第42話最前線に
今日は色々あって疲れたな、ゼリー状の食事を食べて時計を見ると、十九時になったところだ。とりあえずハジメは大丈夫だったしログインしてみるか。
放置露店の兎串は売れていた、まあ一本だしな。しかし私の周りに多くの人が見える。この人たちはイベントに参加していないのだろうか? スクリーンショットを取っている音が多数聞こえる。
「お帰りなさい。感動しました!!」
「推薦出来ない詐欺だ、いくない!!」
「防衛ありがとうございました」
意味不明な発言もあったが、とりあえずハンガクにささやきをしてみる。
「えーす知り合いは大丈夫だったのですか? ああー良かったです。今はリンスドルフの北二km地点で待機しています。敵は来ていません」
死に戻りも含めて、数万のプレイヤーで最後の防衛をしているらしい。
バザー中にMPも回復出来ていたので北門側の冒険者ギルドのLVUP窓口に行く。LVUP後スキルを見てなかった。
お、あらたなスキルが候補に出ているぞ。
スキル名:必要経験値『スキルタイプ』スキルの内容
パッシブ 持っているだけで有効
アクティブ スキルを発動すると有効
[兎のふん二は変わらずなので省略する]
兎の餌三 :十万『パッシブ』
LV十以下の敵が寄ってくる、LVに関係なく敵が逃げなくなる
脱兎三 :十万『アクティブ』
PTメンバー全員用の脱兎、効果時間四秒、使用MP六
脱兎三は凄いな、きっと役立つだろうスキルを覚える。残り経験値三万強。とりあえず皆のところに戻ろう、脱兎二と脱兎で戻る。チョコは安全な時間に小走りで移動したようだ。
兎組のところに着くと、みんな一斉に挨拶をしてくる。
「「「おかええりなささい、かびっ信んおうくりどうしじらんどましたしれまん食べせましたいた」」」
うーんちょい惜しいな、もう少し練習が必要だね。状況を確認すると、最前線右側はボスとの戦闘に入り、左側はボスまで後二百mというところまで来ている。
そこまで行ったなら勝てるんじゃないのかと思っていたが、ボスの周辺や後ろにも多数の敵が居て、ダメージを与えてもヒールで回復されるし、ウォターベールでダメージは軽減されているし、HPもやたら多いらしい。
「いま、尻尻尻から連絡がありました。ザコイベントキャラの数を減らしに向かっているそうです。漁師チーム百人が、川を潜水して敵の背後に回る作戦です」
膠着したため、こちらも別動隊を出したのか。潜水スキルは水の中を早く泳げるため、一時間もすれば敵の背後に回れるらしい。時速三十km? なんだそれチートだ、チートだ、ずるいなまったく。
うーん、ここまで来たらボスも倒して勝ちたいな、それにエルドワの恨みも晴らし足りない。漠然とだが勝つための算段は頭にある。前線組に教えても良いが私じゃないと出来ないだろうしそれに兎組の面々で倒したいな。
「ボスの攻略の方法は頭の中にある、今ならPTメンバーも私と同じ速度で移動する事が出来る。どうするやるか?」
「「「うぉおおーーーやりましょう!!」」」
あっ揃った練習していないのにな。装備を若干整えて、私、ハンガク、前田、謙信、パート、チョコでPTを組む。残りの面々はここで防衛にあたる。
脱兎三で移動するとハンガクや前田は悲鳴をあげていた。謙信は最初から楽しそうに笑っていて、パートは落ち着いている、チョコは慣れたようです。
MP消費が激しいので途中MP回復休憩をする。パートが焚き火セットと大きなフライパンで料理を始めた。倒す方法は頭にあるが、どのようにして有効的に活用するか、使ったことがない装備の利用方法を皆で考える。
最前線の状況は死に戻り者が掲示板に書いているが、一番の問題は味方が後ろから数多く押し出してくるため、逃げ場が無くて倒される事が多いらしい。
