第百話「時魔術の継承者」

 フィズバン先生の融合魔術で二つの世界が融合を果たした。

 その直後、二人の女性が悲鳴をあげた。


「きゃあああああ!」

「いやぁぁぁん! みないでー!」


 最初に悲鳴をあげたのは白鳥渚。その次に悲鳴をあげたのは如月澪であった。

 二人は胸と股間を隠すようにその場に蹲った。優奈は何が起こったのか思考が追いついていなようで、その幼女の裸体を堂々とさらけ出している。


「あはは、やっぱりそうなのるのか……」


 俺はボソッと呟き風の魔術で森の樹々から木の葉を集め、優奈の服を木の葉で簡易的に見繕う。木の葉の服を纏った優奈は森の妖精のように可愛らしかった。

 俺は呆然としている優奈の頭を優しく撫でた。


「ありがとう。お兄ちゃん」

「いえいえ、どういたしまして」


 微笑む優奈は可愛らしい。野郎どもはどうなっているのだろうと振り向くと、結城教授は誰もいない方へ振り向き、ケツを見せているのだが、後ろ姿からでも分かる隆々とした筋肉を惜しげもなく披露していた。その雄姿にシャーロットが頬を染めていた。


 どうやら未来人である俺やハリエット、シャーロットの衣服が消滅することはなかった。

 フィズバン先生のローブや杖も無事である。まぁ俺達の服はこの時代の産物じゃないので、消えないのは当然なのだろう。


「ナ、ナユタくん……な、なんで私たち裸になってるの!」

「ルーシェリアくん、私達も早く何とかして!」


 渚の前には全裸のマヤサが立ち塞がっているのだが、マサヤの視線が固定されず、澪に流れている瞬間を俺は見過ごさなかった。


「いやあ、なんだこれ? 文明を消すって……服まで消えてしまうのかよ!」


 マサヤはそう言って声を張り上げつつも、その表情は愉快で嬉しそうだ。

 本来は俺もマサヤ側の人間だ。しかし無駄に勘が冴えてしまった俺は、ハリエットが早々と俺の視線を監視していることに気がついてもいた。


「くっそー!」


 脳内で叫んだつもりが声にでてしまっていた。


「何がくっそーなのよ、ルーシェリア? 下品なもの言いは止めてくれないかしら?」


 最近のハリエットは、俺が下品な態度や言葉を発すると猛烈に毛嫌いするのだ。


「ルーシェリア、いつまでぼーっとしてるの? 早く皆の服も作ってあげなさいよ!」

「う……うん」


 しゅるしゅると木の葉が舞い二人を包み込む。

 優奈と同じようなワンピースのような形状に仕上げた。

 うん、スカートの丈は短めだ。実にいい。


「ありがとうナユタくん!」

「ありがとうございます。ルーシェリアくん」

「さすがだわ! ルーシェリア!」


 今度は褒めてくれた。マサヤと結城教授の服はフィズバン先生が俺が作った服と同じような物を作ってくれていた。


「木の葉で服を用立てるは機転が利くのう」


 葉っぱで服を作るのがそんなに珍しいのかな? 何故だかフィズバン先生も感心してくれた。


「さて、向かうとするかのう」


 フィズバン先生が杖で指し示した先にはUFOがある。あれに潜入するという話になった。そういや、あの中に誰か乗ってるのかな? たとえば後頭部が長くて真っ黒いエイリアンとか? だとしたら魔物より気味が悪いかもな。


 てか……この変容した世界を見て、俺は思った。俺の家族って白鳥科学研究所が発明した乗り物に非難してるのでは? そんな話だったよな? 当然、裸になっているだろうし、乗り物だって消滅しちゃったんじゃないの?


「あのう……先生」

「なんじゃ?」

「家族が避難した乗り物まで消滅しちゃってないですよね?」

「フォフォフォ、心配無用じゃ」

「そうなんですか?」

「ふむ、融合魔術も地下にまでは及ばぬからのう」


 白鳥科学研究所が発明した乗り物は地底を掘り進むような、機能がついた乗りものらしい。しかもその乗り物は地下10メートルほどで待機しているらしく、さらに融合魔術は完璧でもないらしい。地上の科学文明はことごとく消滅したのだが、逆に古過ぎる時代に建造されたものはそのまま残っているらしかった。たとえばエジプトにあるピラミッドなどは消滅してないという。また地下10メートルまで魔法の効果は及んでいないらしいのだ。


 ほっとし胸を撫でおろした。


 地形そのものが変容し、見るからに別世界のような感覚に捉われたが、要は同じ地球だ。

 そう考えると、わくわくしてきた。未来に戻ったら掘り進めるのだ。そうパソコンを掘り当てるのだ!


 とりあえずUFOに向うことにした。


 こんな時、ドラちゃんがいればひとっ飛びなのだが、風の魔術で飛んでいってもいいのかな? 全員でふわふわ浮いて向かうのは、仮に攻撃された時、対処できなような気もする。


 全員で行くこともないか。俺とフィズバン先生と結城教授だけでもいいよね?

