第八十八話「タイムマシンに乗って」
竜王城へとやってきた。
この竜王城が巨大な宇宙船の上に建造されてるのは既に明らかだ。
この城こそが、古代の遺産であり、古代兵器である。
そしてここにはタイムマシンがある。自ずと緊張が高まってくる。
老人の姿をした竜王様が出迎えてくれた。
「竜王様、お久しぶりです」
「よいよい、タイムマシンのチャージは十分じゃ。いよいよだのう」
本当にいよいよだ。俺達はタイムマシンがある部屋まで来た。
ドラちゃんとクララは竜王城で待機だ。
さすがにドラゴンを過去の世界に連れてはいけないからな。
タイムマシンのエネルギーチャージ量を確認する。
竜王様が言ってた通りで、チャージ量は申し分なくMAXだ。
以前、ドロシーとマリーがタイムトラベルしてきた時は、半日ぐらいしか滞在できないチャージ量だったのだろうが、この燃料となってる真紅の魔水晶は凄い。
アールフォーの計算だと三日間は滞在できそうだ。
まずは両親が生きている時代だ。
次にレヴィ・アレクサンダー・ベアトリックス一世こと結城孝生が生きていた時代にも行く。
その時代に何があって、今の時代が何ゆえ変貌を遂げたのか知る必要がある。
この世界の住人にとっても重要な鍵となるかもしれないのだ。
何故なら、魔逢星の存在。
魔逢星が接近する時、邪神が復活する。
その邪神は鋼の肉体。比喩ではなく、つまり金属の肉体を持つそうなのだ。
魔法都市エンディミオンでラルフ達と見た過去の軌跡。
それは科学文明と魔法文明の二大勢力のあくなき戦いの歴史であった。
科学文明『メガラニカ』とは。
魔法文明『レムリア』とは。
その謎を究明することが、邪神対策の鍵となる。
とはいっても、まずは両親に会ってちゃんと謝りたい。
情けなかった過去の自分を。
俺の人生のターニングポイントは高校二年の夏だ。
そう、清家雫に告白したあの日だ。
その時代にピンポイントでタイムスリップしなくてはならない。
以前、アールフォーに結城孝生が生きていた時代を調べて貰ったら『一万二千九百八十九年と二カ月に十一時間三十七分、三十二秒』だった。
それをアールフォーに西暦に換算し直して貰う。
『ピ、ピピピ、二千二十年三月六日十六時二秒』
これは……? っと思った。
俺が過去の世界でトラックに撥ねられた年だ。
この時、俺は二十九歳。
東京オリンピックの開催年で盛り上がり始めた時期だ。
二千二十年から十二年引くと高校時代になる。
つまり西暦二千八年にタイムスリップすれば、高校時代の両親に会える。
敢えてこの時代を選ぶ。
できることなら過去の情けなかった自分に活を入れたい。
「さて、行くとしようか」
俺の言葉を待っていたのだろう。
メアリーは固唾を飲むように沈黙していたが「はい」と、明るく返事した。
ハリエットはワクワクしてるようだ。
ドロシーはタイムマシンの最終調整をしてくれている。
そのドロシーが、悩ましそうに言う。
「王子、このタイムマシーンは一度に三人までしか転送できないようなのです」
「あれ? そうだっけ?」
「はい、無理やり四人も転送すると何が起きるかわかりませんよ」
うぬぬ、それは困った。
ここには俺も含めて、過去の世界を見物したいメンバーが四人いる。
誰か一人を置いていかなくてはならなくなった……。
タイムマシンに詳しいドロシーは、なるべく外したくない。
メアリーとハリエット、どっちを連れていくべきか。
俺が困った笑みを浮かべているとメアリーが気を使ってくれた。
「ルーシェ様、私が居残りさせて頂きます」
するとハリエットが
「ルーシェリア、時間軸の旅は二つの時代に行くんでしょ?」
そう二つの時間軸だ。
「そうだね。最初に僕の都合で申し訳ないけど、高校時代の両親に会いに行って、一旦戻って結城孝生の生きていた時代に行こうと思ってる」
「なら、いいわ。今回わたしはパスするわよ。魔物がいる時代はその結城さんって方がいらしゃる時代なんでしょ? ルーシェリアの過去の時代には危険なんてなさそうだし」
つまりハリエットの意見としては、安全な時間軸はメアリーに譲って、魔物がいる危険な時代はハリエットがメアリーと交代するということだ。
さすがだな。ちゃんと皆、考えてくれている。
旅行気分で一番浮かれていたのは俺かもしれないな。
なーんて感心していると更に何かあるようだ。
「王子、二つの時間軸を旅するとなると、アールフォーの計算よりも時間がもっと制限されちゃうみたいなのです」
ドロシーの話によると、遡る時間があまりにも途方がないので、エネルギーの消費量がかなり激しいらしい。二つの時間軸を旅するとなると二時間ぐらいずつが限度の様だ。
残念だが、しょうがない。
それとは別にとある疑問が脳裏に過ったので、ドロシーに尋ねてみる。
過去にばかり拘っていたけど、これはタイムマシンだ。
未来にも行けるんじゃないだろうか?
