17話「邪神」

 階段を下りると狭い空間へと繋がっていた。

 マリリンの居住区の部屋とは違い、どんよりとした湿った壁面にぬかるんだ床。

 禍々しい魔素が立ち込めていると、疑いようがないほどに空気がよどんでいる。


 リシュアが精霊ウィルオーウィスプを更に召喚し、四方を照らしだす。

 薄暗く視界の悪かった奥も視認できるようになる。

 ところが邪神どころか人影すらなかった。

 何もいないのなら警戒する必要もない。

 自然と各自分散した。


「きゃああああああああああああぁぁぁ!」


 この、悲鳴はマリリンか?

 俺は慌てて駆け寄った。


「ど、どうしたマリリン!」

「あ、あれ……み、みてください。ハジメ氏」


 マリリンが震え声で指し示す先に、白骨化した屍が横たわっていた。


「なんだよっ! ただの骨じゃないか」


 アリスとリシュアも駆け寄ってきた。


「この骨は邪神みたいだよ」

「え? んなバカな!」

「ほら、この手紙見て」


 アリスが屍の前にある羊皮紙を手にとって、俺に渡した。


『もうラスボスはうんざりです。三千年間ずっとぼっちで寂しかったです』


 短い文章であったが邪神の儚い想いは、十分に伝わった。


「しかし、これは困ったことになったなリシュア。邪神が既に朽ち果てているのに、呪いの効果が消えないんじゃ、本末転倒だよな」

「うむ、折角、ここまで来たのに皆には申し訳ないことをした」

「いやあ、そう言うなって。俺達仲間じゃないか。また他の方法探ろうぜ? な、そう気を落とすなって!」

「ハジメ殿がそう言ってくれると元気がでるな」


 リシュアが残念そうにしていると、マリリンもしょんぼりし呟いた。


「邪神は朽ち果てていたのですか……つまり我のここ数千年の気苦労は、無駄であったのですね……」


 数千年だって?

 このパーティ……ロリババアの集団じゃねぇかよ!

 

「ま、まあ、マリリンもそう気を落とすなって! 良かったじゃないか、邪神だぜ? 邪神。下手したら全滅だったかもしれないんだぜ?」

「そ、そんなことはないです! 我の眠り魔法なら邪神といえども、深き睡魔のもとに滅してたはずです!」


 おいおい、どんだけ自信過剰なんだよ。

 ――――ん? アリスの奴、何してんだ?


「慈愛満ちたる聖なる福音よ……光となり生命の息吹なり…… 究極回復魔法アルティメットホーリネス!!!」

 

「お、おまっ! 何してんだよ!」


 ――っていくらなんでも生き還るわきゃあ、ねぇよな。


「……う、嘘だろ」

「あわわ、じゃ、邪神が復活したのであります」

「アリス殿、な、なんたることを……」

「だ、だって……みんな残念そうにしてたし、手紙を読むと可哀そうなんだもん」

「だからって……お前なぁ、女神が邪神を復活させてどうすんだよっ!」


 復活した邪神はひやりと艶やかな笑みを浮かべると、甲高い声で笑った。


「キャアアアアアハハハハハハハハッ!!! わたくしを復活させし小さき者たちよ。わたくしは破壊神メティオーネ。世界に混沌と絶望をもたらす者よ」


 邪神の背丈は2メートルほどであり、ヤンデレのような、うつろな瞳。

 関節が不自然な方角に曲がっており、ゆらゆらと俺たちに近づいてくる。

 異様な存在感は見ているだけで、呪われそうな気がした。

 歳のほどは良く分からないが、美魔女ちっくな雰囲気を醸し出している。

 ちなみに全裸だが最重要部位が、残念なことに漆黒の翼で隠され確認できない。

 しかし今回の回復魔法、関節曲がったままだし回復力がいまいち不十分な気がするな。

 とはいえ、朽ち果ててた邪神が復活する威力。申し分ないか。


 邪神は魔王と違い妖艶なお姉さんって感じで、魔王のように恐怖心が芽生えることもなかった。それに今回は仲間も多いし自然と気持ちに、ゆとりもでた。

 とりあえず魔剣について尋ねてみよう。

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