第28話新称号
日本時間九時半、ゲーム時間二十三時、エルドワと一緒にクローネシュタットを出る。アルミラージ狩れる場所に近づいたので、エルドワを街道の安全地帯に降ろす。
一時間かけてアルミラージを二十五匹狩り、荷物をエルドワに預けて再度狩りをする。もう一時間かけて二十五匹狩ったのでエルドワとエールラーケに向かう。
「本当に狩りだったのかよ」
一体何だと思ったのだろうか、同じことを繰り返し、日本時間で十二時半、ゲーム時間五時になったのでエールラーケで一旦落ちる。エルドワは暇になってしまう、申し訳ない。
追加で二往復して、クローネシュタットに帰る途中、花が多く咲いている所があったのでそこで休憩をする。ずっと暇だっただろうから女の子なら花とか好きかもしれないしね。
赤い花だけどツヅジかな? ツツジって日本だけじゃないのか。
そういえば花の蜜って甘いのかな? ゲーム内ならバイキンとかも無いだろうしちょっと吸ってみようかな。花を摘んで口元に持っていくと、
「おい!ばか!やめろ!死ぬ気か!」
エルドワが慌てて止めに入る。え? 死んじゃうほど危険な花なの?
「いや、多分死なないけど」
死なないのかよ! どうやら嘔吐、歩行困難、麻痺、呼吸困難などの症状を引き起こし、最悪死亡らしい。なにそれ怖い。摘んだ赤い花を眺める。
ドイツ鬼ツツジ……麻痺、呼吸困難、歩行困難、希に死亡
ヒィー、めっちゃ怖い。てかドイツって出ちゃってるよ。じゃあ、あっちの鈴蘭ぽい花も危険なんだろうか。摘んで眺める。
ドイツスズラン……目眩、心臓麻痺、希に死亡
いくらゲームだからって凄い設定だな。ドイツの人に怒られるぞ。何か使えるかも知れないので、摘めるだけ摘んだ。
大きめの蜂、いや鳩サイズの蜂が飛んできたので、思わず「クライネファイヤー」「クライネウインド」で攻撃してしまった。
「キラーホーネットを倒しました。経験値八十が入りました」
経験値高いな。これはヤバイ敵だった、早めに倒して正解だったかも。
「えーす、早く逃げるぞ。仲間が寄ってくるから」
ええ、それはまずい。エルドワをオンブして直ぐに脱兎で離れた。いやーいろいろあるね。
クローネシュタットで、エルドワにバイト代を渡して別れる。夕飯なので一旦落ちまーす。
日本時間十八時半、ゲーム時間十七時、もうそろそろ反省会が始まる。反省会を行う前に、最近お祭り狩りで知り合いになった人に料理をご馳走になった。
名前は“フルタイムパートタイマー”魔法使い、料理人、人間女性で二十才後半位のアバターだ。黒髪ストレートでセミロング? っていう位の長さかな。ちょっと綺麗なお母さんって感じだ。名前に付いては色々ツッコミたいが我慢しておく。
料理スキルがあると自動で味が付くらしい不思議だな。兎肉のサイコロステーキの肉が一切れ残ったので私が頂くことにした。お礼を伝えたら
「いつでもどうぞ。材料さえあれば幾らでも作りますよ」
うふって感じではにかむ様な動作をした。なかなか可愛い人だ。ハンガクが自分の革装備をかじって悔しそうにしている。
なんだ肉が欲しかったのか、食いしん坊なんだな。この前酒場を見かけたけど一人じゃ入りづらかったので、今度ご馳走するから一緒に行ってもらおうかな。
掲示板に書かれた情報や意見から、以下を試すことにした。
・生産組みと狩り組みに別れる
・狩りは複数グループに分かれて少し離れた場所で戦う
生産組みは、きこりが木を切り出し、猟師が解体スキルで動物の骨や羽を回収し、鍛冶屋が矢を量産。
農夫や手が空いている人は薬草や合わせ草などを回収。薬師が薬草やポーションを作成する。しかし、薬草ってどこに干すのだろう?
