第12話 相手を想うこと

「そうか、今日の放課後か」

「うん」

「心配するな、いざという時は俺がいるから。何も気にせず行ってこい」

朝の下校時、俺はいつも通り西沢の家に行き一緒に

会話しながら学校へ行く。

無論今回の作戦や牧野たちの会話ことは一切話していない。

そう、俺はいつも通りの平和な日々を守るために何も話していない。

これから何が起こり、何が行われるのかも。

その日の放課後に俺はすぐ部室に向かった。

当然その中には西沢もいて事情を知ってる部員もいる。

けどどの部員もそのことを一切口にせずいつも通りの活動をしていた。

「今日はかつやくんもいるんだ。珍しいね」

「まあ、気まぐれってやつさ」

時は静かに流れた。その時間が近づくにつれ部員の数人は

台本をなるべくバレないようにチェックしていた。

「君たち、頑張っておるか?」

部室に顔を出したのは校長先生だった。

「校長先生どうして?」

「ああ、俺が呼んだんだ」

諸星さんは姿を現した。

「事情は全てきいたよ。君たちは本当に頑張り屋さんだねぇ。

私も少し見習わねばならんな」

相変わらずな校長先生だ。校長先生は生徒に対してフレンドリーで

各部活にも時折顔を出していた。

「そろそろ行くね」

そういって西沢は部室から出ていき、部員はみんな集まった。

「じゃあ、俺がスマホで合図を送ったら作戦をお願いします。

一応彼らの様子を見ておきたいですから」

部員がみんなうなづく。

「そりゃ楽しくなってきたなーお前ら」

諸星の声とともに部員の人たちもみんなテンションが上がっていた。


俺はすぐさま告白される場所へ向かった。

その時間は今から15分前だから先に待機することができた。

教室へつくと俺は掃除用のロッカーの中に身を潜め

時間まで待つことにした。

この状態での15分はかなり長く感じた。

そして西沢が先に教室で待機していて

3分後くらいに牧野がやってきた。

その時はあの牧野と話していた男子生徒は一緒では無かった。

「牧野くん…」

「わるい…遅くなったな」

牧野の息は荒かった。

2人を遠ざけるのに相当体力を使ったのかもしれない。

このままいけば今回の作戦を実行する必要は無かった。

「あのさ、西沢、、、実はな」

「おいおい、こんなところにいたのかよ水臭いな」

やはり来たか。まあ、そんな予感はしてたんだ。

「お前ら、いくらなんでもしつこいぞ」

「いいだろ、別に。じゃあさっさと茶番を終わらせてくれよ」

「何ですか…。あなたたちは?」

西沢もこの状況にかなり動揺していた。

そろそろかと思い、スマホの合図を出した。

「いや、ごめんよ、邪魔して。こいつのダチだよ。

まあなダチとして告白を見届けてやろうと思ってな」

「牧野くん。何で?こんなことを」

「お、俺は…」

その時ようやく合図で呼び出された部員が教室に入ってきた。

最初に入ってきたのは佐野さんだった。

「ん、なんだ?悪いけど今は出て行ってくれるか?」

「そんなこと言わないでよ。前からあなたのことが好きでした!

