第7話 少年の話 1-7 恋
予感は的中した。
奈々子さんは近所にある青い看板のコンビニで発泡酒と缶のカクテル、あとウイスキーを買い、俺は百円程度のスナック菓子を購入した。俺のぶんはおごりだといいながら、奈々子さんはするめいかを籠に投げて、合計で三千円近く買い占めた。
それからすぐに家へ戻った。俺は飲まされるのか、と不安になって「そんなにたくさん買って飲めるんですか?」と耳打ちをすると、冷蔵庫があるから平気だよ、とウィンクした。
そんな感じで俺は断りきれずに缶のカクテルのプルタブを開けることになってしまった。
「はじめてです」
奈々子さんは驚愕した。
「私が中学の頃は外で缶ビールを飲んでたぜ、蓮君は良い子なんだな」
奈々子さんは350ミリリットルの缶をいっぺんに飲み干した。
「やっぱビールに比べたら味は劣るな」
俺は発泡酒とビールの違いが分からず、頭の中ははてなマークでいっぱいになった。それからカシスオレンジを口に流し込んだ。あれ、これジュースみたいでおいしい。
「どうだ、初めての酒は」
「ジュースみたいで飲みやすいです。伊藤君も生きていた時はこんな感じで飲んでいたりしてたんですか」
まあな、とウイスキーのふたを開けた。
「あいつ、生きてたら酒豪になってたぜ。飲みっぷりが豪快だったし」
話している途中で奈々子さんは目が潤みだした。
「ごめん、みっともないな」
腕で拭いながら、俺に背を向けて体育座りをした。しゃくりあげる声が聞こえる。
俺はどうすればよいのか、何を話せばいいのかわからなくなって、ただカシスオレンジを喉に流し込んだ。
「結局私、慰めてほしいだけなんだよ」
どうにもできない、どう慰めりゃいいのかもわからない俺は、多分寂しい育ちの人間だろう。
立ち上がって、奈々子さんの丸まった背中にぴったりと密着して、腕を体に回し、右手で頭を撫でる。
「すみません、俺にはこれくらいしかできないんですよ」
細い体の背骨が体に当たる。年上でもこんなに体は小さいのか、とまじまじと抱きながら考えた。
「なんで私が、クソガキに慰められなきゃならねえんだよ」
「じゃあ、離れたほうがいいですか」
すると奈々子さんは俺の腕を掴んだ。
「離れるなよ」
それから、俺と奈々子さんは一時間くらいはずっと引っ付いていた。正直恥ずかしくて、顔から火が出そうになっていたけれど、酒に酔っていたせいかどうにか正気を保てた。これが俗にいう「酒の力」なのだなとしみじみと思い知った。
奈々子さんの鼻が肌色に戻った後、俺と奈々子さんは目を合わせるのにも躊躇した。多分、お互い恥ずかしかったのだ。
「さっきのこと、忘れてくれよ」
唇を尖らせて奈々子さんは言った。
「そのつもりです」
俺は頷いて、時計が八時を過ぎているのに驚いた。早く帰らなくちゃ、母親に叱られる。
「また来てくれるか?」
聞いた彼女の目は、泣いているわけでもないのに潤んでひどくか弱く見えた。
「ええ、絶対に来ますよ」
笑顔をつくろってから、その後俺は走って帰宅した。
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