第17話 信用出来ない
お金に困る予定の私は、慌ててバイトを探し始めた。近くのファミレスが募集中だったので、すぐに応募して初面接。緊張したけどあっさり採用された。これで生活費が確保された。時間も休みも融通が効くから、これからどうなるかわからない私にとってはいいバイトだった。
大学が同じと言っても学部が違えば取る授業ももちろん違う。が、これは本当に偶然私達三人とも同じ学部だった。なので家で相談が始まる。最終の卒業までを考えたプランを練り組むと同時に、取りたい資格なんかも合わせて行く。取りたい授業も。
そうして、絞り出して行くと自由に選べるんだと意気込んでいた講義も選択の幅が狭くなり、選ぶ余地がなくなってくる。うまく出来てるなあ。自分で選んだ気持ちがあるけど、これはほとんどが必然という選択。まあ、そんなこんなで講義も決まり登録も終了した。
バイトははじめは徐々に増やしいて行くことになった。なにせ初バイト。バイト先にいるだけでも緊張する。
「まあ慣れだよ。慣れ」
なんて城太郎君は軽く言ってくれる。バイトも軽々こなして、大学生活もそして、家のこともやるほんと凄いよ城太郎!
そんな忙しさを理由にして、ズルズルと尚也に返事を返せない私がいた。まだ、心の整理がつかないんだから……。なんでなんだろう。
「もしもし。久しぶりだよな」
「んー。一週間かな?」
「バイト忙しいの?」
「うーん。大学の講義とバイトと家のことだから、何かと忙しいんだよね」
この前に尚也と話をしたのは入学式の前の日だった。尚也も同じ日が入学式だったので遅くまでその話をした。まあ、母の話がメインとなったけど。
その間もメールでの会話は続いていた。今までのように電話する時間がとれないだけだった。
尚也は全く返事を急かすことはない。それどころか……
「ねえ。尚也。あのさ……返事しないとね……そろそろ……」
「いいよ! 無理に決めなくていいって言ってるだろう? もう少しこのままで俺は構わないから。遥の気持ちが固まったら言ってくれる?」
「うん……でも、こんなのいいの?」
こんな中途半端な関係でいいんだろうか……こんな曖昧な……幼馴染だけじゃないような関係で……。
「いいよ! 今、無理に決めて後悔したくないし、させたくない。まあ、俺が遥と離れるのが嫌だって理由なんだけど。遥は嫌だったりするのか?」
「嫌って言うよりも、いいのかな? 尚也は平気なのかなって」
「俺のことはいいから気にするなって。俺が遥に言ってんだから」
「うん」
「それよりさあ……」
こうして、切り出しても話を変えられるということが、春休み中もあり、そして今さっきも同じことになった。
尚也はどうしたいんだろう? 話を変えるってことは、私が尚也以外の選択肢を選ぶって思ってるんだよね。私はどうなんだろう尚也以外の誰かを選ぶんだろうか……。
「そろそろ、遅いな明日も朝一から講義だよ。一年て結構忙しいよな」
「そうだね。思ってるよりも講義がぎっしりあるもんね。もっと余裕あるのかと思ってたけど」
「じゃあ、また。バイトない日に電話しよ」
「あ、ああ。うん。そうだね」
「それじゃあ、おやすみ」
「おやすみ。またね」
電話を切って、フーッと息を吐く。何でだろう次にバイトない日に電話しよという言葉に固まった。なんで? 困るのかな? 困ってるのかな? 私。尚也のメールや電話嫌がってるの?
コンコン
「風呂出たよー! 遥が最後だからな」
「ああ、うん」
城太郎君がそう言って去って行く足音が聞こえる。今日は城太郎君もバイトが早目に終わったみたいで、特に何番風呂なんてこと気にしない私はいつもは、基本最後にしてもらっている。まあ、洗濯カゴ問題とかいろいろあるからね。
机の前に座り込み、引き出しを開けると尚也の写真が出てくる。尚也の写真と携帯を机に並べて見てみた。何がわかるわけじゃないんだけど、さっきの城太郎君の声を聞いて、城太郎の風呂上がりを想像している。やっぱり二人は似ている。あーもう! 何がしたいの私は!!
さっと立ち上がり部屋を出る。
ドアを開けると居間には葵君がいた。お風呂上がりにテレビを観てくつろいでいる。私が部屋を出るとこちらを向いてニカって笑う。その笑顔が可愛い。あー! ダメだ。なんでこんなことになるの?
「遥、風呂?」
「う、うん」
「でも着替えないけど?」
「え? あ? ああ、あの喉乾いたから先に飲み物飲もうと思って」
苦しい言い訳だなー。もう、完全に動揺してそのまま部屋を出てきただけなのに。
「ふーん。ああ! これ飲む? なんか変わった味なんだよ」
葵君は自分の飲んでいたペットボトルのジュースを勧めてきた。葵君は新製品に弱いようでいつも違う飲み物やお菓子を食べてる。変わったものばっかり。城太郎君はすっかり呆れている。不味いんじゃない? ってものにも、毎回手を出しては『不味っ!!』と、どこか嬉しげにさえ見える笑顔で、食べたり飲んだりしてるから。……可愛い。
今日のはライチ味。また微妙なチョイス。でもなんか惹かれる気持ちもわからないではない。
「じゃあ、もらおうかなあ」
と、キッチンにコップを取りに行こうとしたら呼び止められた。
「いいよ。このまま、飲めば?」
「え? ああ。うん。そうだね」
ちょっと貰うんだからコップに入れるまでもないか……ああ、なんか意識しちゃった後だから……どうしよう……間接……キスだよね?
葵君の隣に座ってペットボトルを受け取る。うう、意識しないで私!!
そっとライチ味なジュースを口へ運ぶ。うーん。微妙な味? ライチ?
「どう? なんか今までのライチ感を払拭する味だろ?」
嬉しそうに聞いてくるんだけど、今までのライチ感を払拭したら、それはもうライチ味ではないのでは? 要するに不思議な味なんだけど、なんか後味が美味しいかも。一口飲めばあとは同じだ。もう一口飲んでみる。ん! 後味が美味しい。
「んー。後味が美味しい。でもライチ?」
「だろ? なんか不思議な味だよな!」
すっごい嬉しそうな葵君なんだけど。この間接キスは気にしないの?
「あーじゃあ、私はお風呂入るね」
「ん? もういいの?」
「あー、うん。なんか美味しかったし」
全然言い訳になってないけど私は立ち上がり部屋に向かう。
「ごちそうさま!」
後ろにいる葵君に声をかける。もう間接キスだと意識しすぎで、葵君が次に飲むのを見ていられなくなったから。
お風呂に浸かって考える。城太郎君を意識するのは尚也のせい? 城太郎君と尚也が似てるから、城太郎君を見るたびに尚也を思い出すから? それとも逆なのかな? そして、葵君……もう私は私を信用できない。あー、どうなってるの私の心!?
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