もう少し前線を下げた方が良いが、後ろのメンバーは敵を倒したいのでどうしても前を押し出してしまう。ボスの後ろにも多くの敵がいてボスを支援するので、そいつらも倒さないとボスを攻略するのは難しそうだ。
また戦場で大声で話しかけても集中してもらえず、一部の人が後退しても他の人が前に行ってしまう有様だとか。
しかし、全く倒せない敵を運営が用意するだろうか? 別働隊とかずるい事もするけど、不親切ながらも攻略の方法やヒントを用意してくれている気がする。
「そういえばグリフォンから出たアイテムって攻略に関係しませんか?」
ハンガクに言われて、アイテムを出して眺める。
知識の書[八個]……経験値一万を入手
金塊[四十六個]……金の塊
鋭い鉤爪[五十個]……爪で捕獲するのに便利
うーん、知識の書は凄いレアだが今はいらない。金塊と鋭い鉤爪は加工出来るかもしれないと言って、ハンガクが何やらトンカチで叩き始めた。
「どうぞ。先ほどの休憩時間で分かった新レシピ料理ですよ」
パートが美味しそうな料理を出してきた。猪肉とニンニクとはなせ草で作ったスタミナ焼肉だ。
スタミナ焼肉……食べるとMPが二十回復する。
すっすごいよパートさん! 美味しくいただくが三人前食べたところで急に食べれなくなった。あれ?どうやら隠しパラメータで満腹度ってものがあるらしい。なんじゃそれ。余ったスタミナ焼肉をポシェットにしまう。
「ご馳走様。パートは良いお嫁さんになりそうですね」
と私が言ったら、前田、謙信、チョコが急に黙り込み下を向いたりあらぬ方向を見ていたり、いきなりシーンとしてしまった。なんだ? 言ってはいけない一言だったのか? ゲームと思って油断していた。
静かになったため、ハンガクのトンカチの叩く音だけが心なしか大きめに響く。女性に対して軽はずみな発言だったのかもしれない。会社では常に気を張って迂闊な発言をしないようにしていたのに。
しかしどの当たりが問題だったのだろうか、実はリアルが男なのに女性をしているキャラだとか、女性は家に入って家事をやってろ的に考えられてしまったとか、うむむむ。
「良いかどうかはわかりませんが、お嫁さんになった事はありますよ」
パートが発言してくれたお陰で若干空気が和んだ。ハンガクの顔がニヤけている。あまりのだらし無さに作っているものも溶けちゃうんじゃないかと不安になる。
しかし意味深な言い回しだな。結婚しているなら「お嫁さんです」とか「結婚してます」だと思うんだけど、「事はあります」って過去形だよね。
離婚歴があるという事かな? あんまりリアルを詮索するのはよそう。でもバツ一、二なんて当たり前だから気にしなくても良いと思うんだけどね、私だってバツ一だしな。
「できましたー」
ハンガクが更に空気を変える一言を言ってくれた。で出来たものは、
金の矢/投擲槍……刺さると炎症し、数分間継続的なダメージを与える
投擲槍+鉤爪+鎖……相手に一度刺さると抜けにくい、刺さると継続的なダメージを与える
「尻尻尻から連絡がありました。川の中で対敵したそうです。相手も川から侵入していて、鉢合わせしたようですね。リンスドルフの川岸には、数百人ほど待機して防衛しはじめました」
ハンガクがトンカチを叩きながら現状を報告してくる。最後まで息が抜けない、相手も狡猾だな。
金の矢と金の投擲槍は十本ずつ、投擲槍+鈎爪+鎖は六本作成したところで、MPも回復したので移動を再開する。まだどれだけの効果があるか不明なので量産はせず、戦場に着いてから後のことを考えよう。
もう少しで日本時間二十時、ゲーム時間ニ十時になる、最前線についた。
目の前には数え切れない程、多分十万人に近いプレイヤーがいる。一部はボスと戦っているが、倒すことは出来ていないようだ。ボスは身長十m位ありそうなオーガ? でドンクルハイトという名前がついている。
