第8話 デート
「先生! 今日のミュージカル楽しみですね!」
次の日の午後、俺と哀来はミュージカル劇場の外の階段にいた。
「だからと言って、そんなにオシャレしなくてもよろしいですのに」
「そうですか? それほど目立つ服装では無いと思いますが……」
着いた途端、周囲からの哀來への視線が半端なくて落ち着かない。
白のパーカーの上に黒のジャケット、下は黒のジーンズの服装の俺に比べて哀來はかなりオシャレな服装だ。
水色のダッフルコートの下からは白のスカートが見えており、下に履いているタイツには黒に白のストライプがプリントされている。
靴は水色の編み込みショートブーツ、片手には小さい手下げバッグ、というファンシーな服装だ。
「これ全部、まだ未発表の燕舞オリジナルデザインの服なのですよ」
「そ、そうですか」
だが俺にはどこかで見た事があるようにしか思えない。
気のせいか?
女の服なんてどれも似たような物にしか俺には見えないからな。親父と違って。
よく見ると手さげバックの他に少し膨らんだエコバックを持っている。
俺が昨日言った『ミュージカルを観るときのおすすめアイテム』を持ってきたのだろう。
「一緒にいる男は大したことないな」
「なんであんなイケメンでもない男があんな美人と一緒なんだ?」
「非美男超美女カップル」
いろんな言葉飛んできたが気にしない。
俺彼氏じゃないし。
確かにこいつは俺好みの女だが好きになる事なんて……。
「先生?」
「!」
いきなりで驚いた
「ど、どうしました?」
「良かった。何だか上の空でしたから」
「心配掛けてすみません」
「気にしないでください」
クソっ!
俺はいつまでコイツに頭を下げなきゃいけねぇんだ!
早く復讐を済ませなきゃいけねぇってのに!
なのに何故だ! 復讐しようという気持ちがわかない。
復讐する勇気が無いから? いや違う。
コイツが俺好みの女だからか!?
「先生。そろそろチケットを出した方がよろしいかと」
「ああ。そうですね」
俺の焦りをよそに話してきた。
入り口の目の前まで来たので俺はチケットを取り出して手に持った。
列に並んで少し待っているとチケットを見せる番になり、受付の人に見せて半券にしてもらった後、自分達の席を探した。
どうやらステージ近くの真ん中の席だった。
「ここって……一番いい席ですか?」
「はい。私もこんな席初めてです。出演者の表情も見られるので、とても高い席なんですよ。こんなすごい所で見られるなんて……」
すげぇ……。
今までは安い立ち見席と、たまに奮発して買う二階の一番後ろの席しか見た事がない。
こんな席で見れる俺はかなりラッキーだ。
「昨日でこんないい席を取れたなんて。柏野ったら一体何をしたのかしら?」
「気になりますね。でも周りを見ればいつもより空いているので今日はあまり来ない日らしいですね」
「平日の昼という事もあるからでしょうか?」
「そうかもしれません」
言った後に思い出したが、ここは高い席だからという理由もあって空いていたと思う。高い席は安い席よりも遅く売れる傾向があるからだ。
俺達はそれぞれの席に座った。
「先生。先生がお勧めしてくださったアイテムを持ってきたので確認してもよろしいですか?」
「はい。どうぞ」
「まずは寒さ対策の膝掛けとカーディガンです。暖房はかかっていますが二月ですものね。次にお茶です。突然喉が渇いたときの為に休憩時間に飲むのですよね」
「お勧めした物全部持ってきたんですか?」
「はい。突然寒くなったり喉が渇いたりしたら大変ですから」
コイツ……本当に俺の事を慕っているんだな。
「楽しみですね。先生」
「はい。そういえばあらすじは知っていますか?」
「昨日調べてきました。見終えたらもっと楽しみになってしまいました」
「それは良かったです」
女主人公の話だしな。男の俺でも気になるほどおもしろそうな作品だ。
公開して今年で三年目。地方公演も行っている大人気作品だ。
今まで見に行かなかったのは他の作品も気になって行けなかったからだ。
ブーーーーーー
開演開始のブザーが鳴った。
今までざわついていた人達が静まり、会場は真っ暗になった。
しばらくすると楽器の音が聞え始め、オープニングが始まった。
大勢の裏方キャスト達の登場。主人公の登場。曲が終わると同時に皆に混ざって拍手をした。
一度ステージが真っ暗になり、そこから物語が始まった。
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