第15話武器を買おう二

 日本時間十四時半、ゲーム時間九時だ。平日日中なのに全然ログイン出来なかった。だめだろこれ、もっとサーバ増強しないとダメだよ。あとで要望メールを出しておこう。


 気を取り直して、冒険者ギルドに向かう。冒険者ギルドに入ると閑散としている。兎肉と皮の買取を依頼した。

「肉が二千六百個で三十二万四千、皮が二千七百個で三十二万四千、合計六十四万八千だね」

「六十四万八千マールでよろしいですか? はい いいえ」

 当然”はい”です。相場を確認した結果、兎の死体は百八十、肉と皮は百八マールだった。一度に下がるのは最大二十位のようだな、大量販売した時に下がる限度額があるのかもしれない。


 他の品物の相場を確認してみた。兎の涙は百二十万マールで、ヤマアラシの針は一本十マールだった。どちらも売らずに取っておいた。


 武器屋が開いていたので品揃えを確認する。鋼装備が約四十万であるだけで、他はクローネシュタットと代わり映えのしない品揃えだ。


 初期装備の杖では攻撃力が低すぎる。少し強い敵を倒すのに何十回も叩くのは効率が悪るい。どんな武器でも良いから攻撃力が高いものに変えよう。

 武器を買うなら初期街より進んでいるこの街がいいだろう。先行投資だと思えば良いし、最悪孫娘にあげれば良いし。うふふふ。


「この店で一番高い武器ってどのような装備ですか?」

 獣人狸と思われるようなおじさんが、ジト目で見ている。そういえば、布装備一式に木の杖、どう見ても金が有るようには見えない。


「あのこれー」

 と言って、今持っている所持金をチラッと見せたところ、店員の態度がコロッと変わり揉み手になった。古そうな杖を持ってきた。


「これは高名な賢者が長年使っていた杖で、魔法による強化がされております。装備者が唱える癒し系魔法効果が二倍、火系なら一.五倍、それ以外でも一.二倍の効果があり、しかも消費MPは二割減される優れ物です」


「それは殴るのに使ったらどんな効果がありますか?」


「え? いや、こんな貴重な武器で殴らないでしょ?」


「仮にで結構なんですが、殴ったらどんな効果がありますか?」


「木の杖と変わりません」


「値段はおいくらですか?」


「はい!勉強させてもらって百億マールです」


「ごめんなさい買えません」


 どうやらこの狸、この武器を自慢したかったようだな。絶対売る気がない値段だったし。所持金を正しく伝え、その金額内で良さそうな武器を職業適性を気にせず持ってくるようにお願いしました。


「魔法使いの方であれば、先ほどのような魔法効果がかかっている装備です。大抵は魔法詠唱や効果の補助目的になっております。ですので、魔法を使わない事を前提にであれば、これらの商品はいかがでしょうか?」

 まず見せてもらったのは、モルゲンステルン。メイスで頭の部分が丸く、幾つもの刺が出ている。長さも八十cm位で扱いやすそうだし、与えるダメージも大きそうだ。四十万。


 次に見せてもらったのがフットマンズアックス。長いから槍の一種かな。先端は槍、斧、鉤爪が着いており、鎧や兜を装備した相手とも戦えるとの事。これは格好良くて気に入ったが、化物退治となると違う気がする。四十万。


 その次が十文字槍。すごく綺麗で美しいというのが第一印象。先端の刃以外の横から出た刃でも殺傷効果がありそうだ。これなら攻撃範囲も広くて少し離れた敵なら戦い易そうだ。でも接近戦が難しそうだな。少し興味を持って見ていると、


「この商品は大変お買い得です。魔法強化武器なのですが核となる部分が欠けています。修理すれば魔法強化がかかりますよ。お値段は破格の八十万です」

 魔法効果は取り付ける宝石の種類とレア度で効能が変わるらしい。ルビーは攻撃力が増加、サファイヤはHP増加、エメラルドは力が増加、ダイヤは防御力増加、等の効果があるらしいが、武器なのにHPや防御力が増加するのはおかしい気がする。

