第14話武器を買おう

 西門ギルド出張所の近くにある武器屋に入ってみた。大体の相場は。鉄製武器二十万、銅製武器十万、骨や石の武器や木製弓が五万、棍棒が三万、木剣と私の杖が二千。二千?


 木剣と杖はダブついているため値下がりしているらしい。杖の買取をしているか尋ねたら、


・武器、防具の類は、外国の方からでも買取が可能。


・木剣、木の杖、布の装備一式、ポシェットなどの初期装備は引き取れない。


 色々とおかしいと思うが、決まりなのだそうだ。


 現実世界で持ったことがある武器といえば、包丁、バット、ゴルフクラブ、ラケット、トンカチやノコギリ、スパナ等の工具類、それくらいしか思いつかない。当然しっくりする武器などない。

鉄の槍を持っていたところ、武器屋のNPCが話しかけて来た。


「鉄の槍をお持ちですが、あなたは魔法使いでは無いのですか?」


「はい。魔法が使えませんが、魔法使いです」


「魔法使いなんですね?」


「はい。魔法は使えませんが、魔法使いです」


「……」


 どうやら金属製の武器や防具は、魔法の詠唱に影響するとの事。魔法が使えない今の私には関係がない話ですが、しばらくすると困りそうなので、金属製の装備は諦める事にした。


 骨や石の武器として、槍、斧、ハンマー、等数種類あるが、上位の武器があるのに、格下の武器を買うのは勿体無い気がする。ここは初期の街、最初の街で最強の装備などが揃う訳が無い。ブラウメーアは、多分二つ目の街のはず。そこも期待出来ない。


 もう一つ、いやもう二つ先の街なら、もっと良い装備が売っている可能性がありそうだ。例えば鋼の剣とか? 武器って金属製以外って強いものがあるのだろうか。


 分からないものを悩んでも仕方が無いので、西門ギルドに来てお使いクエストを見てみる。


・エールラーケ     Eランクから請負可能、南方向


・アイゼンハルト    Dランクから請負可能、西方向


・ノイケーニヒシュロス Cランクから請負可能、北方向


 クエストを受けながら行くなら南。クエストを無視するなら北かな? ギルドのNPCに、街の状況について質問する。


・エールラーケ 燃える水[油]が特産。街道沿いに行けば辿り着ける。


・アイゼンハルト 鉱山都市。街道を進めば辿り着けるが、現在グリフォンが街道を占拠しており交流が途絶えている。


・ノイケーニヒシュロス 王都、王様が住んでいる城下町、百万人都市。街道を進めばたどり着けるが、オーガを筆頭に複数の魔物が街道を占拠しており交流が途絶えている。


 危険が高いため、ランクが高い人以外にはクエストを発行していないらしい。鉱山都市なら良い武器が手に入りそうだが、空を飛んでいる敵から逃げれる気がしない。王都も品揃えが多そうだが、お使いなのにランクCとか、危険度が高すぎる。


 まずは エールラーケに行こう。次のことはそれから考えよう。しかし、王都から救援は出ないのだろうか?


「王都の周辺も化物の数が多く、こちらに兵を向ける余裕がありません。そのため外国の方に呼びかけを行い、化物を倒してもらっています。そのためにお見えになったのですよね?」 

 あーそういう設定だったのか、肯定しておきました。クエストはエールラーケのお使い五個に変えて、商会に行き発注書を受取り、中央公園に来た。


 相当値崩れしていなければ、兎肉と皮で利益が出るはずだ。枠一杯まで兎肉と皮の買取を出して放置露店した。単価は相場プラス十の五十二マールでいいだろう。



 ログアウトすると「うぉおお」思わず声が出てしまった。椅子が初期の状態に戻るために動いていた。わずか一秒未満だと思うがこれは気持ちがわるい。早速開発者チームとのCONNECTに感想を書き込む。


 対応していないVR製品からのログアウト時に、このような状態になる可能性は聞いていたが、利用者視点で言えば、気持ち悪ければそれまでである。仕方が無いなんて言葉は使いたくない。


 とはいえ、嫌だったという感想だけ言うのも気が引けるので、五分位で思いつく範囲で要望も出しておこう。


・ゲームまたVR中に、任意で初期配置に戻す事ができるように


・ログアウト直前の動作から推測して初期配置に戻して


 あまり答えを教えてしまうと成長しないので、課題とか実装する際の考慮点までは書かないでおく。


 多少安い買取設定にしたので二、三時間くらいは掛かりそうだ。日本時間で十七時過ぎなので夕飯だな。


 日本時間で十八時半、まだ買取は済んでいないかな、少しAIでもカスタマイズしよう。

 攻撃は当たるようになってきたから問題は回避だな。いくら動作を登録しても私が使いこなせない。私が武道の達人になれば可能だろうがそれは無理だ。VR用椅子を何となく眺める。あれは勝手に動く椅子だな。ログアウト直前の動作から推測して欲しい……。