付き合ってください!」

「え!?マジで」

男子生徒の一人は佐野さんに告白されテンションが上がっていた。

これが俺たちの作戦だということも知らずに。

「いいよいいよ!すぐ付き合おうぜ!」

だがその後から部員のみんなが次々入ってきた。

「え〜、私もあなたのことが前から好きだったのに。

でも私と付き合ってくださいよ」

「おいおい、俺はいつからこんなモテ男になってしまったんだ」

「ちょっと待て!貴様ぁ、何人の女に手を出してるんだ」

「人のってなんだよ」

「えー、あなたよりこっちの人のほうがカッコいいし〜」

「おい、お前!よく俺の女をたぶらかしたな!」

「ちょっと待て、お前ら落ち着けって」

さらに次は合計5人の部員が入ってきた。

俺が言うのもなんだが、ロッカーからの景色はもはや修羅場っていう

レベルじゃなかった。

「私たちみんなあなたのことが好きです!この中から一人選んでください」

そして次に男子部員が入ってくる。

「おいおい、俺の可愛い子猫ちゃんよ。どうしてそいつがいいんだー」

「そんなのあなたが好きじゃないからに決まってるじゃない」

「さあ、はやく選んでよ!」

「はやく選びなさいよ!」

「おい、お前!どういうつもりなんだ!」

「ハーレムとかやる気じゃねえよな?そんなの俺がゆるさねぇぞ!」

部員がその男子生徒に一斉に言葉責めする。

状況を読み切れない彼らは流石に動揺していた。

「おいおい、お前たち。こんな軽い女より俺の方がいいぞ」

そういって出てきたのはドレス姿をしていた諸星さんだった。

こういうのはあれだがキモいっていうレベルじゃない。

「俺のハニーにならないか?そうしたらたっぷり可愛がってやるぜ」

「お前らこれはなんのつもりだ!」

1人の男子生徒が声を上げる。

「それは告白じゃよ」

そういって現れたのはパンツ一丁の校長の姿だった。

「わしがお前たちを受け入れてやろう。さぁわしの胸に飛び込んでくるんじゃ」

「もう勘弁してくれー!」

そういって男子生徒は出て行った。そして部員達はハイタッチをし

校長先生はすぐ服を着替えに行った。

「えっと、これはどういうことなんだ?」

「これはただの演技さ。まあ、あいつらにも後で詫びを言っておいてくれ。

お互い悪ふざけってことでチャラだ」

「うゎぁ、ロッカーにいたのかよお前!?」

牧野も今回のことで結構使えてる様子だった。

「みんな、どうして?」

「そんなの簡単だ。仲間だからだ」

諸星さんがドレス姿のまま言った。

「ちょっと諸星さん、その姿じゃせっかくの雰囲気も台無しですよ」

部員の一言で場のみんなが笑った。

「それもそうだな、じゃあみんな!今から部室で打ち上げパーティーを

やるぞー」

「はーい!」

部員のみんなは一斉に教室から出て行った。

「牧野くんだよな」

「あ、はい」

「やること済ませたら君も部室にこい。うまい物いっぱい用意しておくから

楽しみにしとけよー」

そう言い残し諸星さんは教室から出て行った。

「新城、お前…まさか…」

「もう邪魔はないだろう、俺も待ってるから」

「かつやくん!そのありがとう…。すごく嬉しかったよ」

「そうか…」

そう言い残して俺も教室から出たが部室には行かなかった。

やっぱり見守るって言ったからには最後までいないとな。

俺は教室の近くの壁に座った。

「わ、私がまずは言わないといけないよね。実は」

「いや、いいんだ」

「どうしたの?」

牧野のその声はどこか切ないけど嬉しそうで

でもちょっと寂しそうだった。


「俺、ようやく分かったんだ。人を本当に好きになるって

ことがどういうことかって。最初はお互いが好きって言うことで

お互い意識して2人とも幸せになれるものだと思ってた。

告白しなければその人が自分をどう思ってるか分からないと思ったんだ。

だけどそれは違った…。言葉以上にその人が好きな人のことを

どれくらい想っているかが大切だって。俺分かったんだ。

俺は西沢のことを本当の意味では好きな人として認識していなかったんだ。

だから、ごめん。この告白はなかったことにしてほしいんだ」


「うん、ありがとう。正直に話してくれて」


これで俺の役目も終わりか…。

「おい、お前ら。話は終わったよな。部室へ行こうぜ」


こうして俺は一つの未来を変えることができたんだ。

これは一人の力ではできなかったことだ。


みんながいたから、無事に平和な時間を守れたんだ。




















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