第百一話「竜族の謎」

 俺達はUFOの頭頂部にあった入口から内部に侵入した。

 丸い板の上に俺達は乗っており、その板がゆっくりと下降しているのだ。

 まるでエレベーターのような感じである。

 

「この雰囲気……似てないかい?」


 周囲を眺めながら俺はハリエットにそう問いかけた。


「そうね。そっくりね。竜王様のお城の地下とほとんど同じじゃない!」


 ハリエットも俺と同じように感じているようだ。


「そうだよね。どう見てもそっくりだよね。ひょっとしたらこのUFOが竜王様のお城の土台になったのかもね?」


 と、ハリエットに言ってみたが、既に何かを指差し見つめていた。


「み、みてっ! ルーシェリア、ほらっ、あそこ!」


 円系の空間の壁面に、竜王城で見たのと同じ浮彫の彫刻を発見した。

 そこには科学の歴史を俺達に伝えるかのように、現代兵器から四足歩行のロボットのようなもの。

 さらにはこれって、ほぼほぼガン○ムじゃないの? って思えるようなロボットまでが描かれていた。竜王城の彫刻は一部が崩れるように欠けていたので確認できなかった場所があったのだが、ここでは全ての彫刻を眺め見ることができた。


 考古学者である結城教授は「ふむう」と、一人頷き真剣に眺めている。

 フィズバン先生は入口を作動させる方法も知っていたので、大賢者でにしてみれば、珍しくもないのかもしれない。


 ぐるっと円周を眺め見ている中、最後に俺は気になる彫刻を発見した。


「あれ? なんで?」

「ん? どうしたのルーシェリア?」


 俺の疑問めいた呟きにハリエットが反応した。

 全てが機械的で兵器と呼べるものだったのに、その最後にある彫刻は兵器というよりも、ただの人間のようだった。俺がそう感じただけで、もしかするとアンドロイドだったりするのかもしれない。


 最後に描かれているし、科学文明の最終兵器的なものなのだろうか? 

 何となくだけどそんな気がした。目を追うごとに描かれている彫刻が次第に近代化し、その果ては未来化しているからだ。


 召喚勇者達は仮面ラ○ダーのように改造されているし、母のエミリーにしても純粋に人間と呼べる存在ではない。それに何となく最後の人型の彫刻が女性であり、母のエミリーを彷彿させた。


 そこまで考えが至った俺は、ふるふると今までの考えを打ち消すように頭を振った。

 召喚勇者達や母のエミリーが兵器であるなんて考えたくもなかったからだ。


 未来の召喚勇者達は改造されてしまっているが、生身の人間である。

 それに……。


 母のエミリーは妊娠している。そのうち俺の妹か弟がその生命の息吹をあげるのだ。

 科学文明の兵器なんかでは断じてない。そう信じたい。

 ハリエットが大きな瞳で俺を見つめていた。


「ねぇ、ルーシェリア。あなたの考えていること何となくわかるわ」

「え?」

「エミリーさんのこと考えてたんでしょ?」

「う、うん」

「何も心配することなんてないわよ。いつも一緒にいる私には何となくわかるわ」


 前にハリエットに話したことがある。千年前の魔逢星襲来の時、闇側に準ずる種族達は闇側の尖兵として光側の種族に戦いを挑んで来たことを。俺もシャーロットから聞いた話なので、掘り下げて詳しく知っている訳ではないのだが、改造されている召喚勇者達は闇側に属す可能性が高い。そのことをハリエットに話していた。


 さらに俺の母についてもハリエットは知っている。母の身体は生物学的には人間ではないのだ。

 仮に科学文明が生み出したものであったのならば、敵に回る可能性が少なからずあるということも話していた。


 ハリエットが俺の手をぎゅっと握ってきた。何も心配することなんて無いんだから! って言いたげに。


 その間も俺達の乗っている板はグングンと下降してゆく。これが竜王様の城の土台なら俺はこの先に何があるのかも知っている。


 操縦室のような場所と、兵器が収納されているはずだった格納庫。そして動力源のある部屋だ。その他にも部屋は幾つもあったのだが、重要な部屋はその三点だけであろう。


 また、知っている情報は共有しておいた方がいい。俺は未来の世界にある竜王城の話をフィズバン先生と結城教授に話す。未来のUFOの上には城が築かれ、その城には竜王様という主がいるということや、UFOの構造について知っている限りのことを話した。