え? ギルドの屋上に干せるの? レンタルすると自分だけのパーソナルスペースになる、鍛冶や調合もレンタル部屋があってそこで行え、何万人でも借りれる不思議部屋があると。うん慣れた、慣れたよ。
だったらスラム街でやってる乾燥のやつは、これ以上は作らないでもらうかな。別の手段でお金も入っているし、生は継続して買い取れば困らないだろうしな。
ん、でも、それだと生産組は楽しくないんじゃないの? と思ったが、スキルの熟練度が効率良く貯まるらしい。
制作物は紳士協定で、狩りが終わったグループに提供したり、次回の狩りに利用する。
狩り組みは大きく四つの班に分かれる。ハンガク、前田、謙信、
各班は三百mくらい離れて大きな四角をつくる。その真ん中を私が走り回ると敵がどんとと湧いてくる。参加人数も減っているし、各メンバーへのコントロールも出来ている。
まだ少し物足りないが、一体感は出来てた感じがするな。私も多数の敵の攻撃を避けまくることで、どんどんと上達している気がする。どうしても避けきれない時は、
街に戻ると生産組が待っていた。矢の補充や料理が振舞われる。楽しいなあ。早く孫娘も来ないかなー。
料理を食べていると
「私も名前が長いので、お好きに省略して呼んでくれて良いですよ」
とのこと、しかし私は騙されない。先日ハンガクで一旦却下されたからな。妥当なところではパートか。
でも本人に拘りがある名前の部分があって、そこを丸まる削ったら納得して貰えないだろう。親しみを持たせたり、特別な感じを持たせるな違う名前もありかな。
“パーマ”ストレートなのに? “パイマー”なんかセクハラで訴えられそうな気がする。ニタニタしているとジト目で見られたので、パートにすることにした。
翌朝の月曜日、朝から夕方にかけてエルドワと狩りにいき、アルミラージを累計二百匹狩った。経験値二倍のアイテムを利用したので、それだけでも十五万二千になる。当然昨日も同じだけ稼いでる。
夜、ハンガクが兎革の装備一式をプレゼントしてくれた。装備してみると素早さが少しだけ上がった。走り回る私には大変嬉しい装備だ。代金を払うと言ったが、
「普段お世話になっているお礼の気持ちですし、自分の鍛冶スキル上げの一環で作成したものですから結構です」
と言って受け取ってくれない。とはいえ私のために時間を割いてくれたのに何にもお礼をしないというのもあれだし、普段こちらの方がお世話になっているので、昼間アルミラージ狩りで出た兎の涙一個を上げることにした。
「こんな高価な物受け取れません」
と一旦断られたが、
「ハンガク、私の気持ちだから[普段からお世話になっているので]是非受け取ってくれ」
と言って渡したら、
「っきっ気持ちデスカ! 気持ちなら仕方ないですね」
と理解して、喜んで貰っていた。その後、前田、謙信、パートにも一個ずつ上げた。皆喜んでくれたが、パートにあげるところをハンガクがみていて、自分の革装備を口にくわえて引っ張って、悔しそうにしている。
いやいや貴方には一個上げたでしょ。女性はゲームの中でも宝石好きなんですね。心のメモにハンガクは欲張りと書いた。
そういえば皆LV六になっていた。敵を集中して狩れるのが効率が良いらしい。ちなみに私は経験値がちなみに経験値は五十二万七千強、所持金は三千四百六十五万強だ。何か別の目的を見つけないと難しいな。
今日の昼間の狩りで経験値UPのアイテムが残り一個になった。またお詫び来ないかなー。
火曜日、エルドワに本日のバイト代を支払ったところで、称号が手に入った。
「称号:“エルドワの親友”を入手しました。“エルドワの友達”を削除し上書きします」
「称号:“限界を超えし者:仁”を入手しました」
おお、経験値で買わなくても称号が貰えるんだね、金で買ったんだね。自動で称号が切り替わった。
「えーす、ありがとう。大分蓄えも貯まったからこれ以上のバイトや買取は不要だよ」
なんだい、友達、いや親友なんだから水臭いじゃないか。とりあえず今ある在庫は後日購入する事にして、それで買取やバイトは終わりとなった。
“限界を超えし者:仁”
・MPを他の人に分け与えられる。
ゲーム時間一日に十回。毎日零時に回数がリセットされる。
・限界を超えし者の称号が取得可能になる。
意味がわからん。既に称号を得ているのに可能になるって、バグかな? でもMPが他の人に与えられるって便利そうだな。戦士はMP回復速度遅いからね。
夜、また集団狩りを行うのだが、交流が更に進み、武器や防具も材料を持ち合って作成したり、色々な事を協力しているようです。
最近は投擲槍を作り始めて、近距離武器しか持たないものでも、その場を離れずに遠距離攻撃が出来るようになったので、隊列がより一層乱れにくくなった。
ちなみに投擲槍は矢と同じ仕様で、ストック出来て繰り返し利用出来るが、何故か投擲しないとダメージが少ないらしい。変なの。
水曜日、装備に兎革を使うものが増えてきている。街中でプレイヤーが話している内容が聞こえたのだが、兎組と呼ばれているらしい。ハンガクもカリスマ性が出てきたのかも知れない。
木曜日、午前中はメンテナンスだったので、十三時からログインする。イベントに向けて幾つかの変化点があった。
