第七章

49話「救出作戦」

 青空の下、俺達はハーベスト村の村長さんに、狼のことを報告した。

 村長は難し表情を浮かべながらも、俺達の話に聞き入った。

 そして、あの森には狼なんかよりも凶悪な、巨人族のキュクロプスがいたこと。

 むしろ狼は、村人が憂えき目に遭遇しないように、警笛を鳴らしていたことを告げた。


「ふむ……そうであったか」


 報告を受けた村長さんは、今後の方針は村人達と話し合って決めると結論をだした。

 また、それとは別に村長さんから提案があった。

 なんでも、これまで通り、人材を派遣させてほしいとのこと。

 もちろん、無給ではないが、日々、魔城温泉は忙しさを増している。

 俺はその申し出をありがたく受けることにした。




 ◇◇◇




 馬車に揺られて数時間後。

 俺達は冒険者ギルドに赴いた。

 時間的には昼前ぐらいの感覚である。

 そして到着早々、赤髪の冒険者ギルドのお姉さんより、朗報がもたさられた。

 そう俺達に制限されていた、禁則事項が解除されたと言う話だ。

 

「また派手にやっちゃうと、今度は永久追放になりかねないから、ほどほどにね」


 冒険者ギルドのお姉さんは、そう言うとにっこりと微笑んだ。

 そしてお姉さんは、ほっと役目を終えたかのように胸を撫で下ろした。

 でも、禁じられたのは、ほぼ一か月前のこと。

 随分と早い解除に疑問を感じた俺は、お姉さんに理由を尋ねる。


「なんで禁則事項が解除されたんですか?」

「う~ん、なんでかしら……お姉さんも理由は知らないわ。でも、よかったじゃない」

「ま、まあ……そうですね」


 理由はわからないが、とりあえず全員が喜びの色をみせた。


「あの、お姉さん……」

「なぁに? ハジメちゃん」

「前に見た賞金首ってどうなったんですか?」

 

 俺はそれとなく聞いてみた。


「7名のうちの3名は捕まったわよ」

「えっ!? そうなんですか?」

「そのうちの1名は今日の昼の12時に、時計台の広場で公開処刑されるそうよ」


 俺はチラッと掛け時計を見た。

 時刻は11時30分だ。

 表情にはださないが、激しく焦りを感じた。


「あら、ハジメちゃん気になるの?」

「えっ!?」

「今チラッと時計を見なかった?」

「お腹空いたなぁと。それより、また気兼ねなくクエスト受けれるので助かりますよ」


 俺がそう言うとお姉さんは「うふっ」と、微笑み去って行った。

 その様子を俺は息を飲み見送った。

 

 たしか姫様を含め総勢で7名。

 既に面識のある狼のフェリエル。

 スライムのライム。

 たしか魔族の可愛らしいウィザードの女の子。

 それにガーゴイル。

 あと、なんだっけ?

 そうそう。

 ゴブリンのゴブゴブにホネホネだ。


 そのうち捕まったのがゴブゴブ。

 他の二名って誰なのだろう。

 本当は、そこも訪ねたかったが、ヘンに疑われるのを避けるため俺はとぼけた。

 しかし、今。

 姉さんに、尋ねてしまったのは、迂闊だったかもしれない。

 何気にあのお姉さん……感が良さそうだからな。

 

 しかし……。

 こんなに急を要する事態になってるなんて、想像だにしていなかった。

 もう時間的猶予がない。

 すぐにでも救出作戦を決行するしかない。

 俺はリシュアに、こっそりと出て行くように指示した。

 冒険者ギルドのお姉さんの話で、全員が切羽詰まった状況を、理解してくれている。

 話が早い。


 リシュアが冒険者ギルドを後にした。

 そう、リシュアに3名分のローブを買いに走らせ、時計台の広場で目立たないように待機するように指示したのだ。


 そして俺は小声で、アリスとマリリンに軽く作戦を話す。

 

「わかったよハジメ。アリスはここで皆がいるように振る舞えばいいんだね」

「ああ、アリスの役目はアリバイ作りだからな。救いだしたらすぐに戻ってくる。12時回ったら料理を4人分注文するんだ。いいな?」

 

 時計は11時40分。

 広場の時計台まで、普通に歩くと10分ほどかかるらしい。

 あと5分したら俺とマリリンも広場を目指す。

 冒険者ギルドの屋内は割かし人が多い。

 少しぐらい姿をくらましても、気づかれないかもしれない。


「ハジメ氏。我はトイレの個室の窓から抜け出ます。それならば、怪しまれることもないでしょう」


 男子トイレと違い女子トイレの個室は窓があるようだ。

 

「よし、じゃあマリリンはそれで頼む」


 マリリンがトイレへと向かった。

 11時42分か。

 そろそろ俺も行動だな。


 賞金首を救い出すと言う事は、共犯者になると言う事だ。

 全員がそのことを瞬時に理解して行動してくれている。


 そう皆が、白竜姫の心を救いたいと、本気で考えてくれているのだ。

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