 敵の動作を推測して回避をさせる! 私が出来ないならAIにさせればいい! 強化学習機能を入れよう。確かモデルがあったはずだ。


 まずは現状のAI初期回避+モーションキャプチャーでの回避バージョンをコピーして別名で保存。新しいAI強化学習機能を追加し、初期回避動作は削除。これで嫌でも近距離で避ける動作が発動するはずだ。これをAIの三にセット。


 手元にある強化学習モデルでは、演算処理による結果しか選択出来ない。だから瀕死になった時だけ初期回避が発動するような仕組には出来ない。

 瀕死対策として、AI四は制御用として設定。通常はAI三[初期回避無し]、瀕死はAI一[初期回避有]に切り自動で切り替えれるようにした。迂遠だが止むを得ない。


 敵との距離や位置、速度、攻撃パターンなど、自分では覚えきれないがAIなら戦闘すればする程、経験が溜まって強くなるはずだ。結構いい出来だな。仮想環境でCPU負荷やメモリ消費を計測し、実際に出来たプログラムのデータサイズから、初期版AIの一.二倍スペックが必要になった。


 あれ、これゲームで動くのだろうか? 色々と気にせず機能を盛り込み過ぎてしまった。時計を見ると既に二十二時を過ぎていた。四、五時間作成に集中していたようだ。放置露店したままだったなと、ふと極夢Ⅱを見る……こいつなら動くはずだ。


 今日はもう遅いので寝ることにする。



 翌朝、日本時間九時半、ゲーム時間二十三時だ。買取は全て完了していた。後一時間でお使いクエを更に一日を消化してしまう。昨日はAI作りに集中しすぎたな、勿体無いが一旦引き受けた仕事を自分の利益のために、破棄して再度受けなおすなんてことは道義にもとる。


 兎肉の串焼きを二本食べて[リアルとは別腹なんだな]、南門から出るとプレイヤーの多くが野犬狩りをしてる。夜なので犬しかいない、犬をさけつつ街道に沿って少し駆け足で進む。大分街から離れたので、街道の横にある丘の登ったところで零時になり運営からのお詫びをもらい、

 脱兎――――脱兎――――脱兎――――……


 大体クローネシュタットから二十キロくらいだろうか、街道に灯りが見えた。脱兎が切れたタイミングで観察するとプレイヤーPTがスケルトンらしきものと戦闘をしているようだ。こんなところまで来ているのか、というか自分は足が早いだけでレベルは低いし、トッププレイヤーなんてのは既に王都に行っている可能性だってある。


 とりあえずエールラーケに向かおうと思ったら近くの穴から角のある兎が出てきた。以前あったのと同じなら遠距離攻撃を持っている可能性がある。面倒なので脱兎で逃げた。振り返ると追ってこないようだ。


 安心していると穴が幾つもあき、角の有る兎が多数出てくる。慌てて脱兎を繰り返して逃げ出した。しかし、穴から出た化物は倒さないとどうなるんだろう?


 エールラーケと思われる街が見えてきたのでそろそろ脱兎をやめて、警戒しながら歩く。前に穴があき何か出て来た、姿はヤマアラシっぽい。立ち止まって様子を見ると尾を振って音を出している。戦闘は避けられない。


 体の針を逆立てる。来ると思ったら、後ろを向いた? うぉお。後ろ向きのまま突進してきた。サイドステップが発動して敵を避ける。

 瞬発力はあるみたいだが、攻撃してくる範囲は広くないようだ。


 杖の細い方を持って太いほうをヤマアラシに向かって出すと、杖に攻撃をしてきた。杖に針が何本も刺さる。こんなのを喰らったらただじゃすまない。執拗に杖に攻撃を繰り返すので、更に杖で挑発すると杖に何度も攻撃を加える。しばらく繰り返していると背中の針が大分取れてきた。


 こいつは馬鹿だな。だんだん飽きてきたので大きく杖を振りかぶって叩きつける。相手の攻撃範囲は狭いし、針の驚異も無くなっているので面白いように当たる。何度か叩いているとウインドウが出た。

「ラージヤマアラシを倒しました。経験値三十が入りました」


 意外と経験値が多いんだな。しかし何で英語と日本語が混ざっているんだ、おかしいだろ。でも英語名で言われたら「何?」ってなるかな、気にしないでおく。


 ポシェットは一杯だが、何が出るのかを確認するため剥ぎ取りナイフを刺してみると、ヤマアラシの針十本になった。価値は判らないが低そうだし、十本程度じゃアイテム的には美味しくなそうだ。その辺に落ちてる針を拾ったら針百本になった。即死させたら百本手に入るのかも知れない。

 とりあえず片手で四十本位持てそうだったので左手に針を持って、街に向かって歩きだした。


 エールラーケ街の門をくぐったが、街には衛兵くらいしかいない。ゲーム時間は一時過ぎだから当たり前か。もう一度門をくぐって、門のすぐ横にテントを張ってログアウトした。少し休憩する。

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