11人の若者と、芸人日記

南 桜兎

第1話 きっかけ

 「あ、え、い、う、え、お、あ、お」「か、け、き、く、け、か、こ」ここはとある雑居ビルの四階。そのテナントからは近所迷惑なくらいの大きな若者たちの声がこだましていた。

 ビルの入り口の玄関には泥がついたりした、とても綺麗とは言いがたい靴が乱れ散るように並んでいたが、漏れ聞こえる声は一国の軍隊のようにとても統率がとられたる声だった。

 それでも「はい!!!まだ声小さい!!!」「特にそこ!舐めてんのか!!??」ある男のの声がその声をもかき消すような大声で、こだまする。「はい、すいません」その男の声にこたえる男たちの声は、その者たちのほとんどがゆとり世代ということを忘れさせるような返事であった。

そしてその怒号は夕方の五時になるまでやむことは決してなかった。そうここは、芸人養成所。明日のスターを夢見る若人たちの巣窟だ。



 場所は変わりここは居酒屋「狩人」男女乱れた十一人の若者が威勢よく「かんぱーーい」と盛り上がっていた。

 「ぷはぁ!やっぱ授業後はビールがうまいですね」威勢よく第一声を上げたのは宮崎悟(さとる)という男。金髪が目を引くが笑った目元のしわのつき方が可愛くどこか憎めない男だ。そして、どっか無理しているなと感じさせるような男だった。視線の先にいるのは脇野純也。宮崎の相方だ。二人はアナドリアというコンビを組んでいる。

 「そうだなうまい」そう答えながらカシスオレンジを飲むのは北野龍騎。すかさず「カシオレって女子か!!」と雨宮夏稀が突っ込み、場をワッとわかす。キキの二人だった

 「ほんと飲み会だとキキっておもしろいよね」少しい大柄な女性の立花沙耶が腹を抱えて笑い「ぅん」と小柄な古希瑞樹が小さく同調する。   「フェミニアの二人は黙ってりゃ、イケるのに」とさらに笑いながら宮崎と同じくチャラそうな茶髪の佐藤阿人(あびと)が言い、「やめとけ」と冷静に加計敏正が止め、楠木凌駕がうなずく。息の取れた連携を見せる明暗無垢の三人。


飲み会が進む中で中で誰かが「みんなお笑い芸人の交換日記って読んだことある?」と言った。お笑い芸人の交換日記とは、有名放送作家の鈴木氏が書いた小説で、中村氏によって映画化され、某番組で実写版の企画を行われた作品であり、この世代の芸人の必読書であったが、あんま読んだ者はその中のメンツにはあまりいなかった。当然と言えば当然、皆読書といえば漫画、という社会の優等生なんて教室全体に片手いるかどうかのメンバーのうちの11人だもの。仕方ない。

 その本を紹介した者の他の者が「それ、面白いな」「俺たちもやろうぜ」と言い出した。みんな「まぁいいか」と思いながら合意した。そして、その席で二つのことが決まった。

⊡皆、個人で好きな時に思った事を日記に書き続けること

⊡皆、売れて十年後にみんなで集まり見せ合うこと

以上のことが決まり、なんとなく飲み会もお開きになった。翌日から互いにライバルの11人。社会の優等生ではない、皆、ただ約束事は、友情は守る11人。みな、それぞれ日記を書きながら芸人生活を続けていった。


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