星空の下で、君を思う

神坂奏汰

第1話星空の下で、君を思う

 平山家は、毎年夏になると必ずキャンプに出かけている。

「子供たちのために」と、夫、航平が計画していた。

昼間は子供たちと山や川で遊び、夜は妻の亜希子とお酒を飲む。一番楽しんでいるのは航平ではないかと、亜希子は思っていた。

そして今年も、平山家は伊豆のキャンプ場へ出かけた。


 子供たちが寝静まった夜、こっそりバンガローを出て、折りたたみの椅子とテーブルをセッティング。そして、航平の好きなジャズを、携帯電話の音楽機能から流す。


 亜希子は、キャンプ前日に漬け込んだタンドリーチキンを、テーブルに置いた。

「なんでキャンプなのに、手間かけて料理しなくちゃいけないのよ」と、毎年文句を言うが、

「お願い!亜希子のチキンは格別なんだ」と、毎年作るようにお願いをする。


 次に、航平の好きなビールと、うすはりグラスをテーブルに並べる。

「キャンプ場でビールを美味しく飲むためにネットで調べて注文したんだ」と、去年のキャンプ前日、航平は子供のように喜んで説明した。

「キャンプにわざわざ持ってくの?」

「当たり前だろ。亜希子だっておいしービール飲みたいだろ?」と、航平は、グラスが割れないようにタオルを巻いた。

「そういうことは丁寧にやるのね」と、亜希子は笑った。


 そんな、うすはりグラスに、ビールを注ぎ乾杯する。

「満天の星空の下で飲むビールは最高だ」と、航平。

「そう?よくわからないなぁ」と、亜希子が笑って返す。

そうやって明け方まで二人はお酒を楽しむ。


 そして今年。

亜希子は、誰も座っていない椅子の前にあるキンキンに冷えたビールを見つめた。航平が大好きだったビールが減ることはない。


亜希子はタンドリーチキンを一口食べ

「うん。今年も美味しくでたね」

しかし誰の返事もない。


「航平が亡くなって、航平の好きなもの喜ぶものを考えては、その度に『あなたはいないんだ』って気づかされるのよ。毎日何度も、『そっか、いないのか』…て」


亜希子は夜空を見つめる。

「満天の星空の下で飲むビールは最高ね」

携帯電話から流れるジャズが亜希子を優しく包んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

星空の下で、君を思う 神坂奏汰 @Lucia_k

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