リアルに萌えが充実期!?

黒上永 愛揃

第1萌 旅立ちのとき

時は200X年、まだアニメや漫画が市民権を得る前の時代

一つの思惑がうごめいていた・・・


見渡す限りのピンク色の空間におびただしい数の

美少女・美男子キャラクターのフィギュアやポスター

そして、ロボットの数々が置いてある

そのカラフルな色たちのせめぎ合うこの部屋は

少しいるだけで目がちかちかして立ちくらみを起こしてしまいそうなほどだ

異様なその空間には学校の教室のような壇上がありそこには

一人の男が立っていた。

長身で髪はロマンスグレー、一見はとてもダンディなおじさま

ちょい悪おやじになれそうな雰囲気を持った男。

しかし、その雰囲気を壊すようにピンク色のマントになぜか

頭に金色のティアラを着けていた。

何をしている人なのかは分からないがただ一言

『怪しい』と言う言葉がぴったりと当てはまる。

その男の前には同じくピンク色のマントを羽織ったたくさんの人が

固唾を呑んで彼の一声を待っているようだった。

ついに毅然と仁王立ちをしていた男がついに口を開く

その声はとても力強く、空気が震えるのが分かるほどだ


「世界に萌えがはびこればこの世は縮小して行く・・・

全ての男・女どもが2次元のキャラクターに夢中になり3次元への興味を失う。

さすれば人間の繁殖能力は失われ、我がモエッティ教が支配した

理想の世界になる。世界が我がモノに

ふはは・・・ふははははは・・・レロレロレロレロ

さぁ、我がモエッティの信者たちよ!萌えの普及に全力を尽くすのだ!!」

・・・


T県某所

3月も終わりに近づき春本番が近い

外では鳥たちが嬉しそうにさえずっているのが聞こえる

昨日までの学生生活がいったん終わりを向かえ春休みに入る

今日はいつもより少し朝寝坊が出来る・・・そんなまどろみの中

突然携帯電話の着信音が鳴り出した

眠りを妨げられ少しだけ不機嫌になりそうになるも

携帯の画面に目を落とす。

そこには見慣れた名前

寝ぼけながらも通話ボタンを押す


「う、うぅん・・・はい、もしもし」


やはり寝起きで声が出にくい、そんな事を思ったのもつかの間

元気な声が耳元に聞こえてきた


「ちょっと、神!もしかしてまだ寝てたの?春休み初日だからって油断しすぎ!」


この声の主は草刈智代くさかりともよ、言わば俺の彼女

俺は『ともよん』って呼んでる

同じクラスで勉強している同級生

付き合ってそろそろ3ヶ月

たまに何考えてるか分からない時があるけど

元気でとても良い子だ


「あぁ、ごめん。ちょっと調子に乗って夜更かししちゃって」


「今日は神の誕生日だから一緒に遊びに行こうって言って約束してたよね?」


そう、今日は俺の14歳の誕生日だ。だから遊びに行く約束してたんだった・・・

寝ぼけて頭が回らない中そんな事を思い出した


「ごめん、すぐに準備して出るからいつもの公園で待ってて」

  

「分かった、待ってるね!」


元気な声を後に携帯を切る

まだ眠たいけど約束したからには仕方ない準備をしようと思った矢先


「俊平、起きたか?ちょっと入るぞ」


部屋の外からいつもの声が聞こえる、同居しているじいちゃんの声だ


「あぁ、いいよ」


じいちゃんが部屋に入ってくる

もう歳は七十近いと言うのにまだまだ元気だ

そんなじいちゃんがいつもは見せない神妙な顔をしてこちらを見ている


「じいちゃん、どうかした?」


「今日がお前の14回目の誕生日じゃったな」


「うん、そうだけど」


「実はお前が14歳になったら話そうと思っていた事があってな」


じいちゃんのしわの深い顔に更に深くしわが入る、少し部屋の中に緊張感が走る

そんな事、今まであっただろうか?


