>
その掌底が絶え間なく打ち込まれる度、巨蛙の厚皮からばぁん、ばぁんと空気を揺るがす音が鳴った。
「……!……ッ!!」
身を打つ張り手を総身に受け、もはや
突っ張りの脅威は、対象の表面ではなく内面に浸透することにある。
その実戦における有用性、破壊力ゆえに、源流を同じくすると言われる骨法においては『
スクナライデンの質量を最大限に活かした突っ張りは、巨大魔者蛙の頑健なる皮膚を浸透し、内なる骨格を、内臓を破壊するのだ。
*
巨体がのけぞり後方へ揺らいだとき、突っ張り連打はようやく終了した。
ぶよぶよの肉袋と化した巨体が、地響きを立てて文字通り崩れ落ちた。
対手が事切れたのを仁王立ちで見届けたスクナライデンは、右の手刀でおもむろに宙を切った。
四画の文字を書く動作である。
機神の所作を見上げていた僧侶タエルは、そこに何らか厳かな儀礼的意味を感じ、知らず溜息を漏らした。
「天よ、とてつもない“もの”をお授けになったのですね。とてつもなく大きくて、強くて、美しい『
輝ける機神力士の巨体は、さながら地上に燦然する白い星であった。
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