41話「マリリンの夢」
「慈愛満ちたる聖なる福音よ……光となり生命の息吹なり……
アリスがマリリンへ回復魔法をかける。
俺とリシュアもアリスの隣で、膝を落とし固唾を飲んで見守った。
狼も静かにその様子を見守っている。
マリリンがそっと瞼を開けた。
「我は、お腹が空いたのです」
「マリリンっ! すまん俺のせいで……」
マリリンの視線が俺を捉えた。
「もう平気なのです。ハジメ氏が気に病むことはありまん。全ては我の修行不足なのであります」
マリリンはそう言うと、はにかんだ。
リシュアがマリリンをぎゅっと、抱きしめた。
「ゆるせ、マリリン。あたしの不甲斐なさが全ての原因だ」
「リシュア氏、痛いのです! 強く抱き締めすぎですっ! アリス氏、我を永遠の眠りから起こしてくれて、ありがとうなのですっ!」
アリスはマリリンに微笑むと、力が抜けたように脱力した。
「アリスの魔力は底をついたよ」と、呟くと倒れそうになったので、俺は咄嗟にアリスを支える。
「しょ……しょうがねぇなぁ。ほら、アリス。俺が魔城まで担いでやるよ。ほら、背に乗りな」
そう言って俺は魔力を使い果たし、魔力欠乏状態のアリスを背負う。
「さあ、みんな帰ろうか。おっと、そういや狼にもお礼を言わないとだな。って……あれ?」
ふと気がつくと狼は姿を消していた。
◇◇◇
「ハジメ氏知ってますか?」
唐突に話を切り出したのはマリリンだ。
「え? 何を?」
「死ぬと続きがあるんですよ」
「はい?」
無事に魔城へと帰還した俺達は、ンンが作ってくれた料理で食卓を囲っている。
アリスはベットで休息中だ。
今はニャムがアリスを看ていてくれている。
「我は見たんです。冥界の王を」
「冥界の王?」
「はい、それはとても残忍な存在なのでした。もし、アリス氏の蘇生がもう少し遅れてたら我は冥界の王の虜になり、生き返っても邪悪なものとして蘇っていたかもしれません」
「冥界の王か……死後の世界にはそんなものがいるのか」
って……それって俺の世界で言う、閻魔大王みたいなもんなのだろうか?
「マリリン殿。その冥界の王とはどんな姿をしていたのだ?」
「つーか、死後の世界ってどんな感じなのか? 死んだことない俺にはさっぱり想像がつかないんだが……」
「我も初めての経験でしたが、順を追ってお話しますね」
リシュアもンンも食い入るように、真剣にマリリンを見つめている。
「我は死んだ後、すぐに精霊界へと誘われました。しばらく精霊界を散歩してると、精霊王から三つの道筋を示されたのです。一つは天界への道。もう一つは魔界。最後に冥界です」
そこまで語るとマリリンは一旦、お茶を啜った。
「で、我は精霊王から、とある話を聞かされたのです。精霊王の話によると、冥界の王は天界と魔界をも滅ぼそうとしてるらしいのですよ。我には見過ごすことができません! 迷わず冥界へと旅立ったのです……が、もうガクブルだったのでございます。恐くなって皆の名前を呼んでると、そこの冥界の王が現れたです」
「それでどうなったのだ? マリリン殿!」
「ンンも気になります」
「冥界の王は我を……邪悪なものとして転生させようとしたんですよ……その姿はもうなんて言っていいのか我にもわかりませぬ。なんとも形容しがたい禍々しい姿でありました」
「随分とスケールのでかい話だな」
マリリンの話によると、死後の世界は、まず精霊界と繋がっており、天界や魔界。そして冥界へと繋がってるらしい。
でも、天界って言ったらアリスのいる世界だよな。
まあ、死ねばテレポートを使わずとも誰でもいけるってこったな。
しかし、天界も魔界も滅ぼそうとしてるなんて、ラスボスもいいとこだな。
とはいえ、生身で生ける場所でもないだろうし、あまり関係のない話だ。
無事にマリリンが帰って来た。
それだけで十分だ。
「じゃあ、俺。ニャムと交代してくるよ」
「マスター?」
「どうしたんだンン?」
「アリスさんの看病ならンンがしますよ?」
「我もアリス氏に付添っています!」
「あたしに任せてくれないか?」
全員がアリスの看病を申し出た。
「いや……みんなは心配せず、温泉にでも浸かって、今夜はゆっくり休んでくれ」
「し、しかし、ハジメ殿だって疲れているであろう?」
「リシュア気にするなって、俺って15分寝れば気合いMAXになるだろ?」
「マスターは、お優しいですね」
俺はアリスの部屋へと向かった。
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