ヤジルシ！

第21話 好きなの？

　はあー。気分悪い。それに体が痛い。腰のあたりは激痛だよ。部屋は空調が効きすぎぐらいだ。寒いなあ。ん？ あったかい。スベスベした感触もまたいい。気持ちいい。布団の中からゴソゴソと気持ちのいいそれに私はしがみつく。

　スベスベで温かくって気持ちいい？？ ん？

　重いまぶたを開けて目の前の気持ちいいスベスベしたものの正体を確認する。……え？？ ええ？？ えええ？？

　目の前にいたのは尚也だった。服は着てないだろうと思われる。私も着ていないから、さっきすがりついた時に布の感触が一切なかったから確かだろう。

　ってか、ここはどこ？ 見回して何処かのホテルだとわかる。ラブなホテルでもなくビジネスなホテルでもない普通のホテル。

　尚也は気持ち良さげに眠っている。とりあえず着替えたいけれど、シャワーが先だろう。隣に寝てる尚也を起こさない為と自分の動きで気分が悪くなりそうなんでゆっくりと動いてみた。

「はーるか。おはよう」

　後ろから尚也の声。

　振り返ると、朝から笑顔全開の尚也がいた。

「お、おはよう、な、尚也」

「遥！」

　という言葉とともに尚也の方に引っ張られる。そのまま尚也の胸の中に転がりこむ。

「尚也？」

　体がキスギスと痛い。さっき引っ張られた勢いで振動が伝わって痛くて涙が出そうだった。

　尚也は私の頭を撫でてそのまま優しくキスをした。あれ？ 嫌がらないどころか受け入れている私がいる。何度も交わしたキスのように………あ！！ あああ！！！ そうだった。昨日ここに入ってから……う、嘘だ。だけど、この体の痛み……。

「遥？ 昨日のこと覚えてる？」

「ん。その……少しだけど……」

「どんな気分？」

「え？」

「嫌か？」

　痛いし、早くシャワー浴びたいけど。……嫌じゃない。こうして尚也の胸にいる事も。

「……ううん。嫌じゃない」

「覚えてはいないんだよな？」

「全部は覚えてないけど、その……ところどころは」

「俺が何したかってことも？」

　酔った私が裸で同じ裸の尚也の横で目覚めたこと、そして腰から下に激痛を感じていることこだけで十分昨日なにがあったかはわかる。

「尚也」

「ん？」

　私の顔を覗き込む尚也の顔。ただでさえ恥ずかしいのに。覗き込まないでよ！

「昨日私にワインどれだけ飲ませたの？」

　私の質問に尚也はニヤって笑ってる。

「俺はグラス二杯しか飲んでないよ」

「えー！ 尚也！！ 私にワインほとんど一本飲ましたの！？」

「うん」

　可愛いく元気に朝から『うん』じゃない！！ 何これ？？ 昨日のこと……え？ ええ？？ もしかして！？

「尚也……もしかして昨日のこと全部作戦だった？」

　そう、昼ご飯食べて映画観てゲームセンター行って、あのお店でボトルワイン……まさかこうなる為に？

「あー、バレた？ 遥ー、怒らないでよ？」

「……」

　怒りが大きすぎると人って言葉が出ないんだね。

「遥？」

　もう一度覗き込んでくる。

　バシッ！！

　尚也の頭をはたく。

「痛い！ 遥ー！」

「遥ー！ じゃない！！ なんで返事わかってるのにこんなことするの」

　そう、私は尚也に断りの言葉を告げようとしてたのに……こんな事って……しかも、あんまり覚えてないし。

「それがわかっていたからだよ。でも遥が嫌がったらやめるつもりだったんだよ。でも、遥そうでもなかったし……」

「それは……酔わせるから！！」

「酔ったら遥は誰とでもするの？」

「ウッ……それは……」

　わからないじゃない。初めてだったんだから。

「なー！」

「なー！ じゃない！ そんな状況になったことないんだから知らない！！」

「でも、俺の名前呼んでたけどー。好きまで言ってたぞ」

「えっ？ 好き？」

「そう。尚也好き！ って何度も」

　えー！ そうなの？ そうなの私？ でも、でもー！

「でも、覚えてないし……」

「じゃあ、今度は酔ってない時にしよう。な？ それなら遥も納得だろ？」

　えっ？ えー！ それって何気にもう一度しようって話だよね。えー！

「いや、だってそれは……」

「もうしてるんだし、遥は納得してないんだから。それが一番わかりやすいって。だいたいなんで急に返事しようとしたの？」

「それは……部屋が暑くてね……」

「ん？」

「居間で宿題してたら、その、葵が隣にいたの。で、尚也からメールが来て」

「ひょっとして、それって、あれ？ 徹夜になるとか言ってたメールか？」

「そうそれ。電話かかってきたら尚也との会話をするでしょ？ でも葵には聞かれたくなかった。かと言って急に部屋に入るのも不自然だし。だから、徹夜するって返事したの。それで私……尚也よりも葵の方を取ったって……」

「思ったんだ」

「うん」

　尚也は私を一瞬キツく抱きしめた。

　すぐに緩めたけれど、腕はそのままだった。何か考えてる。……どうしようこんな事態になるなんて思ってもいなかった。

「それってさあ」

　急に尚也は話し出す。

「う、うん？」

「それってその葵って奴と、俺とを入れ替えてもそいつを取るのか？」

「え？ 入れ替える？」

「そう。俺とこうしていたらメールが来てすぐに返事したら電話かかってきて俺の前でそいつと話をしたり、別の部屋に移動するか？」

　う、うーん。確かに葵の立場に尚也を置き換えてみたら同じことしてる。葵に徹夜でってメールを入れてるだろう……きっと。え？ じゃあ、私誰が好きなの？

「どう？」

「う、うーん。そうだね。同じことするかも」

「だろー？」

　あーん。でもそれじゃあ尚也が好きなの？

　じゃあ、あの時のキスの後のビンタはなんだったの？ 怒ってたよね、私。尚也に怒ってた。なんで今さらって。

　今さら？ そう言えば……

「尚也。あの彼女いたよね？ 二年の時に」

「えっ？ ああ。うん」

「好きだったんだよね？ 彼女のこと」

　どうしても納得いかない。彼女と別れてから、今さらのように幼馴染の私が好きになるものなの？ いったいどこから好きになってたのよ！ 自分の気持ちは全く答えが出ないのに、尚也を責めるズルい私。

「あー、それね」

「それって」

「告白されたんで、まあ可愛いし断る理由もなかったから」

「好きだったんだよね？」

　また聞く私。今さらだってば。

「好きになるかと思ったけどならなかった。だから、別れた」

「好きにならなかったの？」

「そう！ 俺が好きなのは遥だったんだから！！」

　そう言った尚也にまた強く抱きしめられた。

「あー、うん」

　どうしよう。本当にこれが正解なの？ なんだかしっくりこないんだけど……記憶がないせいなのかな？

「遥、シャワーを浴びてきたら？ 俺は昨日寝る前に浴びたから」

「あー、うん。そうする」