33話「ティモの笑顔」

 魔城のちょっと先にはハーベスト村があり、ハーベスト村の北方面には王都まで繋がる街道と、『迷い子の森』と、呼ばれる大森林が、王都を飛び越えるように、竜の一族が住むと言われる竜王城まで延々と伸びている。


 ニャムは、その森で、イノシシなどを仕留めてきてくれている。


「主、もっと可愛がってほしいニャン。一人で狩りに行くのは寂しいニャン」


 そう言うと、ニャムは手首をペロペロを舐めまわす。

 たまに傷を負って戻るニャムを、アリスが回復魔法で治癒する光景を何度か目の当たりにしたこともある。

 獣の狩りとは言え、魔物だっている森だ。

 それに少々のことでは微動だにしないニャムが、森で恐ろしい魔物に出会ったと、一度、語っていた。

 見た目は、ただの狼のようであったが、その眼光が鋭く、もし襲われたら勝ち目などなかったとニャムは震えていた。

 少々、ニャムに頼り過ぎていたな。

 よし、今度から狩りは複数人でいくことにしよう。

 俺が全員にそう伝えると、リシュアが真っ先に名乗りをあげた。


「毎日、掃除やら洗濯には正直なところ飽き飽きしておった。ニャム殿が狩りに行く日には、あたしが、ご同行しますぞ!」

「あー! それはずるいのです。リシュア氏! 我も眠り魔法を使いたくてうずうずしてるのです!」と、マリリン。

「アリスだってもう、掃除や洗濯ばかりイヤだよ。そもそもハジメが回復魔法の宣伝までやちゃってるから……アリスは前にもましてクタクタなんだよ。アリスの回復魔法は、肩コリの治療のためにあるんじゃないんだから!」

「あー、わかったわかった。みんな落ち着いてくれ! それにアリス。俺だって良かれと思って宣伝したんだ。アリスの治療に感動して、信者になってくれる人が、現れると思ってさ」

「むむっ……。ハジメの気持ちが嬉しかったから、アリスはもうこれ以上は言わないけど、今度からはちゃんと相談してほしいんだよ」

「……あ、ああ、そこは反省してまする。――――つーことで、ニャム。今度から狩りに行く時は遠慮なく申し出てくれ」

「わかったニャン」


 ふと、ティモに視線を移すと元気がない。

 どうしたんだろうと思い声をかける。


「ティモはこの魔城温泉の実質的なオーナーだろ? 言いたいことは、我慢しないで言ってくれていいんだぜ?」


 ティモは何か思いつめた顔をすると


「妾はしばしの間、留守にする」と、言いだした。


 ティモは陽の光に弱い。

 この魔城を建造してから一万年以上、外に出歩くことは、ほとんどなかったと言っていた。そのティモが、しばしの間、魔城を離れると言う。


「……別にいいけど。で、どこにいくんだい?」

「深い事情ゆえ。語ることはできぬのじゃ」

「言えないならしょうがないけど、悩み事なら相談していいんだぞ?」

「妾は今夜には発つ。そなたらには感謝しておる。魔城ことよろしく頼むぞ」


 何故だか、そう言うティモの顔は寂しげだった。


「おし、他には何も意見がないようだから、休日を決めようか」


 そんなこんなんで、週に二回の休みを設定することになった。


 アリスが月曜日と火曜日。

 リシュアが水曜日と木曜日。

 マリリンが金曜と土曜日。

 ンンは月曜日と木曜日。

 ニャムは火曜日と金曜日。

 となった。


 社長の俺は、適当に暇見を見て、休みを取ると伝えた。


「じゃあ、今晩はみんなで飯作ろうぜ! ティモが旅立つって言うし。送別会じゃないけど、わいわい愉しもうぜ!」

 

 俺の言葉にティモは表情をほころばせた。

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