第25話 おやすみなさい

「何食べるの?」

「イタリアン!!」

「へ?」


 イタリアンなお店には痛い思い出があるんだけど……。


「そこのデザートがすっごい美味いんだって」

「あー、そうなんだ。このまま行くの?」


 プール用ではないけどビニールのバックがカバンから見えてるし水着も入ってるんだけど。


「えー! 帰るの? お腹減ってるしこの近所なんだから、このままでいいだろ?」

「え、うん。まあ」


 この近所か。城太郎チェックしていたお店が近かったからか。プールのチケットもらって場所が近所の美味しいお店に行けると!!

 その為の私ね。


 どうしようこの前みたいなきちんとしたお店だったら。まあ、前もそういう心構えはなかったけど、一応それなりに服装もねえ。今回は完全にプール行く気分だったし。


「ここらへんなんだけどな。あ、あそこ!!」


 こぢんまりしたお店を指差す城太郎。よかった。まだこれでいける。

 中に入ったら、こぢんまりしてるけど本格的なイタリアンなお店だった。プール帰りに来ても大丈夫そうなのが良かった。


「じゃあ、コース頼んでいい? その最後のデザートが有名なんだよ」

「またコース?」

「え? また?」

「ううん。いいよ。楽しみデザート」


 思わずコースに反応しちゃったけど問題はワインだったよね。


「じゃあ、頼むね。あ、遥。グラスワインついてくるけど、ジュースに変えてもらう?」


 わ、ワイン!! あ、でもコースについてくるグラスワインのことだし大丈夫だよね。


「ううん。大丈夫」


 大丈夫だよね!?



「美味しかった!! 特にデザートのアイスとケーキ最高」

「だろ?」

「誰かに教えてもらったの?」

「お客さんに聞いたんだ。ちょうどプールのチケットいるか聞かれて、行くならここで食べるといいって聞いて」

「へえー」


 なるほどチケットと情報を同時に入手したんだね。

 ワインは無事にグラスワインだったし。お値段もさほどでもないし、いいお店!!


「遥ここは俺が出すわ」

「え! いいよ。別に」

「水着買ったりしただろ? それにコースだったし。まあ、いつもついて来てくれるお礼ってことで」

「うーん。わかった。じゃあ、ごちそうさまでした」


 店を出て家に向かう。すっかり暗くなってる。

 ほんのり酔ってる体は気持ち良くて、ちょっと上機嫌な私。

 帰り道なのにプール帰りなのにご機嫌で帰った。



「ただいまー」

「ただいまっと。じゃあ、遥、俺は先に風呂いれてくるな」

「あーんー。今日はシャワーでいいよ。城太郎もそれでいいなら」

「じゃあそうするか。遥、先にどうぞ」

「え、いいの?」

「ああ」


 プールの備え付けのシャワーでさっと流しただけだったから、早くに入りたかったんだよね。城太郎にその気持ち見抜かれてる?


「じゃあ、お先に」



 お風呂に入るついでに水着も洗って干して置いた。

 シャワーを浴びてさっぱりする。少しほろ酔いなのが気持ちいい。


 コンコン


「城太郎出たよ。次どうぞ」

「ああ」


 私は居間で飲み物を飲んでいた。そして座ってテーブルに肘をついて顎を支え……はっ。眠っちゃったみたい。ん?? なんでテーブルにそのまま横になっている私の目の前に城太郎の顔があるの?? そして、この唇感触。


「城太郎?」

「は、あ、遥。そのこれは………えーっとだな……」

「今……キス、した?」

「あ、うん。ごめ……ん。マジでごめん。あ、俺はもう寝るから」


 私の隣にいた城太郎はあっという間に奥の自分の部屋にいったみたい。え? ごめんってなんなのよ! わけがわからない。城太郎の部屋へと向かう。


 コンコン


「城太郎!!」


 ガチャ


「遥……そのごめん……」


 城太郎はいつもの雰囲気はまるで消えて捨てられた子犬のようにしぼんだ顔でこちらを見ている。


「なんでそんなに謝るのよ!?」

「え? だって勝手に寝てるとこキス……したし……遥好きなの俺じゃないだろ?」

「えっ?」

「遥は葵が好きなんだろう?」

「な、なんで?」


 なんでそんな私でもわからない私の気持ちを城太郎が知っているの?


