51話「トイレで悪戯はよそう」
おっし! リシュアがゴブゴブを断頭台から救い出す。
ゴブゴブを背に担ぎ、風のようにリシュアは疾駆した。
そして物陰に隠れたらリシュアは纏ってたリバーシブルのローブを裏返し、別カラーでゴブゴブに纏わせ、そのままリシュアは冒険者ギルドへと何食わぬ顔で駆け込む手はずになっている。
リシュアの足ならここより5分もかからず到着し、アリスと合流することだろう。
ゴブゴブには『迷い子の森』の北側で待機するように、リシュアが指示をだしてるはず。うまく逃げ伸びてもらいたい。
よし、後は俺達だ。
マリリンを起こし、身に纏ってるローブを火魔法で燃やし。
証拠隠滅したら、裏路地より逃走。
そして、冒険者ギルドで待つ、アリスとリシュアと合流する。
これでもバレナイ可能性はゼロではない。
「おいっ! マリリン起きろ! 飯の時間だっ!」
俺は軽くマリリンの頬を叩く。
「ハジメ氏……うまくいきましたか?」
「ああ、とりあえず救出は成功だ! さすがマリリンの眠り魔法だ。よくやったっ!」
「そ、それは……良かったのでありますっ!」
「よし、俺達のローブをさくっと燃やし尽くしてくれ!」
「あ、はいっ! なのですっ!」
相変わらず呪文が大げさだ。
「偉大なる始まりの炎よ! その名は紅き汝。我と汝が力もて、等しく滅びを与えん来たれ創生の灼熱の奔流――――
ローブはみるみるうちに塵となった。
「俺達も、冒険者ギルドまで向かうぞっ!」
ポタポタ……。
ん? なんだこの水は?
マリリンが内股で恥ずかしそうにしている。
短めのスカート。
その下のきめ細やかな、白い太ももから、何やら液が滴っていた。
「うっ…………マジ?」
「あう……わ、わたし……あ、……我……も、もう……お嫁にいけないのです……」
マリリンは頬を赤らめ、とろんとした上目遣いで俺を見る。
時間がない。
俺は有無言わず、再度マリリンを背負って、冒険者ギルドへと目指した。
◇◇◇
冒険者ギルドの丸テーブルに俺も腰かけた。
アリスとリシュアは早々に席について、食事をしていた。
俺も、何食わぬ顔で、骨付き肉を頬張るが緊張で味なんてしない。
掛け時計を見ると時刻は12時22分。
俺は35分ほど姿をくらましてたことになる。
ちらり、ちらりと他の冒険者の動向も窺う。
相変わらず、俺達への冒険者の目は厳しいものを感じる。
だが、何かを不審がられてる気配は感じられない。
女子トイレの窓から再度侵入したマリリンは、まだ戻ってきてない。
「ハジメ。このお肉も美味しいよ」
「ああ、そうだな」
「アリス殿。これはカエルの肉らしいぞ」
「から揚げになってるからアリスも平気だよ」
暫くすると冒険者ギルドの屋内がざわざわと、どよめきだした。
やべぇ……もう、先ほどの件がここまで伝わってきたのか……。
「ハジメ氏……」
マリリンが恥ずかしそうに戻ってきた。
それと同時に冒険者ギルドのお姉さんが、マリリンの肩に手を置いた。
「あら……マリリンちゃん。随分とトイレ長かったみたいだけど、大丈夫?」
「あわわ……も、もう平気なのです」
マリリンは多少上擦った口調で答える。
その様子をお姉さんは、じっと見つめている。
そして何処からともなく大きな声が聞こえた。
「おいおいっ! 聞いたかよ! なんでも犯罪者のゴブゴブを、逃走させた輩が現れたらしいぜっ!」
「もしかしたら竜王の配下の者の仕業かもしれないな」
誰かが大声に相槌を打った。
「バカを言うな。竜王軍参謀のドロシーは、竜王城で囚われの身だろ? 他に誰が手助けするってんだよっ!」
「言われてみればそうだな」
俺達は緊張しながら会話を聞き流した。
何故だか冒険者ギルドのお姉さんの視線が痛い。
すんげー見つめられてる気がする。
「ハジメちゃん」
「……はい?」
「お疲れ様」
「え?」
「あ、そうそう、マリリンちゃん。トイレで火魔法使うのは危険だから、もうしないでね」
「あ……はい」
マリリンは申し訳なさそうに頬を赤らめた。
冒険者ギルドのお姉さんは、意味深な言葉を残して慌ただしく去って行った。
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