君の温度は泡沫の夢

雨宮 柊

第1章 鳥は空を羽ばたく

プロローグ

 今日も、同じだ。私は、ただ淡々と呼吸を続ける。

 何一つ変わらない日常は、とても無機質で冷たい。つまらなくて、孤独で、寂しい。


 ずっと、小さい頃から私は一人だった。

 光の差さない、路地裏にうずくまってよく考えていた。

 もしも、今私が死んだら。

 きっと誰も気づかない。誰も私を悼んではくれない。

 ______私は、誰の記憶にも残らないのだろうと。

 そんな考えが頭を支配する夜は酷く怯えた。このまま永久の眠りについてしまいそうだったからだ。固い地面の上で、一人丸まって夜を耐える。朝になっても、一人なのは変わらないのに。


 あの頃の私は何も知らなかった。

 この世界の成り立ちや、普通の生活、愛情____。

 全て教えてくれたのは"彼"だった。彼がいなければ私は生きながらにして死んでいた。



 

 白鯨モビー・ディックを探し出せたなら、溢れ出そうなこの"ありがとう"を彼に少しだけ、返せる気がする。

 

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