 ゲームだゲーム、ゲーム、うん全然気にならない。自分で強化したい箇所も選べるし、結構いいな買おうかな。


「そうそう。もう一つこの武器に特徴があります。魔法強化を最大限まで有効にしたため、魔法詠唱に殆ど影響を与えない仕様になっています」

 何それ? 魔法使いに最適な武器じゃないか。


「しかしながら、逆に魔法が良く掛かり易くなりますので、攻撃魔法が当たると、ダメージをおよそ二倍受けますし、癒し系魔法を掛けてもらった場合は二倍癒されます」

 何それ? 凄く致命的な欠陥じゃないか。これは諸刃の剣だな。本当は呪われた武器なんじゃないのか? 不良在庫を高値で売りつけるつもりなのかもしれない。更に悩んでいると、


「一旦使われてみて気に入っていただけたらお買い上げ頂くというのはいかがですか? 一度お金は頂きますが、返品していただければ全額返金します」

 なかなか良い提案だな。実際に試しみて気に入れば良いし、気に入らなければ返せばいいのか。でも返品期限はどうすればいいのだろう? いつまでって訳にもいかないだろうし。


「お試し期間はいつまでですか? 仮に気に入った場合、そのままクローネシュタットに戻りたいのですが」


「本日の営業時間内、十九時までお戻りなられない場合は、正式にお買い上げしたという事でいかがですか? はい、お買い上げありがとうございます」

 こいつ商売が上手いなあ。こちらの思考を読んで話す内容を選択しているんだろうな。ちなみに宝石の取り付けは鍛冶屋で行えるが、それなりの腕前が必要になるので、アイゼンハルトか、ノイケーニヒシュロスになるだろうとのこと。なんかRPGっぽいな。


 商会に行きお使いの品を受け取った。途中屋台で猪肉の串焼きをいただいた一本五百マール。この辺でよく取れるらしい。

 猪肉なんて硬そうだなと思ってたら、意外と柔らかかった。なんでもワインに漬けているそうだ。



 よし、この街ですべき事は終わったので、まずは街の外で武器の使用感を試そうかな。と門を出たところで声をかけられた。


「おじいちゃん」

 若い男性の声が聞こえて、街の中の方に振り返ると、獣人虎の格好をした戦士が立っていた。

 孫娘かと思ったが、ゲームをしている事は伝えていないし、キャラ名だって分からないはずだ。しかも、この街まで実力で来ているとなると相当やり込んでいるはず。孫娘のはずがない……。

 もしかして学校にも行かず引きこもってゲームばかりしているの? やっぱり引きこもりなの? 混乱をしていると、


「すみません。有名な方なので思わず声に出ちゃいました。私は戦士で猟師の百万匹狼といいます」

 と言って手を出してきた。色々突っ込みたいところではあるが、握手をしつつ


「えーすといいます。魔法使いで薬師です。よろしくお願いします」

 どうやら気にしすぎたようだ。あせったよまったく。百万匹狼は、私の装備や様子を見て不思議そうな顔をしている。


「私はLV五フルPT六人で、先ほど何とかこの街まできたのですが、えーすさんは、どのようにしてこの街まで来られたのですか? 私の知っているえーすさんは、その……兔に負けるくらいの方なので、気になってしまって」

 う~ん。これは困った。PTで来ていると伝えれば納得するかもしれないが、一人行動しているところを見られたらバレてしまいそうだし、嘘によって更に印象が悪くなるかもしれない。脱兎を使っていることを言うのも嫌だし。よし[ここまでの思考は約二秒]


「基本戦闘は回避してきました。戦ったのはヤマアラシ一匹だけです。死に戻り前提なので、何かあれば気にせず死んでます」

 これなら嘘はいってない。早々に切り上げよう。


「あっそうなんですね。いやPTを組んでいる様にも、一人で戦える様にも見えなかったので、もしかしたらPTメンバーが全滅して困っていらっしゃるかも知れないと、心配になったものですから」

 何この子、良い子じゃない!