このゲームの普通のオーガは三mくらいなので相当な規格外だ。矢や槍、その他武器が多数刺さっており人型ヤマアラシだと言われても納得するような有様だ。ボスはしぶといから、死ぬまで刺さり続けるので数が多いんだろうな。ちなみに、アイコンの横に大きくBOSSって書いてある。
しかし戦いたくても味方が多すぎて前線に出れない。打ち合わせ内容のひとつ、ヘルゲのローブの使い方をマスターするために使ってみる。その前に、
「アースワーク」「アースウォール」
アースウォールは高さが三mくらいになる。いきなりではとても登れないので、アースワークに登って、そこから更にチョコの肩にのってから登る。ここからだと敵がよく見える、よし。
「クライネサイレス」を唱えようとすると、対象を確認するウインドウが表示された。
“範囲”と“個別”があるので“範囲”を選択。通常対象を選択する時に表示される[]マークが、視界に入る敵に対して凄い速度で表示されていく、画面の上に数字らしきものが表示され、あっという間に六桁になり、数字がグルグルと回転している。
数字が止まった五十八万八千四百三十六と表示され、私の体から凄い数の光が敵に向かって飛び続ける。その光を見て戦闘をしていない多くのプレイヤーが何事かと振り返ると、高い壁の上から数多くの光を出し続けている私に目が止まる。
敵にクライネサイレスが掛かり、敵に状態異常を示すアイコン、白いマスクに赤い×印が付いている。敵の魔法や雄叫びが聞こえなくなり戦場には、最前線プレイヤー達の戦闘音のみが聞こえる。
ハンガクがささやきがきた「今がチャンスです」そして私が大声で叫ぶ。
「皆さん! 数百mほど後退して下さい。ボスと戦っている人達が避ける隙間がなく、死に戻りが多数出ています。敵の取り巻きが多くこのままでは勝てません。
それと、今なら大半の敵は魔法が使えません。回復や補助、攻撃などが滞るハズです。この間に体勢を整えましょう」
「「「「うぉーーーー!!!」」」」
大歓声が味方から上がり、最前線のプレイヤーは敵に対して攻勢に出る。そして、第二線、三線以降のプレイヤーは数百m程後退を始めた。ボスとの戦闘がしやすくなったように見える。
「ボスと戦っているプレイヤーは、ボスを前に釣り出して下さい」
しかし、このままで取り巻きが多すぎて回復されてしまう。そこで次の作戦に映る。えーと、
「左側の背の高い人、獣人キリンさんかな? そうそうあなた、左側でキリンさんの近くの人たちー、わざと前線に緩みを持たせて、一、~二万人くらい突破させてください」
左側の第二線~四線くらいのところもあえて隙間を開けることで、敵がそこを突破して南下していく。十分間程度たって、多分一万人くらいは突破したと思うので一旦穴を閉じる。
「アースウォール」
そろそろ二十分立つので隣の壁に乗り移る。ハンガクも壁に乗ってきた。どうやら作戦があるようなので、ハンガクに任せてみた
「注目! 敵の数を効率良く減らします! 先ほどのキリンさんの後ろに間隔を五m程開けて二列作ってください! そこに敵を通しますので横から倒してください。
ただし! 決して前を塞がないでください。前を塞ぐと敵が詰まって左右の列をはみ出してしまう可能性があります。最悪倒せなくても良いので移動は絶対に止めさせないこと」
ハンガクの指示により、キリンの後ろに長さ一kmくらいの人垣が出来た。そして最前線のキリン付近のメンバーがあえて穴を開けると、そこを敵が飛び出していく。先頭の敵が八百mくらい進んだところで、
「はい。今です! 攻撃を開始して下さい。繰り返します正面には絶対に出ないで横からの攻撃だけにしてください」
