第15話 母からのメール

 自室に戻り、壁掛け時計を見たら十時だったので風呂に入ることにした。

 この自室は風呂場付きという贅沢な部屋だ。

 風呂場に行こうとしたらスマホが鳴り出した。この音はメールの受信音だ。

 開くとお袋からのメールだった。

『連絡くらい入れなさい! あれから二週間ずっと連絡入れないから心配だったのよ! ピアノの練習中、アルトは一小節ずつ、私は一音ずつ弾くたびに心配しました! これからはちゃんと連絡を入れなさい! 必ずメールで。電話は聞かれるとマズイから。無事で帰って来る事を二人で祈っています』

 怒りまくりのメールだった。

 うん、これは俺が悪いな。

 言い訳させてもらうと、先生って忙しいんだよ。

 俺はすぐに返事を書いた。

『連絡を入れなかったのは謝る。色々忙しかったんだ。これからは連絡を入れるようにする。無事だからピアノの練習は集中してやってくれ』

 送信ボタンを押してスマホを洗面所に置いて風呂場へ向かった。

 また返事が返ってきたらすぐに返信できるようにするためだ。

 風呂に入り、頭と体を洗っている最中に柏野さんの話を思い出した。

 親父も復讐の為に燕家に潜入した。

 仕返しではなく親友が殺された事件の真相を探るため。

 しかし殺されてしまった。

 十七年間も追っていた真実を知ってしまったから。

「親父……そこまでして知りたかったのか?」

 天井を見上げて聞いてみた。

 もちろん返事は無い。

 何やってんだろうな俺。

 ピリリリリッ

 そんな事を考えていたらメール受信音が聞こえてきた。

 風呂場から出て、洗面所に掛けてあるタオルで手を拭いてスマホを手に取った。

 お袋からだ。さっきの返信だろう。

『練習はこれからはちゃんと集中するわ。それから、お父さんの秘書の架谷崎かやざきさんが「小夜君。事件のことについて知りたいの? なら今度事務所に来て」って言っていたわ。聞きに行く?』

 もちろんだ。

 俺はメールに『ぜひ聞きたい。連絡してくれ』と返信した。

 架谷崎さんは27歳の『エリート美人秘書』と呼ばれている女性だ。

 何度か会っているので信用できる。

 計画は狂ってしまったが俺の復讐はまだ始まったばかりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る