「なんでって。見てればわかるよ。仲いいじゃないか。それに葵に近づいてる小早川さんに嫉妬してたじゃない」

「あれは……違う……と思う」


 どうしよう。こんどは私が捨てられた子犬のような気持ちになる。城太郎に避けられる。城太郎はもういつもの様に私とはいてくれなくなる。胸が締め付けられる。嫌だ。城太郎と一緒にいたい。前のように。ううん。もっとそれ以上に。


 私は城太郎に抱きついていた。そばにいたい。こうして腕の中に居たかったのは城太郎だった。なんで気づかなかったの。尚也と葵を入れ替えても結果は同じはずだった。その選択肢に城太郎は入っていなかったから。


「は、遥?」

「今頃気づいたの」

「何を?」

「私が好きなのは城太郎だってこと」


 だから似ている尚也に酔っていたときに拒否しなかった。混同してたんだ。尚也と城太郎を。


「へ?」

「迷惑?」


 苦しいよ。抱きついて問いかけてるのが辛いよ。でも、離れたくない。


「迷惑じゃない。俺も遥が好きだよ」


 ふっと城太郎の雰囲気が変わった。優しく私包み込んでくれる。


「で、今気づいたんだ?」

「あ、う、うん。なんかいろいろあって、今気づいた」


 城太郎は片手を離して私の顎に手をかけた。うつむいていた私の顔をそっと持ち上げもう一度ちゃんとキスをしてくれた。


「遥、あのさあ。葵にどう言う?」

「え? あー、そっか同居中だもんね」


 正直に言おう。尚也のことどうしようか悩んでいた。電話で返事しても納得しないだろう。だからって、冬休みはまだまだ先だしってそんなことを考えていたのに。

 葵のことまで気が回らなかった。


 今、私は城太郎の部屋のベットの上で城太郎は椅子に座っている。あの軽すぎる荷物の正体に気づいて、気が散ってしょうがない。あの荷物の正体はプラモデルだった。組み立て終わったものを梱包してたんだろう。どうりで軽いはず。この趣味を私にひた隠しにしてたのはなんでかはわからないけど。


「遥?」

「あ、うん。葵にはその付き合ったって言っても大丈夫なんじゃない?」


 葵ならば「そう」って終わりそうな気がするんだけど……


「いや、無理だろ? これからも一緒に暮らすんだよ? 俺らはその前のようじゃないんだし」


 と、城太郎はそう言って私の横に移動してきた。そのままの流れで私の腰に手を回して、両腕で私を包み込んでくれる。私も城太郎に腕を回してみる。ああ、この腕の中だあ。城太郎の腕の中だあ。


「遥」

「ん?」


 城太郎は見上げた私にキスをする。そのままベットに押し倒された。


「城太郎?」

「遥ってもしかして初めて?」

「あ、いや。ううん」


 あー。ついこの前初めてじゃなくなったんだよね。ああ。もー!


「このまましたいけど、今持ってないしなあ。それに同居してるのにって」


 グッと目の前に城太郎の顔がある。


「そういうこと! 今のままじゃあ、俺は困る。俺は遥を抱きたい」

「あ、はい」


 抱きたいってそんな目の前で言われても……恥ずかしいよ。


「葵と話してここを二人で出よう」

「え?」

「無理だろ? 葵に隠れてコソコソすんのも嫌だし。だからって、葵が一緒にいたら……だろ?」

「そ、そうだよね」

「まあ、一番は俺がいない間に遥が葵と二人でいるのが嫌なんだけどな」

「あ、ああ。そうか。そうだね」


 それは嫌だな。確かに。


「二人で住むの?」

「うちは文句ないだろうけど。まあ、遥のとこは反対するかもな。そしたら一人暮らしになるか……」

「えー。嫌だ。離れたくないよ」


 私の体の上にある城太郎にしがみつく。


「遥ー、誘うなよ」

「え!? あ、ごめん」


 そっと城太郎から手を離す。


 城太郎はそっと私にキスをして体を起こしてもう一度椅子に座る。きっとワザと私から離れてる。


「とりあえず葵には話そう。あとはそれからだな」

「うん」

「あーじゃあー、その……」

「うん。それじゃあ部屋に帰るね。もう遅いし」


 私は立ち上がりドアへと向かう。


「遥」


 城太郎はドアの前で私を抱きしめキスをする。


「おやすみ」

「おやすみなさい」


 部屋に戻り尚也の事を考える。決めた。母にメールを打つ。尚也に返事をしなきゃ。

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