第31話「戦場のミュード」
今度こそはと、ミュードを奪還すべく三度目の戦いが始まろうとしていた。
レーゼの承諾もあり、ゼイオン軍からの応援が決まり、エレシスタとゼイオンの共同作戦が立てられる。
しかし、これでミュード奪還戦も三度目。
幹部であるビショップの捕獲という成果もあったが、二度による作戦失敗により、エレシスタ軍内の士気が低下しつつあった。
この戦いが人間とガーディアンズの行く末を大きく左右する、重要な場面であるのは言うまでもない。
ヴォルフブレードにルーク。強敵であるオリジンに対し、同じくオリジンであるラルク達第五小隊も向かうことになった。
「やっぱ、ルークとヴォルフブレードってのもここにいるっぽいわね」
ミュードへ偵察に向かっていたスアンのイーグルランサーが戻ってくる。
これだけ重要な戦いとなれば、偵察も怠るわけにはいかない。
「スアンさん偵察お疲れ様です。あの二機がいるとなると、部隊を二分する必要がありますね……」
一機を集中して倒すという事も出来るだろう。
しかし、それでは他の部隊にも負担がかかり、被害も大きくなる。
その事を考え、クレアは第五小隊を二分する事を決める。
「それならボクとスアンはルーク、デルトとラルクとクレアはヴォルフブレードでいいんじゃない?」
どのメンバーを向かわせるか悩む彼女に、ヘンリが助言する。
ラルクに兄が操るヴォルフブレードの相手をさせるのは、彼なりの考えがあっての事なのだろうか?
クレアからしてみれば、それは合理的ではないと思った。
「お兄さんの事考えて、ルークとの戦いに専念出来ないより、いっそそのお兄さんと戦ったら踏ん切りがつくんじゃないの?」
ラルクには聞こえないようにと、ヘンリはクレアの間だけで通信を行う。
なるほど、そういう事かとクレアは納得した。
確かに、彼の言う事は一理ある。
「なるほど……ですが、お二人でルーク相手して大丈夫ですか?」
「まっ、そこは上手くやるよ。ねっ、スアン」
「えっ?まぁ、アタシ達に任せなさい!」
再び他のメンバーに聞こえるように通信すると、ヘンリはスアンへ尋ねると、彼女はどこか自信に溢れたように答えた。
クレアは大きな戦いを前にしているからか、スアンの言葉が頼もしく聞こえた。
「その代わり、ちゃんとケリ付けなさいよ!」
ラルクにヴォルフブレードの相手をさせる、それにどういう意味が含まれているのか、スアンも察しがつく。
彼女も仲間として、少しでも早くラルクの立ち直ることを望んでいた。
「それじゃ行くぞ、ラルク!クレア!」
第五小隊は二手に分かれ、それぞれの敵へと向かう。
「あの、ラルクさん……」
「……なんだ?」
クレアはラルクへ通信を入れる。
「ラルクさんが思って、考えて、納得した答えを出して下さい。例え私達の敵になったとしても……」
この発言は軍人としては失格かもしれない。
だが、彼女はラルクを強制して、兄と戦わせたくなかった。
自分の意思で、自分の出した答えの元で戦って欲しかった。
ただそれだけであった。
***
ミュードの街……
そこにはガーディアンズのポーンが徘徊していた。
この街に住んでいる人々を監視し、反抗の意思が見えれば抹殺するという訳だ。
おそらく、彼らがこの世界を支配し人類を管理するようになれば、世界中がこのようになるのだろう。
街の人々の殆どは広場に集められ、周りにはポーン、そしてヴォルフブレードが監視されていた。
10メートルもある巨人に監視され、広場の人々は怯え、縮こまっていた。
エルクはそんな人々の様子をモニター越しに見ていた。
ヴォルフブレードの二つの眼が向けられると、「命だけは」と言いたげな顔を向ける。
そんな時、突然光が走る。
監視をしていたポーンの頭部を撃ち抜れ、仰向けに倒れていく。
魔動機の操者ならば、その光が魔弾であることはすぐにも分かった。
頭部を撃ち抜かれた魔動機は目を潰されたも同然。
完全に視界を失い、実質戦闘不能となった。
魔弾は大分離れたところから放たれた。
そんな長距離から頭部に命中させる操者となれば、相当の実力者だ。油断できない。
エルクはポーン達に指示を出し、魔弾が放たれた方へ向かう。
「まずは一発当てた。こっちに来るぞ」
魔弾を撃ったのはハオンのレーガインであった。
ゼイオンの中でも射撃に秀でている彼ならば、狙撃の正確さも説明がつく。
「よくやった!よし、行くぞお前ら!」
ハオンの報告を聞き、ライズは部下達が操るウォーガイン部隊の先頭に立ち、ガーディアンズの部隊に立ち向かっていく。
そして、ライズ率いるゼイオン軍とガーディアンズが激突する。
ウォーガインが棍棒を振りかざし、ポーンの頭部を潰す。
一方では、ポーンの剣がウォーガインの胴体を貫いてる。
混戦なのは、見てるだけでも分かるほどであった。
「はァッ!」
ヴォルフブレードは逆手でウォーガインを切り裂き、軽くあしらう。
性能差、技術、どの面を取ってもエルクの方が上であった。
すると、ヴォルフブレードの元にブーメランが飛んでくる。
剣でブーメランを弾くと、ライズのヴァーガインはすぐに弾かれたブーメランを手に取る。
ヴォルフブレードに斬りかかるが、剣に受け止められ、刃と刃がぶつかり合う。
「ゼイオン人かッ!何故エレシスタにッ!」
エルクはヴァーガインの外見から、すぐにゼイオンの魔動機だと分かった。
何故ゼイオン軍がエレシスタのミュードに来ているのか?