「話そうと思っていたこと?」


「落ち着いて聞くんじゃぞ、お前の父親は5年前に家を出た、そして母もお前の妹と一緒に間もなく出て行った。それからわしが一人でお前をここまで育てた。

とても寂しい思いをさせたのは悪いと思っておる」


じいちゃんがゆっくりと、ハッキリとしゃべる

そう、それが今2人で暮らしている理由だ


「じいちゃんが謝る事じゃないよ、俺はここまで育ててくれたじいちゃんに

とても感謝してる」


「そうか、それでお前の父親の事なんじゃが」


「もしかして、父さんの居場所が分かったの!?」


親父の事と聞いて心臓が脈打つのが分かる


「実はそうなんじゃ、俊平は『モエッティ』と言う新興宗教の事を知っているか?」


「モエッティ・・・聞いた事がある。確か萌えを世界に普及させてこの世界を支配しようとしてると言うトンデモ教団だよね」


そうモエッティ、噂で聞いた事があるだけで実際の信者に会った事がある

わけじゃない。萌えで世界を征服?

そんな事が出来るわけないと思った記憶があるだけだ。


「そうじゃ、そのモエッティじゃ」


「そのモエッティと父さんにどんな関係が・・・まさか!!」


父さんとモエッティ、全く繋がらない話が頭の中で繋がる


「そうなんじゃ、ヤツはあろうことがそのモエッティに入信しているのじゃ

それを期にお前の母もこの家を出た・・・本当に馬鹿な奴じゃよ」


「じいちゃん・・・そうだったのか・・・」


何とも言いがたい気持ちが心を巡る

小さい頃の自分の記憶を辿る、父さんと萌え、父さんと萌え

そして、一つの記憶がフラッシュバックする

美少女が出ているアニメを夜にこっそり見ていた父さんの後ろ姿を


「お前にはなかなか言い出せなかったが14歳になったら伝えようと決めておった」


何故14歳まで待ったのか、じいちゃんの意図が分からなかったけど

おそらく俺に気を使ってくれたんだろう。


「そうなんだ・・・父さんはそのモエッティに・・・

じいちゃん、俺、父さんを探しに行くよ !」


自然とそう声に出ていた


「そうか、俊平ならそう言ってくれると思った。老いぼれのこのわしでは

何も出来んからな。

よし、この時の為にワシが大切に大切に保管していたコレを渡しておこう。

これじゃぁ!!」


じいちゃんが間髪入れずに何かを持って手を高々と上げる、その手には


「それは・・・奇跡のセクシーアイドル大全集!?」


一瞬自分の目を疑ったのは間違いない

じいちゃんの手にあったのは露出度の高い水着を着たお姉さんたちが

載った写真集らしき物だった


「これを持っていれば、もしモエッティの信者たちに惑わされようとも

正気を保てるはずじゃ。」


「じいちゃん、ウソだろ?ツッコミ待ちなんだろ?」


自然と突っ込んでいた、じいちゃんはよくこう言うボケをするからだ

しかし、今日のじいちゃんにはその雰囲気がない

まじめに言ってると言う事なのか

ただ、意味が良く分からない。二次元の萌えには三次元のセクシーお姉さんで

立ち向かえと言う事なんだろうか?


「本当じゃ、ワシもこれに随分お世話なったぁ」


じいちゃんが天を仰ぎ、恍惚の表情を浮かべながらそうつぶやく・・・

お世話になった?本当に効果があるってことなのか?


「行くのだ、俊平よ。これを使い、アイツを馬鹿息子をモエッティの手から救い出すのじゃ!!」


「わかったよ、じいちゃん、俺行って来る!」


何だかよく分からなかったけど、奇跡のセクシーアイドル大全集をかばんに入れ

ともよんの待つ近所の公園に向かった。


・・・


「と言う事で俺は父さんを探しに行く」


ともよんにじいちゃんからさっき聞いた話を全て話した。


「神・・・私も一緒にお父様を捜しに行く!だって神の事が心配なんだもん!」


彼女の顔に心配の表情が見える。本当に心配してくれてるみたいだ。


「お前を危険な目に会わせるかもしれない。それでも行くのか?」


「うん、私、神の為なら全然怖くない!!」


「分かった、じゃあ一緒に行こう!」


「絶対お父様を探し出しましょう!」


「ありがとう、ともよん!!俺は絶対父さんを探し出してみせる!!」


そうして俺とともよんは父さんを探しに行く旅に出る事になった


第2萌へ続く

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