輪廻
1
冬の空気は、どうしてこんなにも気持ちを寂しくさせるのだろうか。
風が強いわけでもなく、それでも吹き抜ける風は身体を芯から冷やしていく。ソウを度々覗きに来る女と、近所に住むという女の人の会話から、家の中には置き場がないことはわかっていた。二層式洗濯機という、今となっては希少価値があるが使い勝手の悪い骨董品を好き好んで使っている割には、管理があまりにもズボラである。
でも、冬は嫌いではなかった。
殺風景でほぼ丸裸な木々に、未だ散っていない葉が、その一生をかけて懸命にしがみついている。
「あれは、私だ…」
時折、小鳥が枝に止まっては、まだ落ないかと心配そうに葉を眺めている。
「あれは、きっと、昔の私だ」
今となっては、もはや思い出せない以前の暮らしの中で、ソウが唯一憧れた存在。
もはや、あの夢は叶わないのだろうか。小鳥は小鳥でも、籠の中に閉じ込められ、自由を奪われた鳥なのだから。
しかし、ソウはなぜか不意に思うことがあった。
私は以前にも、この光景を見たことがある。
私はどこかで、この考えを持ったことがある。
何度も何度も、同じことを繰り返しては、クルクルと廻っている。
まるで、今の私のように、私の運命も同じところを低徊しているのだと言うのか。
その答えを、誰もくれなかった。
くれるとすれば……。
先日、新しく脱水槽がやってきた。
ようやく洗濯物を抱えながらクルクル回れるとウキウキしていた。それよりも、壊れかけて修理に出された脱水層さんが帰ってきたことに、ソウは喜んでいた。
「おかえりなさい! 修理は、痛かったですか?」
返事がない。
「あの……どうか、しましたか?」
返事がない。
「……」
ソウは、その中には誰もいないことを悟った。
それはそうだ、と思った。何かの機械の中で、自分の意識が生きているだなどと、実際にはありえないことだ。
冬は、どうしてこんなにも気持ちを寂しくさせるのだろう。
独りきりになってしまったときに、自分の手を握ってくれる人がいないことに気づいてしまうからだろうか。もはや無いはずの手を伸ばして、隣の部屋に温もりを求めていた。
そんな自分の気持ちなぞ考えもしないで、何事もなかったかのように蓋が開く。
口に洗濯物と水が注ぎ込まれる。
洗剤というものは、いつになっても慣れる心地はしないが、終わったあとの爽快な気持ちは悪くない。
と、その時であった。
「うっ!?」
隣から声が聞こえた。
これまで物静かに回っていたはずの脱水槽から、声が聞こえた。
気持ちが高ぶった。しかし、その気持ちも、少し複雑な心境になった。
ここにいる人は、あの人ではないのだ。
でも、少しでも私は、冬に感謝しよう。
冬は、嫌いではない。
ソウは、その存在を確かめるように、声をかけてみた。
「あの……」
「お前!? 無事だったのか! よかったな!」
孤独で冷え切った私の隣が、すぐに温かいと感じることができるから。
ソウは、心の中で「おかえりなさい」と、呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます