第8話「禁忌の魔術」後篇
今から20年近く前。
テイス・フェールラルトは軍人として何度もエレシスタ軍を勝利に導いた。
その功績を讃え、テイスは貴族議会の一員となり、フェールラルト家は貴族の仲間入りを果たす事となる。
国王から軍を任されるようになったテイスはあくまでも防衛として、戦力増強を図っていた。
そして、千年前のオーバーテクノロジー……オリジンに目を付けるようになったのだ。
しかし、エレシスタ中を探してもオリジンは中々見つからない。
捜索を打ち切られそうになったその時、二機のオリジンが発掘される。
一機はゼイオンのオリジン、ゾルディオン。
そしてもう一機はツバークにある廃城をファース学園へと建て直そうとした時に発見されたオリジン、アークブレード。
ゾルディオンは解析と調整により実戦投入の目処が立ったものの、アークブレードは生体認証が掛けられており、このままでは実戦に使うことが出来なかった。
そこで、研究チームのリーダーであるローはある一つの答えにたどり着く。
「そうだ、作ればいいんですよ……アークブレードを動かせる人間を……」
折角発掘されたアークブレードを使わないなど勿体無い。
千年前に活躍したオリジンの力を確かめたい。
そして、このエレシスタの為に……
ロー達、研究者の好奇心は暴走し、彼らは禁忌に触れてしまう。
そう、魔術による人間の生成だ。
封印された千年以上前の魔術書をかき集め、アークブレードを動かす為に生まれた人間、アレク・ノーレは誕生した。
そして五年後の聖暦989年。事件は起こる。
「これはどういう事だ!ロー博士!」
この実験を知らなかったテイスは激怒した。
エレシスタを守るためとはいえ、人の命を弄ぶような実験をしている事を許せなかったのだ。
「全てはエレシスタの為です。フェールラルト卿」
「何の罪のない赤子に戦う業を背負わせるというのかッ!」
「ならば仕方ありません」
この研究を守るため、ローはテイスを亡き者にしたのだ。
そして、教育係であった二人の研究者は罪悪感に苦しみ、アレクを研究所から逃がそうと考えるが……
「ロー博士!この子に罪はない!今すぐ研究を中止するんだ!」
「私達は取り返しのつかない事をしました……せめての罪滅ぼしにでもこの子に、普通の生活を!」
「その赤子に情でも移ったんですか?全く、彼という実験結果も、アークブレードの素晴らしさも分からないとは……」
こうして、アレクの両親代わりでもあった二人の研究者は死んだ。アレクの目の前で。
テイスの死を隠蔽出来たものの、この実験が公にさらされる危険が大きくなっていた。
そんな時、亡きテイスの跡を継いだクルスが実験の存在を知る。
ゼイオン人を嫌っていた彼は、これから先この研究が必要になると考え、存続させる事を決める。
そして、クルスの息の掛かった者である、アレクの親戚という役割の人間はアレクをファース学園に入学するようにし、アークブレードも実験と一時的な証拠隠滅の為に元あったツバーク学園に埋められる事となった。
これがアレクの出生の真相であった。
***
「そんな……俺は……俺はぁ……!」
一連の真実を知ったアレクは涙を流し、座り込んでいた。
自分は昨日まで普通の人間だと思っていた。
それを当たり前だと思いすぎ、普通の人間だと意識しない程でもあった。
だが、真実は違った。アレク・ノーレは戦う為だけ生まれてきたのだ。
「そういう訳だ。君は戦うしかないんだ。テンハイス城に残っても構わんよ。君の好きな守る戦いに徹してくれたまえ」
ローを連れクルスが部屋を出ようとした時、思い出したようにレイに振り向く。
「そうだレイ、君も頑張ってくれよ。取り柄の魔力と身体能力で死ぬまで戦ってくれ。その為にも君を拾ったんだから」
すると、部屋に数名の兵士が入ってくるとレイを拘束する。クルス直属の者達だ。
クルスは名声の他にも、生きていくためにレイが傭兵として働いて身に付けた高い操縦技術に目を付け受け入れた面もあった。
だから、彼に専用機を与えたのだ。
「キサマ……!」
レイはクルスを鋭く睨みつける。
その形相は、とても恩人に向ける顔ではなかった。
「次の戦いまで牢屋で反省してくれたまえ」
「クルスッ!」
とうとう呼び捨てで叫ぶも、兵士に抑えられクルスは去っていく。
「アレク……レイ……」
戦う為に生まれ利用されていたアレク。
家の為に利用されていたレイ。
真実を知り二人の心は深く傷付く。
リンもこの事に怒り悲しみ、どうにかしたい思いでいっぱいであった。
しかし、リンはどうすればいいか。
なんと声を掛ければいいのか、わからずにいた。
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