 すると結城教授が関心を示し、ビームセイバーを握りしめる。服は葉っぱなのに、ジャングルに生きるターザンのように様になっている。隆々とした鍛え抜かれた筋肉あってのものだね。


「このUFOが君達の未来のものと同じであれば、一万二千年以上もの先の未来でもこのUFOは存在しているということになるのだな?」

「うん、そうですね」


 軽く受け答えする。


「そしてそのUFOには竜に変身することができる御仁がいるということなのだな?」

「はい、そうですね」

 

 考古学者だけあって、色んなことが気になるようだ。結城教授は「ふむう」と、腕を組み考え込む。考古学教授といえ未来のことは知り得ない。結城教授からは未来人である俺達にとって、これ以上有益な話は引きだせないだろう。

 そこで、フィズバン先生に尋ねてみる。


「先生は竜族について何か知っていたりしませんか?」

「無論、知っておる」

「本当ですか?」

「うむ、知りたいのか? 仮に知ったところでお主の未来の役には立たぬと思うが……折角じゃ、少しだけ話してやろう」

「はい、お願いします」


 フィズバン先生は自慢げに白い髭を撫でながら話してくれた。


 宇宙とは神の存在そのものだという。いきなりそんな話から始まったので、俺はチンプンカンプンなのだが、その宇宙が生み出した種族の中に、竜族、牡牛族、そして俺達、人族があるということを話してくれた。しかしその中に天使族や獣族、森の妖精である耳長族や炭鉱族と呼ばれているドワーフ族は含まれてなかった。まずはその些細な疑問をぶつける。


「先生、シャーロットのようなエルフ族も神様が造ったのではないのですか?」

「神が最初に創造した種族は先に申した三種族だけじゃ。エルフ族は竜族から派生し、ドワーフ族は牡牛族から派生しておるのだ」


 フィズバン先生の話によると、人族と竜族から突然変異で生まれ出たのがエルフ族であるらしい。逆に牡牛族と人族の間で突然変異し生まれたのが、ドワーフ族であるという。


 そして天族というものは、そもそも竜族であることを教えられた。


「天族って竜族のことなのですか?」

「さようじゃ。呼び名が時代で変化しているだけなのじゃ。変化しているのは竜族だけではないぞ。牡牛族は魔族とも呼ばれておるしな」


 魔族っていえば魔大陸は魔王がいる。多くの魔族は牡牛や山羊のようなアモン角があるらしいから、きっとそうなのだろう。なるほど……。


 前に魔法都市エンディミオン学院にある図書館の地下で、俺はラルフと禁断の扉を開いた。あの時、竜が牡牛を焼いて扉が開かれた。竜族と牡牛族は何かと因縁がありそうだ。


 フィズバン先生の話で、その辺も繋がってきた。竜族と牡牛族は、仲たがいし争ってきた歴史があるのだ。しかも、魔法文明は竜族が発展させ、科学文明が牡牛族が発展させてきた文化だとも。

 

 つまり竜王様は魔法文明を築いてきた一族の生き残りであり、六英雄の一人である天族の聖女セリーヌは竜族であるということだ。


 もっと詳しく尋ねたいのだが、あまり時間がない。浮遊する板が床まで辿り着いたので、俺達は床へと降りる。床を踏みしめた刹那、金属と金属が激しくぶつかり合うような音が鳴り響いたので、俺達は音のした方へと向かう。


 このUFOの内部で魔力感知できた存在は1体だけだ。何となく知っているような魔力の色である。そう俺が察知した魔力の色は、未来にいる竜王様そのもの。


 結城教授が不穏な空気を察知したかのように、青い光を放つビームセイバーを伸ばす。


「音がしたのはあっちのようだ。行くぞ!」


 結城教授を先頭に俺達は音のした方へと走りだした。その姿は果敢だ。

 またその方角は間違いない。動力源がある部屋の方角だ。


 少なくともその音がする場所で、今何かが起きている。そしてその場所に、きっと竜王様がいるのだ。格納庫を通り過ぎ、俺達は動力部屋まで駆けるのだった。

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