第2話星空の理由

 ちえりちゃんが小学校から帰ると家はいつも真っ暗です。おかあさんは働きに行っていて帰るのはいつも夜おそくになります。

 ちえりちゃんは、毎日夜7時くらいに帰ってくると、持たされたカギで家に入ります。

『ひとりぼっち』と感じたことがあります。

でも、今は慣れました。

 真っ暗な外から真っ暗な家の中に入ると、電気をつけないことも多いのです。そうすると辺り一面真っ暗で、外と家の中がつながったようです。

 ちえりちゃんの部屋は2階にあります。ベランダに出て星空を見上げます。いつの日からか、星空で遊ぶようになりました。それは、公園の砂場で遊ぶのと似ています。

 星と星をつないで、新しい自分だけの星座を作ったり、赤い星や青い星やひときわ明るい星をさがして数をかぞえたり、星のまたたきにあわせてリズムをとったりします。

 図書館でおかあさんが借りてきた星の図鑑も読みました。家にあった星座の早見盤もほとんど覚えてしまいました。ベランダの正面にはオリオン座が大きく輝いています。それはそれはみごとでした。

 

 ある夜、ちえりちゃんはベランダに小石が1個落ちているのに気づきました。『なんでベランダに小石が落ちているのだろう』と不思議に思いました。

 小石を拾いあげて、手のひらでころがしたあと、そこにある植木鉢の中に入れました。


 その次の夜もベランダに小石が落ちていました。だれかがベランダに投げ込んだにしてはなんだかすごく静かな気がしました。ちえりちゃんは、なぜかはわかりませんが、さわいでいる石と静かな石があるように感じています。

 手にとってよく見てみます。ちょっと青いような色をしています。この色が静かに感じる原因でしょうか。

 そして、植木鉢の中に入れました。


 それから1ヶ月間毎日、ベランダに小石が落ちていて、ちえりちゃんは5つの植木鉢に種類ごとにわけて入れました。青っぽい石ばかりの鉢、赤っぽい石ばかりの鉢、光っているような石ばかりの鉢、黒々としている石ばかりの鉢、そして、なんの色もない石ばかりの鉢。

 ちえりちゃんには、なんの色もない石が一番不思議でした。数は少なく、7個あります。

 その7個をベランダのゆかに並べました。ただ並べるのではなく、星座の形にしました。大好きなオリオン座です。

 オリオン座は、上から2つ、3つ、2つの星が輝いています。左上は赤い巨星のベテルギウス、右下は青いリゲル。ベテルギウスはあんなに激しく輝いているのにもうすぐ消えてなくなってしまうのだそうです。

 小石たちは、チラチラと光りました。左上の小石は、赤い色に変わりました。右下の小石は、青い色に変わりました。まるで本物のオリオン座のようです。

 ちえりちゃんは、空のオリオン座と見くらべました。たしかに、色だけではなくて、まばたくリズムも一緒です。

 次の瞬間、オリオン座のまわりにたくさんの流れ星が降りました。

「バラバラバラバラ!」

 ちえりちゃんの足もとに、たくさんの小石が落ちてきました。あまりに突然だったので、目を丸くしました。なにが起こったのかすぐにはわかりませんでした。

 次にたくさんの流れ星が降ったとき、ちえりちゃんは確信しました。

「バラバラバラバラ!」

 ちえりちゃんの足もとに、また、たくさんの小石が落ちてきました。

「小石は星くずなんだ」

 今は10月下旬で、オリオン座を中心にして、たくさんの流れ星が降るのです。

「バラバラバラバラ!」

「バラバラバラバラ!」

「バラバラバラバラ!」

 おかあさんが帰ってきて、ベッドで寝ていても、音は続いていました。

「バラバラバラバラ!」

 翌朝、おかあさんは不思議そうにベランダの小石を片づけていました。


 夜になり、昨日よりは降ってくる小石が少なくなりました。ちえりちゃんは、天空の星の位置と同じように、小石をひとつずつベランダに置いていきました。置いている間も小石は少し降ってきます。ひとつずつひとつずつ丁寧に置いていくうちに、ベランダは夜空のようになりました。

 熱心に並べていたのでしばらくは気づきませんでしたが、ふと目をあげると、ベランダの小石が全体的にずれていました。ベランダの外の方へずれて、小石がはじっこにたまっていました。星空が回るのといっしょに、ベランダの小石も回っていたのです。たまった小石は一直線になっていました。

 ちえりちゃんは夜空をみました。空の星も一直線にたまりはじめていました。

 ちえりちゃんはとてもあせりました。

「わたしが星空をめちゃくちゃにしちゃう」

 一生懸命、もとにもどしましたが、小石がずれてくるので、きりがありません。とても寒い夜で、ちえりちゃんは身体の芯まで冷たくなりました。


 いつの間にか、ちえりちゃんは倒れていました。病院で目が覚めたとき、おかあさんはとても泣いていました。いつもひとりにしていたことを何度もあやまりました。

 ちえりちゃんは元気になるまで1週間、入院をしました。病室でテレビをつけると、ニュースで『夜空から星がすべてなくなった』と騒いでいました。いろいろな人がそんな怪現象を議論をしていました。世界中の科学者がいろいろな話をしていました。宇宙の終わりだとか、宇宙人のしわざだと言う人もいました。

 ちえりちゃんにはなんで星がなくなったのかということに心当たりがありました。

 退院の日になりおかあさんに尋ねました。

「ベランダに落ちていた石はどうしたの?」

 おかあさんは、こう答えました。

「全部、捨てたわよ」

 ちえりちゃんは、すべてをもとにもどさないといけないと決心しました。


 それからちえりちゃんは、1日1つの星座を作りました。

 河原で拾ってきた小石を星座の形に並べて、しばらくしてそれらが光りだしたら星座の完成です。あとは、小石をそっと拾いあげて、川に捨てます。

 最初の星座ができたとき、テレビのニュースは大騒ぎでした。最初にできた星座がオリオン座なのはなぜなのかという話もしていました。

 12個の星座を作ったあと、ちえりちゃんは、以前にはなかった新しい星座を3つ作りました。とてもよくできたと思いました。新しい星座の場所をあけるために、ほかの星座にはちょっとつめてもらいました。

 テレビでは、新しい3つの星座の名前を募集しだしました。だれでも応募できるとあって、幼稚園生からおじいちゃん、おばあちゃんまで、楽しんで名前を考えました。

 アナウンサーが興奮気味に言いました。

『新しい星座の名前が決まりました! 発表します!』

 テレビ画面に名前が大きく映りました。

『大宇宙人座』

『中宇宙人座』

『小宇宙人座』

 変な名前だなと思いました。一番、応募が多かった名前なのだそうです。

 でも、この3つの星座の本当の名前はちえりちゃんだけが知っています。

 それは、

『おとうさん座』

『おかあさん座』

『ちえりちゃん座』

 たいせつな家族の名前でした。いっしょにいたい家族の名前でした。


                                おわり。

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