敵が左右のプレイヤーによって倒されていく。倒された敵は直ぐに消えるので敵の移動の邪魔にはなっていない。中には数匹ずつくらい突破するものがいるが、あの程度なら防衛も容易だろう。
「やったー五百匹倒せたぞー!」
「私たちも達成できたー!」
「俺なんて一人で三百達成したぞー!」
左側の前線はだいぶ盛り上がっている。そこでハンガクが追加の指示を出す。
「注目! 中央のひとー、左と同じ事をします。えーと、そこの獣人サイっぽい人、そうあなた! あの人の後ろに二列、五mくらい幅を開けて並んで下さい」
中央でも同様に敵を倒すための列が出来る。敵はこちらの前線を突破するつもりで進むが、移動の途中で殆どの敵が倒されていく。多分このイベント中の最高の殲滅速度だと思われる。
他にも二本程、もう少し細くて人数が少ない列を作ったが、そこも効率敵に倒せているようだ。
しかし、ボスが前に出てこない。これではボスの後ろの敵がボスを回復し続ける限り、ダメージが蓄積できないだろう。ここはあれかな、ちょうど謙信と目があって謙信が頷いた。ほほー謙信も同じ考えかな、私も頷く。そして謙信が前を向き剣を構えた。
二分後、謙信は剣を構えたままで、それ以上の行為はしていない。どうやら認識があっていなかったようだ。
「謙信、前田、鉤爪槍を投擲して、ボスを引きずり出すぞ」
謙信と前田が、投擲槍+鉤爪+鎖を出して、投げつける。二本の槍がボスに刺さる。
「手が空いてる人は、鎖を引いてボスを前に出してください」
数百人がボスを引っ張り始めた。少しだけボスが前に出たが、ボスが重くてあまり前に進まない。しかし、それでも十数m位前に出てきた。これはいけるかと思ったらボスがうずくまって、大きく弾ける。
ボスに刺さっていた、矢、槍、剣などが一斉にプレイヤーに向かって降り注ぐ。最前線では死に戻りが多数出たようだ。ここからでも槍に数人が刺さって飛ばされる光景がみえた。これは迂闊に引き釣り出すわけにも行かなそうだな。最前線の人には悪いことをしてしまった。
ボスの取り巻きたちが前進して、ボスの前に割って入る。これはどうすればいいんだろう。
日本時間二十時半、ゲーム時間ニ十一時、効率的に敵を倒せてはいるがそれでも化物は数が多い。引きずり出すのも成功していない。更なる一押しが必要だ。
座ってスタミナ焼肉を食べながら、今後の方針を検討する。ハンガクの計算では、ざっくり一時間で約十万は減っていると推測した。
うーんそれだと、イベントは後三時間しか残っていないので二十八万匹くらい残る可能性がある。それに魔法の対象になってなかった敵だっているかも知れないので、もっと敵が残ってしまう可能性がある。おっ謙信が何か思いついたようだ。
「残り一時間になったら前線を穴だらけにしてしまえば、村まで届かないのでは?」
確かに徒歩の敵だけならそれで問題無いだろうが、ゴブリンやオークを乗せたライダーも相手の中に確認出来るので、ライダーなら三十分掛からずに村に到着する可能性がある。
私と一緒に槍で脱兎をする手は、皆のAIが飛び避けモードにしているので出来ないし出来てもMPの消費が大き過ぎる。となると、私一人で倒してくるのが効率が良さそうだな。
しかし二十~三十万の敵なんて倒せるのかな? ちょとどう考えても無理な気がする。しかし悩んでいる時間が勿体無いな。よし、
「私が一人で後ろの敵に攻撃を仕掛ける。ラスト二十分になったら前線に大穴をあけて敵を突破させよう、そしてローブの力で魔法を封じ込める、その間に皆は何とかボス戦を開始してくれ」
ここまで来たんだ、最後まで足掻いてみよう。
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