駅馬車が出来たので、他の街との移動が楽になったようです。期間限定なのが意地悪いよな。
それとリンスドルフの一km先に、化け物たちが作った砦が出来て、三km先には半透明の薄い膜が張られそこから先に進めなくなった、イベント準備の一環らしい。
砦からはイベントと同じような敵が出てくる。その中には、BOSSと言われるタイプの敵も出現する。イベントまでに慣れておけという事なんだろう。なおイベント開始前までに倒すと、何かご褒美が貰えるらしい。なんだろう楽しみだ。
狩りに行って戻ってくるのも面倒だったので、エルドワから買い取ったもので調合をしてみる。持ちきれなかったので、調合に必要なもの以外は全て商会に置いてきた。
西門ギルドに入って生産用の部屋をレンタルした。一回千マールで一時間以内は出入り自由。一時間以上は時間無制限だけど、出たらそこで終了というものらしい。
薬草類を屋上に干すのは、一回百マールか部屋をレンタルすれば無料で干せるというので、屋上に上がってみた。体育館くらいのサイズなので屋上も広い。しかも棚が三段になっているので、幾らでも並べられそうだな。
生の薬草と毒消し草が千、合わせ草が二千あるが、これを一分で三十個並べたとしても一時間で千八百枚しか並べられない。よって、薬草と毒消し草を三百、合わせ草を六百並べる。
フント薬局で鍛えた手羽先、間違った、手捌きですごい勢いで並べていく。アタタタタタタ、オワッター。
生産部屋に入ると色々な道具が置いてある。裁縫道具、フライパンや鍛冶屋が使うような炉や、剣を鍛えるのに使う鉄の台のようなものまで、様々だ。
乾燥した薬草と毒消し草が五百、合わせ草が千あるので、それを使って調合を行う。薬草と毒消しを五十回調合して、二百八十個ずつの薬草と毒消しが出来た。
じゃあやる事もやったし、出ようかなと思ったら、出口のドアノブの近くに黒い物体が動いている。多分見た感じGだなデフォルメされているけど。なんでゲーム内でGを実装しようとしたのかは理解できないが、どう見ても、あの艶具合から考えてもGだ。
出口はあそこしかない。室内でクライネファイヤーを打ったらどうなるんだろう。もし部屋が破壊されたら弁償だろうか? まあ金ならあるから良いんだけど、懲役刑とか、あるいは死刑とかになったらどうしよう。
日本ならどうなるかな? お店に入ってGが出て、扉をぶっ壊したり、火で室内を燃やしたりしたら、損壊や放火になるだろうな。流石にそれは不味い、武器も全て置いてきている。
うむむ、と悩んでいると、カサカサって音が聞こえる。振り返ると他のGが机の上に乗っている。しまった、Gを見たら三十匹はいると思え! というお婆ちゃんの知恵袋的な何かを忘れていた。
扉のGが移動してくれないと出られない。しかも机の上のGにも気を張らないと殺られてしまう。カサカサカサカサ。更に音が聞こえる。部屋のあちこちからGが見える。
そうだよな一匹で三十匹いるなら、二匹見えたら六十匹は居るよね。じゃあ、今見えているGが仮に三十だとしたら、九百匹だよね。でも見える都度増えるなら、無制限じゃないのか?
アホなことを考えていたら、Gが一匹飛んできた。うぉおえええおお。飛ぶんかい! 素早くサイドステップで避けて回避が出来た。よしAIをいじっていて良かった。
一斉にGが飛んできた。ありえなーい。もの凄い勢いで体をダッキングしたり、サイドステップで避ける。感覚が凄く研ぎ澄まされていく。
Gの飛ぶ姿がゆっくりと見えてきて、もう回避するためためには、その動きしかないと言えるような、ギリギリな動きで回避を繰り返す。スローモーションの世界で音も静かになり、聞こえるのはGの動きの音と自分の音のみ。
しかし、敵の数は多く、とうとう服や鎧に付着する。慌てて手で払いのけるが払っときの感覚が気持ち悪い。払っても払っても、まとわりついてくる。
もう駄目だ頭がおかしく成りそうだ。そうだ死に戻りしよう、自分に
「クライネファイヤー」
を打ち顔が燃えるがダメージが入らない。何でだよ!
「クライネファイヤー」「クライネファイヤー」「クライネファイヤー」「クライネファイヤー」
を連発するが、全身火だるま状態なのにダメージが入っていない。
もうだめだー、と思っていると、Gに炎が燃え移り、あちこちで燃えながらヒクヒクしている。 部屋中のGに引火したようで、メッセージウインドウが表示される。
「悪の使いカーカーラックを倒しました。経験値六千が入りました」
何匹いたのか分からないが高レベルだったようだ。そして新たな称号を貰った。
「称号:“限界を超えし者:刻”を入手しました」
・時間の流れが十分の一に感じ、その間自分の速度は四倍になる。
最大十秒間。
ゲーム時間一日に五回。毎日零時に回数がリセットされる。
称号の確認もそこそこに、部屋を出てログアウトドアに向かう。ヘットマウントギアを外して、ダイニングキッチンの椅子に座り、テーブルの上に体を投げ出す。
今まで生きてきた中でこれほど嫌な瞬間はあっただろうか。ゲームで良かった。いやゲームの中なのにふざけんな!
ちょっとだけ横になろう。
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