11話「精霊使い」
「お、おい、しっかりしろ!」
「――ハジメ、この子。死にかけてるよ」
「……え!? なんだって?」
「魔剣の呪いだよ。生命力がだいぶん蝕まれているみたい」
助け起こすとリシュアは、頬を紅く染め苦しそうに呟いた。
「わかってはいた……」
リシュアがか細い声で呟いた。
「だったら、こんなもん捨てちまえばよかっただろ!」
「それが…手放しても魂が吸い取られるのだ……まるで呪いだ。使っても使わなくても魂が削り取られる。……それならば、むしろ使わないと損であろう」
そ、それは何か違うような……。
「アリス回復魔法だ!」
「うんっ!」
リシュアの血色がみるみると良くなる。
「こ、これは……凄いな。元気になったぞ」
「でしょでしょ、アリスの回復魔法は最強なんだから!」
「こんな年若い少女がこれほどの回復魔法の使い手だとは、いやはや驚かされた」
「何言ってんだいリシュア? 君は若いじゃないか!」
「少年……」
「あ、俺かい? 名はハジメだよ」
「ハジメ殿か……あたしは
エルフが長寿なのは有名だけど、とても1500歳には見えない。
ぱっと見は二十歳ぐらいのお姉さんって感じだ。
「気にするなリシュア。1500歳なんて随分と若いぞ!」
「――ハジメ、今の言葉…………なんか悪意を感じたよ?」
俺は真剣な眼差しでアリスに視線を飛ばす。
「な、なあに……?」
「呪いを解除する魔法ってないのか? このままだと……リシュアはいずれまたぶっ倒れるだろ?」
「うーん、あるにはあるよ。でも……。残念だけどムリかな。その呪いはアリスよりもずっと高位者がかけた呪いみたいだし」
「はああ? ありがたい女神様なのに?」
「アリスにもできることと、できないことがあるんだよ」
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
元々の責任は俺とアリスにもある。
魔剣を放置してきたのは俺達なのだ。
リシュアがすっと立ち上がる。
「ハジメ殿やアリス殿が心配することはない。解決方法の糸口は見つけている……とはいえ……できることなら二人へ助力を願いでたい!」
リシュアの熱い眼差しが俺を捉えた。
透き通るほどのエメラルドの瞳。
この瞳で見つめられるだけでも幸せだと感じた。
「この王都には世界最大級の地下迷宮がある。あたしが集めた情報だと、魔王に魔剣を授けた邪神が眠っているそうだ。よかったら手を貸してくれないか?」
「なるほどな。魔剣に呪いをかけた邪神をどうにかすれば、おのずと呪いは解けるかもしれない。そうだっ! だったらリシュア、俺達のパーティに入れ。回復魔法付きだ」
「――い、いいのか? 助力を願えるということなのか?」
「あ、でも……俺達一文無しだからよろしく頼むよ」
俺達はリシュアの申しでを、笑顔で受け入れた。
俺とリシュアのやり取りを見てたアリスが口を尖らせ
「ほーんと。ハジメは調子いいんだから……」
「まあ、そう言うなって、魔剣を放置したのは俺達にも責任がある訳だし、邪神をぶっ倒せば呪いも解けるだろう。―――それにさ、今度こそアリスの信者が増えるかもしれないだろ」
「ハ、ハジメ……」
アリスは嬉しそうに瞳をきらめかせると、俺の手をとった。
「な、なんだよ……」
「ううん。ハジメはハジメだと思ったんだ」
俺はパーティリーダーが持つリングシェアを、リシュアが嵌めているリングに当てる。
これで、リシュアも名実ともに俺らのパーティの一員だ。
冒険者ギルドではパーティメンバー用の魔力リングが、冒険者ギルド登録時にもらえる。
リングとリングの魔力が繋がると同じパーティメンバーと見做され、クエスト討伐で誰がラストアタックを決めても、カウントされるという便利な代物である。
「残りはキラーラビットだけのようだな」
リシュアが風のように草原を駆けると、魔剣を軽く一閃した。
一匹のキラーラビットが、魔結晶となり転がった。
次の瞬間。
キラーラビットの群れが一斉にリシュアを襲う。
「翡翠色の天駆ける風の乙女たちよ、我が命ずる我を守りて真空の刃と化さん!」
リシュアが呪文の詠唱を完了させると、風の精霊シルフがリシュアに風の衣を纏わせた。
キラーラビットの群れは、リシュアの身体に触れることもできないまま、弾け飛び魔結晶となっていく。
「ほぇぇ! すんげぇなリシュア!」
遠目でリシュアの勇士を目の当たりにした俺は、感嘆の声をあげた。
「精霊かぁ……ちょっと羨ましいな」
ふと気がつけばギルドプレートに、キラーラビット完了と刻まれていた。
「リシュアって凄いんだな。魔剣なんてなくても十分強いじゃないか」
「それが……魔剣から発する邪気の影響で、精霊の力が弱まってきてるのだ。このままでは全ての精霊達が、あたしから去っていくこととなる」
「まあ心配すんなよ。邪神をぶっ倒せば解決さ。クエストも完了したし報告に戻ろうぜ!」
リシュアをパーティに加えた俺たちは冒険者ギルドへと向かった。
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