閑話「ティモの憂欝その弐」

「よくぞ参った。ティモよ」

「……お、お、お許しくださいませ……魔界皇帝様。借金は必ず返済します……どうかお慈悲を」

「そう脅えるでない。実はそなたにお願いがあって召喚したのだ」

「妾を、で、ございますか?」


 ティモは震えながらも借金の催促でないとわかり、ほっと安堵した。


「そうだ」

「妾にできることなら何なりと仰せください」

「うむ、そなたはこれより地球という星に向かい、魔王の素質のある若者を見つけ出して参れ!」

「え!? 魔王を、ですか?」

「なにか不都合でもあるのか?」

 

 不都合もなにも、魔王を倒した者達と協力して、借金返済のために奮闘し始めた矢先である。

 だからと言って、ティモは光側の勇者達と共闘してるなんて、恐くて言いだせないでいる。

 

 魔界皇帝は金色の瞳で心を読むことだってできる。

 もうダメだとティモは諦めた。

 

「知っておる」

「え!? 今、何と?」

「知ってて申しておるのだ」

「……し、しかし」

「心配するでない」

「と、申されますと?」

「それ以上は言えぬ。川面を波立てる、一滴の雫の存在が気になっておる」

「妾には魔界皇帝様の深き考えは、遠く理解に及びませぬが……でしたら……せめて……」


 ティモが魔界皇帝を上目遣いで見据えてると、魔界皇帝はティモに優しい眼差しを送る。

 ティモは普段見せない、魔界皇帝の優しい眼差しに困惑しながらも……小声でボソっと言った。


「あのう……借金すこしだけ、まかりませんか?」


 ティモの言葉に魔界皇帝の眼光が瞬時に鋭くなる。


「あ、……だって魔界皇帝様、そ、その間……妾は魔城温泉のお手伝いができないんですよ?」


 二人のやり取りを見ていた魔界の大公が、苦虫をつぶしたような顔で口を挟んだ。


「これこれ、ティモよ。甘えたことを申す出ない!」

「……大公様はそう仰せられますが……口を酸っぱくして一番うるさいのは、大公様ではございませんか」

「それだけ魔界は財政難なのじゃ……人を雇うゆとりもないから、そなたに声がかかったのじゃ。借金は借金、話は別じゃ! しのごの言わずに地球に行って参れ!」

 

 不貞腐れながらもティモは了承するのだが、複雑な心境だ。

 ティモはティモなりに考え、今まではこそっとハジメ達の働きぶりを眺めていた。

 ハジメとは初対面以降もハジメの部屋でこっそりと対面したことはあっても、マリリンやリシュア、アリスの前に姿を見せるのを遠慮していた。

 吸血鬼のティモは陽の光がことのほか苦手。

 姿を見せれるのは夕刻以降で、その時間は特に忙しそう。

 ろくに手伝いもせずに指をくわえながらも、己の借金返済のために汗水流すみんなを見ていると、少しでもお手伝いしなきゃいけないと考えてもいたし、何よりもみんなが楽しそうにしているのが、羨ましかった。

 

 そして今日。

 久々にマリリンの前に勇気を振り絞って姿を現した。


 マリリンは相変わらずであったが、初対面のアリスは恐れることもなく普通に接してくれた。

 それがティモには嬉しかった。

 魔界皇帝様は地球に行って魔王候補を探して参れという。

 それはつまり、計らずともハジメ達と敵対関係になる可能性も秘めている。

 そう考え頭を抱えるティモであった。

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