第2話「二つの血」前篇
千年以上も昔、エレシスタ王国は魔力を動力した技術、魔術を発展させ栄華を誇っていた。
人に宿る魔力は微々たる物であり、小石一つ動かせるかどうか怪しい。
だが、魔力を増幅させる性質を持つ魔動石の発見が革新をもたらし、魔術を作り出し、魔動石を核に魔力を動力とした兵器、魔動機を生み出した。
そうして、人々の生活に魔術が欠かせなくなり長い月日が経った頃、人々の中に特異的な体質を持つ人間が現れ始めた。
その名は魔族。
尖った長い耳程度しか外見では区別が付かないが、彼らは身体能力に秀でており、その上魔力が高く魔動石無しでも魔術を使う程の者もいた。
彼らは人類の進化ならば、魔族ではない旧人類は滅ぼされるのではないか。
生まれながらに優れた能力を持つ魔族を許せない。
そんな彼らの疑心や不満が魔族への弾圧、差別を強くしていく。
エレシスタ人は魔族に対し奴隷に等しい扱いを行うが、彼らがそんな扱いに納得している訳が無かった。
魔族よりも劣るエイシスタ人が魔族の上に立とうとする事に対し彼らは怒り、独立しゼイオン帝国という一つの国を作り上げると、ついには宣戦布告するまでに至った。
身体と魔力共にエレシスタ人に勝る魔族が一丸となり戦争が始まるとなれば、エレシスタが滅ぼされる可能性が十分にある。
エレシスタは魔族に対抗すべく魔動機を開発し、対魔族姿勢の周辺国と併合し地上の半分近くを勢力下に置くほどの国家へとなる。
ゼイオンも勢力を拡大し、世界の殆どはエレシスタとゼイオンの二つに分かれていった。
そして彼らは地形すら変え、さらには世界すら滅ぼせるほどの魔動機を作り上げ、戦争は破滅的な結末を迎えた。
どちらが勝ったかも分からぬこの戦争は後に大戦と呼ばれる事になる。
エレシスタとゼイオンは復興に専念し、魔術及び魔動機を禁忌の技術として封印した。
それから千年近く経った現代、大戦のような未曾有の戦争を経てもなお、エレシスタとゼイオンの戦いは終わっていなかった。
両国は防衛と侵略の為に強い力を欲し、ついには禁忌とされた魔動機を解き放ち、オリジンと呼ばれる僅かに残った大戦時に作られた魔動機を分析して再び魔動機を作り上げるようになった。
そんな戦乱の収まらぬ世界に、魔動機を駆ける混血の少年がいた。
彼の名は、レイ・フィ・ロートス。
ゼイオン人の父と、エレシスタ人の母を持つ彼は、ゼイオン人とエレシスタ人共に混血児や雑種などと忌み嫌われた男であった。
彼も、アレク・ノーレの一生に大きく関わる人間の一人である。
***
テンハイス城。ツバークの北に位置する城であった。
普通の一般人であれば、ここには来ることも入ることもないだろう。
だが、アレク・ノーレは一般人であっても、普通とは言えない。
生まれて初めて魔動機に乗り、ゼイオンの魔動機を倒したのだ。普通ではない。
それもオリジンに乗り戦ったのだ。そんな特異的な存在である彼をエレシスタ軍は放置する訳がなかった。
放置していれば魔動機に乗って何をするのか、エレシスタ軍から見れば未知であったからだ。
その為、アレクは黄緑色の魔動機の操者、リン・フェールラルトにより強制的にここへ連れて来られて二日間、尋問の日々が続いた。
「どこで魔動機の操縦を覚えたんだ」
「何故アークブレードを動かせたんだ」
何度も何度も聞かれても、答えは
「わかりません」
「知りません」
それだけだった。寧ろ、その答えを最も知りたいのはアレク本人だ。
どうやらアークブレードはオリジンと呼ばれる千年以上も前に作られた魔動機で、生体認証によりアレクにしか動かせないようになっている事を尋問された時に知った。
何故校庭の地下にに魔動機が埋まっていたのか。
何故あの時アークブレードを動かせたのか。
考えても考えても、答えは出ない。
そして城に来て三日。
その日の午前、あの魔動機の操者リン・フェールラルトが彼の目の前に現れた。
「私はリン・フェールラルト。あの時キミに銃口を向けた魔動機の操者よ」
緑髪のポニーテールをした女性が自己紹介をする。
15歳からエレシスタ軍に入軍出来るとはいえ、若く見えた。
身長はアレクと同じくらいで、彼女の方が一、二歳は年上のように見えた。
「キミが取れる選択は二つ。この軍服に袖を通してアークブレードに乗って戦うか、もう一つはこのまま牢屋で過ごすか。キミが選びなさい」
リンは、アレクに軍服を渡しそう冷たく告げた。
たまたま校庭から出てきた魔動機に乗って戦え。
乗らないならば牢屋で過ごせ。
理不尽だ。アレクはそう強く思った。
それはリンも思っていた。
しかし、軍人である以上は上官からの命令は絶対であり、唯一アークブレードを乗れる操者を確保するにはこの強引な方法しか無かった。
取れる選択は二つと言っても、アレクが後悔せずに取れる選択は一つしかない。
「憎んでくれたっていいわ。でも今の私にはこうしか言えないの……」
「俺は人殺しにはなれません」
「キミの気持ちはわかる。でも、私達は人を殺すために戦うんじゃないの。この国とこの国に住む人を守りたいの」
リンの言う事は正しかった。
それはアレクもよく分かっていた。
だが、それでも、彼は納得出来ずにいた。
「俺はゼイオン人を許せない。だけど……だけど、誰かを守る為に殺すのはいやです。こわいんです」
リックの仇を取ったまではよかった。
アレク自身も後悔はしていない。
だが、あの時ゴブルの操者を刺したあの時の記憶が強く脳裏にこびり付いていた。
「私もね、人を殺すのは嫌よ。仕方ないで片付けたくはないけど、それでも襲ってくる敵を誰かが殺さないと他の誰かが殺されるのよ」
リンは暗い顔で話した。
今までの戦いを思い出したような、そんな顔だ。
アレクの脳裏に二日前の記憶が浮かぶ。
あの時もそうだった。アークブレードに乗らなければ、誰かが自分さえもゴブルに殺されていた。
仕方ないで済ませていいのか、アレクは分からない。
それでも、あの時はそれしか方法が無かった。
そうアレクは思った。
「これだけは覚えてて。キミが戦ったお陰で助かった人がいるってこと」
優しいその一言にアレクは救われた。
困っている誰かを助けられた。
それだけでアレクは自分の行いが恵まれた気がした。
「俺に何か出来るかわからない。ゼイオンの誰かを傷つけるのも気が進まない。だけど、それでもこんな俺が力になるなら入ります、軍に」
アレクはリンの手にある軍服を受け取った。
誰かを殺す為ではなく、誰かを守る為に戦いたい。
誰かがその手を血に汚すなら、アークブレードに乗れる自分がなろう。
「よろしくね、アレク・ノーレくん」
「こっちこそ、リンさん」
「ふふっ、気軽にリンでいいわ。これからキミが所属する小隊の隊長だから、これからよろしくね」
さっきとは違い、明るい表情でリンは右手を出した。
アレクも右手を出し、リンの右手を握り握手する。
こうして、アレクの軍人としての日々が始まった。
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