「この時代の時を超える機能は無いようなのです」
うーむ、過去には行けても未来に行く機能は付いてないのか。
未来はやはり
だが、それはそれでいい。未来とは己の力で切り開くものだ。家族は俺の力で守る。
家族とは父のアイザックや母のエミリーや将来の嫁たちはもちろんのこと、ウルベルトやアニーやドーガ、竜王様も俺にとっては真に家族の一員だし、ドラちゃんやクララだってそうだ。魔法都市で頑張ってるマリリンにしたってそうだ。
シュトラウス家に関わる人達はみんな俺にとっては大切な家族である。
郷田や骨山が死んだことで未来は既に変わってるかもしれない。
が、それでも俺の心の片隅には何かしらの不安があり、胸騒ぎがすることもある。
やはりそれは邪神復活が心に引っかかっているからだ。
邪神が復活すると、世界の勢力は二分される。
それは光側の種族と闇側の種族との争いだ。
単純にはそうだが、光側の種族でも心に大きな闇を抱え込む者は闇の瘴気に囚われ敵となるだろう。
あれよこれよと考えたいことは山ほどあるが、行ってみるのが何より早い。
アールフォーに、遡る時間と位置の設定を頼む。
アールフォーは優秀なロボットで過去の世界地図もインプットされている。
おっし! 準備完了だ。
旅立つ先の時間は西暦二千八年の八月十四日、時刻は午後五時。
場所は福都市西高校の山裏だ。
タイムトラベルを可能とする、透明の球体に触れる。
身体がすーっと吸い込まれるように中に入って行く。
俺に続きメアリーとドロシーも乗り込んで来た。
「ルーシェリア、メアリー、ドロシーいってらっしゃい」
「うん、行ってくる。失った過去を取り戻してくるよ」
満面の笑みのハリエットにそう返事したが、高校時代の俺をメアリーやドロシーに見せるのは複雑な心境で抵抗もある。ブサメンだからだ。
ゴブリンやらオークやらと勘違いされなければいいのだが。
いやいや、できれば会わせたくない。
だが、それも己の過去を乗り越えることに繋がる。
未来の嫁達を信頼しよう。
とはいえ内心は溜息がでる思いだが、ここは明るく。
「竜王様、ハリエット。行ってくるよ」
「アールフォー。タイムマシンのことよろしく頼みますよ」
「ハリエット姫様、譲って頂いてありがとうございます」
アールフォーがタイムマシンの操作をする。
俺達が入っている球体が光り出す。
目を開けていられないぐらいの眩い閃光。
竜王様とハリエットの姿が霞んで見えなくなり、バシューンと音がした。
次の瞬間には「ミーンミーン」とセミの鳴き声が響き渡っている。
俺はきょろきょろと周囲を見渡す。
草木の香が懐かしく感じる。
ここは見慣れた学校の裏山だ。
滞在時間は二時間。
二時間経つと強制的に未来へと転送されるらしいから、ウルベルトに貰った時計をすかさずこの時代の時間にセットし直す。
そしてメアリーとドロシーもちゃんと隣にいる。
その姿を確認して、実感が湧いてきた。
や、やったぞ! ついにやった!
俺達はついに過去の世界にタイムトラベルを果たしたんだ!
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