小品集
ソーダ
第1話カメ吉とウサギのミミ
ここは森の学校です。今日もカメのカメ吉は失敗ばかりしていることにくよくよしています。
いつもうまくいってばかりいるウサギのミミに相談をしていました。
「ぼくは今日もうまくいかなかったんだ」
カメ吉はウサギのミミにあこがれていました。
「どうしたの?」と、ミミは今日も相談にのってくれます。
「今日の午後に、運動会の練習があるよね。
ぼくのおとうさんとおかあさんが、かけっこで1位をとりなさいと言うんだ。それでぼくは1位になることを約束したんだ。
でも、そんな約束をしなければよかった。
ぼく、はやく走るなんて無理だ」
ミミは、カメ吉が自分でできること以上のことをしようとして、いつもうまくいかないことをよく知っていました。
この間も、身体測定で身長が高くなりたいと手足を甲羅から精一杯に伸ばしていたけれど、ほとんどかわりませんでした。
ミミは小さな声でこっそりと言いました。
「そんな時は、家に帰ったら、おとうさんとおかあさんに1位になったとウソを言えばいいわ」
「運動会に見に来たら、すぐにばれてしまうじゃないか」
「去年は何位だった?」
「去年は6位さ」
「だったら今年は5位になるわ。順位が去年よりあがったって、おとうさんとおかあさんに言うといいわ」
「なんだって、そんなことがわかるんだい?」
「今年は5人ずつで走るからよ。去年より、ちょっとだけ人数が減ったから」
「ビリにはかわりないじゃないか」
「でも、順位はあがっているわ」
その午後のかけっこの練習はビリの5位でした。
翌日、学校に来たカメ吉はミミに言いました。
「ビリだって言えなかった。5位だって言ったら、よろこんでいた」
「くよくよすることはないわ。足がはやくなるように特訓しよう」
放課後、校庭で自主練習です。
ミミははやく走るコツを教えます。
「手は大きく前に出し、胸に引き寄せるように」
「足はヒザをけり出し、力強く伸ばす」
カメ吉は、最初こそ手足がうまく動かず、バタバタとしていましたが、200回くり返うちに、コツがつかめてきました。
そのうえ、すごくはやくなりました。カメのようではありません。
運動会の日がやってきました。
おとうさん、おかあさんがカメ吉の応援に来ました。
カメ吉のかけっこの番になりました。スタートラインに並んだのは、全員、同じクラスのカメです。大きなカメもいます。カメ吉は小さい方です。
「ヨーイドン!」
カメ吉はカメとは思えないスピードで走りました。ハトが歩いているくらいのスピードで走りました。はやい!はやい!
接戦でしたが、みごと3位になりました。
その夜の晩ご飯には、ごちそうのニンジンが出ました。おとうさん、おかあさんはずっとカメ吉の走りっぷりを話しつづけました。
カメ吉は、明日になったらミミにこのニンジンを持って行って「ありがとう」と言おうと決めていました。
おわり。
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