 そう思ったのだが、全員が行く気満々だ。それでも、澪や渚、優奈は置いてゆく。その護衛にシャーロットにも残って貰うことにした。するとマサヤも護衛で残るそうだ。まぁいいか。


 UFOに乗りこむメンバーは俺とフィズバン先生、結城教授にハリエットの4名だ。

 フィズバン先生が杖の先端をUFOに向ける。俺達4人は淡い光に包まれた瞬間、UFOの上に瞬間移動していた。


「す、すごい! まるで瞬間移動じゃないですか!」


 俺はフィズバン先生に振り向き羨望の眼差しを向けた。

 瞬間移動。それはつまり時間短縮。時間短縮ってことは時を操る魔術師。

 タイムマシーンでタイムトラベルしてきたドロシーとは違う。ここには本当の意味で時を自在に操る魔術師がいたのだ。そう大賢者ことフィズバン先生は時を自在に操る大魔導師であったのだ。


「フォフォフォ、驚いたようじゃのう。時の魔術は禁忌の魔術じゃからのう。お主の時代でも禁忌しとして扱われているやもしれんのう」


 まさにそうだと思った。タイムマシーンの存在も禁忌であると思うのだが、何よりも己の身一つで時間操作系の魔術を使えるのは凄いと思う。


「先生っ! 是非、その魔術を僕に伝授していただけませんか?」


 考えるよりも先に言葉が出てしまった。禁忌と言っていたのだ。教えてくれる訳もないのにな……。


「よいぞ」

「へ?」

「なんだいらんのか?」

「い、いえ……」

「不可思議じゃがお主のような無限の魔力を持つ者なら、上手く扱えよう」

「ほれっ!」


 フィズバン先生は杖で俺の頭を軽く小突く。


「いてっ!」


 俺は顔をしかめた。


「時魔術をお主に授けたぞ!」


 えっ? マジで?


「今ので終わりですか?」

「さようじゃ。与えたのは才能だけじゃ。後は己の力で磨くがよいぞ」

「確かに何となく頭に新しいものが浮かびます」

「そうじゃろ! フォフォフォ!」


 じっくりと修行をつけて貰う時間はそもそもない。

 でも基本的なことをざっくりと教えてもらえた。


・視界に見えてる場所に瞬間移動ができる。

・一度行ったことがある場所を思い返すことで瞬間移動できる。

・対象の時間を早めたり、送らせたり戻したりできる。


 素晴らしい魔術だ。融合魔術はその最終形らしい。文明が砂になって消えたのもそのせいかもしれない。

 時を経ると木の文明は消滅するが、ピラミッドなどの石の文明は長く残る。

 また俺の周囲の空間の時を早めれば、俺だけ未来を見て帰ってくることもできるらしい。つまり科学文明が砂のように消失したのは、その物体そのものの時間を早めたからだそうだ。マジで凄いな。


 時魔術の才能は与えられたのだ。これできっと未来の家族や、魔逢星への良き対策が立てられる気がする。後は自分なりの時魔術を編み出していくだけだ。


「フィズバン先生。ありがとうございます!」

「よいよい。お主の成長した姿をいずれ見ることになるやもしれぬな」

「やはり先生は未来の世界でも健在なのでしょうか?」

「フォフォフォ、どうじゃろうな……」

 

 フィズバン先生は遠い目をした。どっちだよ! 

 こんな会話をしていると、結城教授もフィズバン先生にお願いごとがあるようだ。

 どうやらハリエットに聞かされた未来で、英雄王になっているという話がずっと気になっていたようである。


 よくよく考えたら結城教授は英雄王になれないのだ。

 魔神戦争が勃発したのは、俺の住む未来から千年ほど前の話である。

 その時代まで、結城教授が今日より生きていることがまずあり得ない。

 なぜなら、この時代の今からの計算だと一万二千年も後の時代の話だからだ。どんだけ長生きしても無理がある。


 未来での英雄王は異世界からの来訪者とも呼ばれている。悠久の時を旅してきたとも。メアリーに読み聞かせて貰ったおとぎ話でも、英雄王の出生は謎に包まれており、異世界からの来訪者として伝わっている。


 英雄王レヴィ・アレクサンダー・ベアトリックス一世は、フィズバン先生の時魔術で旅してきていたのだ。なるほどな。


 そして、未来で生れる森の乙女に惚れられるんだな。納得した。

 ハリエットも俺と同じ答えに行きついたようで、時を越えたロマンスに感動しているようだ。 


「でも……あまり時間がないですわ! 早く中に入りましょう!」


 感動しつつもハリエットは、俺達に残されている時間も気にかけていた。

 この過去の時代に来た理由は、俺の未来を切り開くため。未来の家族を幸せにしなくてはならない。その中には、隣にいる北の聖女で王女でもあるハリエットの運命だって左右される。

 それだけじゃない。いずれ生まれてくる俺の子ども達の未来も掛かっているのだ。気を引き締めなくては。




 未来に忍びよる災厄、魔逢星襲来に俺達は打ち勝たねばならないのだから。

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