第12話 それはそれ、これはこれ

 俺の中で巡る魔力の波動が囁く。


 手を翳せ、お前を遮るモノは等しく滅びを迎える。


 さあ、最強の名乗りをあげよう。


 俺は今日からここから始まるレジェンドという名の足跡を刻もう。


「はぁぁぁ!!」


 気合い一閃、俺は闇の力が宿った左手を振り払う。


「徹、大丈夫? 痛い子?」


 俺の正面にいたルナが半眼で見つめていた。


 当然のように秘められた闇の力は発動せず、五体満足のルナの姿があった。



 解せぬっ!



「あれ? 魔力を感じられるようになったら魔法が使えるんだろ?」

「そんな簡単に使えるなら、教えるのを渋ったりしないの。ここからが説明ができないから無理って言ったのっ!」


 ええっ――!


 ついに魔法が使えるかと思ったのに、姿見で何度も練習して夢……げはがは……何でもないです。


 大丈夫、きっと俺の左手には闇の力が……本気で思ってないからね? 分かってくれてるよね?


「とりあえず、徹は魔力の循環をしてるの。それが基本なのは間違いないの」


 そういうと、ミランダを呼んでくる、とルナは宿に戻っていく。


 とりあえず、何もできないならルナの言う通りに魔力を循環させる事にする。


 魔力を循環させていくと段々慣れてきたのか、見えるはずのないモノが見えてくる。

 いや、それは正確ではない。

 目で見えるという訳ではなく情報という形で入ってくるモノが形となって見えているような気がするのである。


 目を瞑ると体を巡る魔力が俺の腕と背中が痛んでいると知らせてくる。とはいってもたいしたものではなく、明日、筋肉痛になるから寝る前に柔軟をしたほうが良いという程度のようだ。


 ザックさんにこき使われたからな……


 そして、循環させる魔力が下腹部に行くとそこで、きかん坊が俺に訴えてくる。



  俺はいつでもイケるぜぇ?



 強い意思を感じるが、ソッと目を逸らす。


 俺も使ってやりたいのはヤマヤマなんだぞ?



 目を開けた俺はルナ達がいる方向の壁に目を向けると何故かカウンターの所の状況が頭に入ってくる。


 ルナがミランダに今日の夕飯の味見を強請り、スープを一口飲んで幸せそうにしていた。


 そんなルナにミランダが何やら言ったら、あっ、と驚いた顔をしてこちらを指差してミランダを引っ張っている。


 あの野郎、マジで忘れてやがったな。


 ってか、なんで壁の向こうの事が分かるんだろ?



 そう思っているとミランダを連れたルナが帰ってくる。


「お待たせなの! 徹!」

「ああ、待たされたよ、味見に夢中で忘れられてな?」


 そういうとルナは目を白黒させ、ミランダは、へぇ、と目を細めて納得したような顔を見せる。


「覗いてたの!? 徹は私を信用してくれないの?」

「現に味見に夢中だったんだろうがっ!」


 俺がルナと、やんややんや、と騒いでいるとミランダが俺に話しかける。


「で、本当に覗いてたの?」

「いや、魔力循環させてたら、急に壁が透けてルナ達の状況が見えた気がしたんだ」


 ルナはそれを聞いて、嘘吐き呼ばわりをして、ニャァー、と叫びそうな顔をして俺に食ってかかる。


 そんな俺達を見つめるミランダはクスクスと笑いながら、喧嘩を止めてくる。


「ルナちゃん、多分、トールは嘘を言ってる訳ではないと思うわ。初見から思ってた事ではあるのだけど、トールは感覚系なのよ」


 ルナと俺は顔を見合わせて「感覚系?」と口を揃えて呟く。


 ミランダの説明はこうだ。


 魔法を使うタイプは大きく分けて、理論系と感覚系に分かれるそうだ。


 割合として9:1、いや、もっと感覚系は少ない割合の1以下の存在らしい。


 理論系は手順を踏んだやり方をする事で魔法を発動させるが、感覚系は本能、直感に頼った魔法の使い方をするらしい。


 普通の魔法が1,2,3,4,5という手順があるとして、感覚系は1,3,5などや、凄いヤツになると1,5で発動させるらしい。


 感覚系の者は天才肌か、頭のネジが抜けたヤツのどちらかと言われてるそうだ。勿論、俺は天才肌のはず。


 ルナの冷たい目なんかに負けないっ!


 理由は分からないが工程が減ると魔法の威力などが上がる傾向があるらしく、その為、その工程を意図的に減らせないかという研究もされているが今のところ、目を見張る成果は出ていないそうである。


「感覚系の魔法使いの中でも稀にいるんだけど、飛び抜けてカンの良い者が会得するという『疑似未来予測』というものを発現させた、という話があるのよ」



 キタァ――――! 俺に春が来た!! アローラは春かどうか知らんけど!



 ジョブは微妙というか残念系だったが、魔法に関しては俺イケてるぅ!


 どうやら『疑似未来予測』というのは戦いおける先読みの魔法バージョンのようであるらしい。

 本来なら先読みは経験からくる予測といったものだが、俺が使えるかもしれないものは、経験をぶっ飛ばして出来る事になるらしい。そこに経験が加わると鬼に金棒とのこと。


 それを聞いたルナは余りにハイスペックな俺様が妬ましいのか、胡散臭そうに俺様を見つめる。


「それ以前に徹が感覚系かどうか分からないの」

「私から見たら充分、素養ありなんだけど、ルナちゃんは昨日、今日とトールを見てて、考える前に行動してるトールに心当たりない?」


 ルナは顎下に指を当てて、2日間の徹の行動を振り返る。


 ルナが閉じ込められてたクリスタルを考えなしに触ったり、ルナが危険かどうかも分からないのに助ける選択に疑問を覚えていなかったように見えた。


 そして、何より、冒険者ギルドに行ってからの徹の行動は脊髄反射で行動してるのかと言わんばかりにシーナにがぶり寄りして、堂々と胸を掴んだりしてたのを思い出す。


「うん……徹は感覚系かも? 動物みたいだったし」

「その様子だと色々派手にやったみたいね?」


 ルナ、褒めるなよ。


 俺が野性的なワイルドな男、いや、分かってたけどね?


 ちょっと有頂天になって、ブリッジしてるのと大差がない格好になってますが、気にしないでね?


「良い事ばかりに聞こえるけど感覚系にも大きな欠点があるのよ」


 なんですと!


 慌てた俺が前のめりで聞こうとする姿に苦笑いするミランダは告げる。


「感覚系に魔法を教えられる人が極めて、いえ、いないに等しいの。私が知ってる人は2年前に亡くなったしね」


 だから、感覚系は自分で探り探り覚えていかないといけないらしい。


 さっきまで俺、すげぇ! と思ってたのに崖に突き落とされたようなものである。


 声もなく泣く俺にミランダは笑いかける。


「でもね、感覚系の魔法入門にピッタリの魔法が1つだけあるのよ。それで魔法を体感でできるようになると色んな魔法が使えるようになるらしいわ」

「ミランダ! 俺は何でもやるぜぇ!!」


 瞳に炎を宿す俺は、熱血マンガのように燃えていた。


 それに薄い笑みを浮かべたミランダが端的に告げる。


「脱ぎなさい」


 一歩前に出てくるミランダに合わせるように俺は2歩下がる。


「何でもと言っても色々あるじゃない?」


 そう言いながら尻込みする俺はソッと両手でお尻を覆った。

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