第21話 小夜の気持ち

 哀來もシャワーを浴び終わり、さっきと同じピンクのイブニングドレスを着て出てきた。

「着替えないんですか?」

「いえ、これからわたくしの部屋に行って着替えに行きたいのですが」

「いいですよ。扉の前で待っていますから」

 俺はスマホを持って哀來と一緒に哀來の部屋に向かった。

 部屋の前に着くと哀來だけ入り俺は約束通り外で待っていると、誰かやって来た。

「……綾峰さん」

「哀來ちゃんはその部屋の中にいるのか?」

「はい。哀來さんに何か用ですか?」

「用も何も、義理の父親になる方が狙撃されたんだぞ! 婚約者の僕が駆けつけてくるのは当然だろ!」

 そうだった。

「失礼しました。哀來さんは今着替えているので入ることはできません」

「どうして着替えているんだ?」

 そこまで聞くのか。

「さっきシャワーを浴びたので」

『小夜様? 誰かとお話なさっているのですか?』

 ドアの向こうから哀來の声が聞えた。

「哀來ちゃん! 僕だ。針斗だ!」

 針斗さんはドアに張り付いて哀來に声をかけた。

 するとドアが開き、赤いイブニングドレス姿の哀來が現れた。

「針斗様! もしかしてお父様の事を聞いてこちらにいらっしゃったのですか? わざわざありがとうございます」

「いいんだ。しかし、本当に恐ろしい事件だよ」

「はい。あまりにもショックです」

「このままでは燕家は危険だ、君の命が狙われるかもしれない。そこで考えたんだ」

 どうするつもりだ?


「来月までに式を挙げようと思う」


『ええぇ!!』

 俺と哀來は同時に驚いた。

 いきなりかよ!

「そんな……急に言われても困ります」

 さすがに哀來も困惑している。

「大学卒業まで待つつもりだったがこんな事が起こってしまった。哀來ちゃんは誰にも殺させはしない。夫の僕が守る!」

「気持ちは嬉しいですが、間に合うのですか?」

「任せてくれ! 最高の式を用意するよ! ところで今日は冷たくないね」

「あの時は申し訳ありませんでした。わがままなわたくしをお許しください」

「い、いや、いいんだ。という事は僕と結婚する気があるという事なのかい?」

「はい」

「君はそこの家庭教師が好きじゃなかったのかい?」

「今でも小夜様は大好きです」

 ドキッとした。

 今まで何度か言われたような言葉だが、今はすごく胸に刺さる。いい意味で。

「ですがさっきほど振られてしまいました。ですから針斗様と結婚します」

 っ!

 ……歯を食いしばるような思いだ!

 なんでだよ! これで復讐成功だろ!

「本当かい!? 嬉しいな! でも哀來ちゃんって僕の事好き?」

「今はよく知りませんが、これから知って好きになります。なんせ夫婦になるのですから」

「そうこなくっちゃ!」

 二人の会話はとても弾んでいる。以前の哀來の態度がウソみたいだ。

 シャワーを浴びている時までの俺にとっては幸せそうなカップルに見えただろう。

 しかし今の俺には別の感情が生まれていた。

「そうだ! 結婚式では青龍先生にピアノを弾いてもらいたいんだけどいいかな?」

「とてもいい提案です! 小夜様お願いします!」

 哀來に頭を下げられた。

 本当は断りたいが、仕えているような身なので断ると後が面倒だ。

「わかりました。そのような形でお祝いできるのなら引き受けます」

「ありがとうございます!」

「青龍先生。これからそれについての話をしたいから応接室に来てもらいたいんだけどいいかな?」

「はい?」

 応接室? それって普通、客は案内する側じゃなくてされる側なんじゃ……。

「ちょっと2人で話したいことがあるんだ」

「えっ! でも哀來さんが一人に……」

「大丈夫です。柏野に連絡してわたくしの部屋の前にボディーガードを配備しますから」

「そうだね。先生、行きましょう」

 そう言われて俺は綾峰さんに連れて行かれた。

 応接室は一階の玄関の近くにあり、入ってみると十人くらい入れるほど広かった。

 俺は綾峰さんに言われてテーブル越しに向かい合うようにソファに座らされた。

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