彼にはそれが分からなかった。
「そういうテメェは何故人間の癖に、ガーディアンズの味方をしてるッ!」
今度はライズが尋ねる。
ガーディアンズであるがポーンとは違う。
他のガーディアンズのような、違和感やぎこちない動きがない。
ヴォルフブレードと戦っているこの感覚、人の乗る魔動機を相手している感覚と変わりない。
相手は機械ではない。人間だ。
いくつもの戦いをくぐり抜けてきたライズは、その事に即座に気付いた。
「こんな世界は機械であるガーディアンズに支配された方がマシだッ!だから俺はガーディアンズの味方をするッ!」
「ああ、そうかいッ!」
ああ、お前はそういうヤツか。
ライズはそう思った。
事件の後で知ったが、あの時のゾルディオンの操者、確かレイだったか。
彼もこの世界に絶望し、ゼイオンとエレシスタを滅ぼそうとした。
エルクもレイと同じだ。
師匠のガゼルが守ろうとしたゼイオンをこんなヤツらに支配されてたまるか。
ライズはヴァーガインを後退させ、態勢を取り直す。
「ライズッ!」
ライズを援護すべく、レーガインは銃を両手で構え、銃口をヴォルフブレードに向ける。
そして、機体の足元と銃口に魔法陣が浮かび、魔弾が放たれる。
魔弾が風を切り、空中を走る。
「そんな弾に当たるかッ!」
しかし、魔弾がヴォルフブレードに命中する事はなかった。
ヴォルフブレードは回避に成功し、魔弾が地面に着弾する。
ハオンは自分の射撃技術を過信はしていなかったが、自信があったのは確かだ。
ポーンとは大きく異る外見から警戒はしていたが、やはり強敵だ。ハオンはそう確信した。
「まだだッ!」
敵に反撃のチャンスを与えるわけにはいかない。
レーガインは次に、さらに次にと魔弾を撃ち込む。
それでも、ヴォルフブレードに魔弾は命中せず、無駄のない動きで回避していく。
だが、どんな操者でも、魔動機でも、隙は必ず生まれる。
エルクがレーガインを相手に集中している。それこそが隙とも言えた。
そして、ハオンは一人で戦っている訳ではない。心強い相棒がいる。
「もらったァッ!」
ヴァーガインはヴォルフブレードに向けブーメランを投げる。
ハオンが射撃で引きつけ、今度はライズが攻撃をする。
これまで共に戦ってきた彼ららしい連携であった。
しかし、それでも攻撃は命中しない。
ヴォルフブレードは魔法陣をくぐり、ヴァーガインに向かって突撃する。
まずい、ブーメランはまだ戻ってこない。今のヴァーガインは丸腰だ。
魔術により、10メートルはあるはずのヴォルフブレードはブーメランよりも速い。
さすがのハオンも、高速で進む敵機に魔弾が当たらない。
気が付けば、ヴァーガインの至近距離にヴォルフブレードの姿があり、剣が振り下ろされる。
「クソッ!」
もしかしたらここで死ぬかもしれない。
そんな後ろ向きな思いを浮かべながら、ライズはヴァーガインで回避行動を取る。
なんとか致命傷は避けれたが、無傷とはいかずヴァーガインの右腕が斬り落とされる。
さらに悪い事に、態勢が崩れ機体が仰向けに倒れる。
もうダメか……
ライズは諦めかけていた。
彼は実力は勿論、四度もオリジンと対峙して生き延びた判断力、そしてその強運をレーゼに認められ三将軍の一人となった。
だが、今度こそはその強運が回って来なかったようだ。
「師匠……ハオン……!」
亡き師匠であるガゼル、良き相棒として共に戦ってくれたハオンの名を思わず呼んでしまう。
死を覚悟したその時、ヴォルフブレードが何かに気付き、ヴァーガインとは違う方に目を向けていた。
コイツはどうでもいい、いつでも倒せる。
そう判断をしたのか、ヴォルフブレードはライズを無視してどこかへ向かう。
その先には……
「レオセイバー……!ラルク……!」
レオセイバー、ピーフォウィザー、ダイノアクスの三機の姿があった。
ソウルクリスタルを搭載した敵機を最優先で破壊せよという、クイーンが直接下された命令をエルクは遂行する。
「来いラルクッ!敵になるならお前を殺してやるッ!」
ラルクがガーディアンズ側に寝返るにしても、戦う事になるとしても、どのみち以前のような暮らしには戻れない。
どうせ敵となるならば、いっその事兄である自分が、この手で殺してやろう。エルクはそう考えていた。
一方、弟のラルクは未だ迷いを振り切れない。
レオセイバーとヴォルフブレード、二機の目が合う。
獅子と狼、弟と兄、再び戦場で相見える時が来た。
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