第12話

「梨央奈こっち来て」

「うん?」


 智也は優しく私の手を引いてソファーへと連れて行く。

 智也だけがソファー腰をかける。大きく開いた足の間に私をスポット埋め込む。

 立っている私とソファーに腰かけている智也はちょうど向かい合わせ……ちょうど胸に智也の頭があった。

 クッシャット智也の髪を握りしめてみた。可愛いなあ。


「梨央奈、なにしてるんだよ?」

「可愛いなあと思って」

「そう?」

「うん。そうなの。髪がさらさらだね」

「髪を触るのが好きなの?」

「そうみたい。でも人の髪をここまで触ったことないかも」


 髪から手を離して今度は顔を触ってみる。つるんとしたほっぺた、ぷっくり膨らんだ厚めの唇。身体のなかでかゾロリと動いた。慌てて唇から離れて耳のあたりを触ってみる。

 耳の感触はかなりかわいい。触られて当人も困ったみたい。煙ったそうに肩をあげている。ごめんね。

 でも、かわいい。


「梨央奈」


 声をかけけらえてそのまま手を離して智也も首に手を回して智也を見つめる。智也もみつめかえしてくれる。真っすぐで澄んだ瞳。見つめられると吸い込まれてそのまま私ごと智也の中に入ってしまいそう。


「うん?」

「梨央奈」


 ガバッと抱きつかれる。あ、どうしたらいいんだろう。私は手を伸ばして智也を抱きしめ返す。


「梨央奈、痛い?」

「う、うん」


 智也は私の腰を撫でてくれている。

 あったかい優しい手で撫でられる。智也の手が触れた場所が温かくなっていく。

 痛みが消えて行くように。

 私は智也の髪を指ですくっている。


 智也は顔をあげる。

 智也は優しく智也の膝に私を乗せる。顔が近づいていく。目が智也の瞳に吸い寄せられていく。

 唇が重なる。フワッと軽く唇が触れる。智也の唇は甘い蜜のようで触れるだけで体がとろけだす。

 智也の髪にあった私の手は智也の肩を握りしめている。

 もっと智也と触れ合いたい。


 智也は隣に私を移す。


 夕方になり夕食の支度を始めるまで何度もキスをかわす。足りない何かをおたがいに求めあっているように。


 夕食も智也はそばで私が作る様子を見ていた。気になるかなあ?

 テーブルに料理を並べて夕食を一緒に食べる。


「梨央奈、謙遜し過ぎだよ」

「そ、そう?」

「うん。美味しいよ」

「う、うん」


 こんなに褒められることはないから戸惑ってしまう。


「じゃあ、俺が洗うね」

「うん」


 多分人生初の食器洗いをしている智也を心配で見つめる私。


「そんなに見張らなくても出来るって」

「あ、うん」


 でも、心配でつい見てしまう。


 智也は器用なだけある。さっさと食器を洗って行く。その手を見ているだけでドキドキしてしまう。器用だなあ。そのうち料理も作ってしまいそう。


「じゃあ、そろそろ遅いし、帰る?」


 食器洗いを終えた智也に声をかけられる。


「そ、そうだね」


 離れてしまうのはさみしいけれど、明日もあるしね。遅くなるのはね。


 智也に駅まで送ってもらう。


「また明日」

「うん。明日」


 こんなにも恋しい思いで胸が締め付けられる。

 もっと智也と一緒にいたい。同じ時を過ごしたい。

 ダ・メ……だよね。それに……これって……付き合ったんじゃないよね?

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