「でも、何でこんな先の町まで来ているのですか?」

 しまった。立ち去るつもりだったのに、感慨にひたってしまってタイミングを逃した。武器購入と兎肉や皮を売りに来たのが理由だが……。

 この子らも狩りをしながらここまで来たのであれば、何かしら売る物を持っているだろう。ギルドに売りに行けば相場が異なる事が分かるだろうし、私が肉や皮を大量に買い求めているのも、有名? らしいから隠してもバレてしまうだろう。

 そうなると差額による商売はそろそろ諦めないといけない。だとすれば正直に話したほうが良い印象に繋がるな。[ここまでの思考は約二秒]


「装備を買いに来たのと、街によって相場が異なるので、クローネシュタットで安くなっている肉や皮を買い付けて、売りに来ているんですよ」


「え? そうなんですか。でも相場が違うとか重要な情報なのに教えてしまっても良いのですか?」


「良いと思いますよ。ゲームなんですから、楽しくできれば」

 出来るだけ好印象になるように、優しく笑いながら言ってみた。


 雑談を少し交わし、「気をつけてお帰りくださいねー」と言って手を振りながら、街の中に入っていった。いやー緊張した。ゲーム内で会話するなんて、殆どNPCだけだったからな。



 気を引き締めてこの武器の使い勝手を試そう。お、穴の中から猪が出てきたぞ。


「猪を倒しました。経験値二十が入りました」

 コイツの名前は猪なのか、漢字だったり、カタカナだったり、英語だったり、日本語と英語が混ざったり、このゲーム作成者はどんな教育を受けてきたんだ。まったく。細かい事は気にしないタイプだから全然気にならないけど。ブツブツ。


 しかし、出てきたところを突いたら、直ぐに転がってヒクヒクして、もう一度突いたら倒してしまった。何かおかしい、こんな簡単なはずがない、これじゃ比較にならないな。

 猪に剥ぎ取りナイフを刺したら、猪肉四個、猪の皮一枚になった。


 装備を木の杖に戻して再び猪と戦う。猪が突進してきたのでサイドステップで避ける。再び突進してくるので同様に避ける。突進後は少し先まで走り去ってしまうので、避けた後では殴り難い。

 このままでは埒が明かないので、杖を大きく上段に構え、相手の突進を待つ。

 猪の突進に合わせて顔面を打ち込んだが浅い、ダメージを与え切るよりも突進がまさり、跳ね飛ばされる。

 体が一回転して地面を転がる。HPが赤色になりAIが切り替わった。久しぶりのダメージに思わず薬草を食べる。

 接近する手段がない。突進を避けた時に殴っても、大したダメージは与えられそうもない。何か良い方法は無いのか? ……あれはどうかな?

 ポシェットに手をいれて、ヤマアラシの針を出して地面のそこらに刺す。猪が突進してきたので大きく飛び避ける。猪がヤマアラシの針をふみ暴れている。

 駆け寄って、大きく振りかぶってお尻を殴る。こちらを向いてきたので顔面に杖を殴りつける。突進してきたので大きく飛び避ける。突進力が弱くなっている。

 再度ポシェットからヤマアラシの針を出して、地面のそこらに刺す。猪が突進してきたので大きく飛び避ける。再び針を踏み抜いたようで暴れまわっている。近づいて叩いて叩きまくる。


「猪を倒しました。経験値二十が入りました」

 ふー疲れた。どう考えても木の杖は無いわ。これはお買い上げで良いかもしれないな。でももう少し十文字槍で戦ってみるかな。


 その後、猪を十匹、ラージヤマアラシを五匹倒した。猪の肉は三~五の範囲で皮は出たり出なかったり、ヤマアラシの針は五十~百の間だった。兎と同様に固定で出ると思っていたが違うようだ。


 新しいAIの調子も良い。敵の攻撃がどうしても足元に集中するので、発動するのはサイドステップだけだが直ぐに反撃が出来るのが良い。

 武器も良い。猪なら二、三回、ヤマアラシでも、三、四回当たれば倒せる。攻撃範囲が広いので戦いやすい。もうお買い上げしかないな。


 ゲーム時間十一時、買うものも買ったし、とりあえずクローネシュタットに帰るかな。


 ん? 目の前に洞窟がある。洞窟といえばダンジョンかな? なんの準備もしてないけど、ちょっと覗いてみるくらいありかも知れない。

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