第八十話「隠されていた陰謀・後編」

「ルーシェリア! 解毒が追いつかないわ! 毒の回りが早すぎるのよ!」


 ドロシーを膝枕に寝かされてるメアリーに対し、ハリエットは必死になって神聖魔法を施してくれている。

 

 クララも心配なのかメアリーに寄り添い「ピーピー」、鳴いているではないか。

 メアリーの容体が心配でたまらない。

 たまらないが、奴らから目を逸らすことができない。

 どうしたものだ?

 今はハリエットの力を信じる他ないのだが……。


 ハリエット曰く「もう一人、神聖魔法の使い手がいれば解毒が間に合う」だ、そうだ。

 しかし、ここには……神聖魔法の使い手はいない。

 …………いや、そうじゃない、もう一人いる。

 メアリーに毒を盛った張本人の姫野茶々子が。

 

 迂闊だった……メアリーは訝しんでいた。

 彼女は俺の身を案じ、毒味のつもりで一口運んだのだ。

 それなのに俺ときたら、久々のカレーライスの香に浮かれていただけであった。


 一条春瑠との話は、まだ終わってない。

 だが、今はメアリーを助けることを優先しなくては……。

 俺は姫野茶々子に振りかえった。


「頼む、メアリーの命を救ってくれ、その毒は元々、僕を狙ったモノなんだろ?」


 俺の言葉に桐野祐樹と一条春瑠も援護射撃してくれた。

 姫野茶々子は、困惑し躊躇っている。

 その姫野茶々子の肩に桐野祐樹が手を被せる。


「茶々子、俺からも頼む」

「姫野さん、僕らの敵は法王庁だろ? ルーシェリア王子じゃないよ」

「わ、わかったわよ……」


 姫野茶々子がハリエットの隣に渋々と並んだ。

 メアリーの血色が、みるみる良くなっていく。

 徐々に回復に向かっているのだ。

 さすが聖女適正の召喚勇者だ。

 

 うん、これなら大丈夫だ。

 

 ほっと安堵の溜息をついてると、今度は桐野祐樹が俺の前に進み出た。

 

「ルーシェリア王子、大変申し訳ありませんでした……」


 桐野祐樹は肩を落とすと、俺に対して土下座した。

 それに習うように、一条春瑠も同じ行動を取る。

 

 話を聞けば聞くほど酷い話だ。

 9名の召喚勇者を毒殺したのは、アルマン司祭と、クラーク司祭。

 その現場を姫野茶々子だけが、目撃した様だ。

 他のクラスメート達は、残念なことに、この話を信じてくれなかったらしい。


 そして彼らは決心した。

 法王庁と敵対し戦うと。

 その為には、強くなければならないし、生きていくために金も稼がなければいけない。


 ここは姿を眩ますにはもってこいの大迷宮であったそうだ。




 極寒の地に春の訪れを願う白竜こと花咲く女王。

 ユーグリット王国の守護竜でもあり、ドラちゃんの妻でもある。

 クララにとっては母親だ。


 その、花咲く女王を死に至らしめた者。


 犯人がわかった。


 桐野祐樹がしゃべったのだ。


 法王庁から邪竜退治として命を受けた召喚勇者が、白竜山脈に旅だったらしい。

 軍師の称号を持つ元教師の八代勇作、天音結衣、園崎梨花の3名だそうだ。

 

 その中に、白鳥渚の名がなくて、俺は少しほっとした。

 もし、白鳥渚が関わっていたら、俺は嫌でも彼女を殺さないといけない。

 ドラちゃんのかたきでもあるかだ。

 話を聞くと、法王庁としては、ユーグリット王国も仮想敵国らしかった。

 それはミッドガルとは友好的な間柄だからかもしれない。


「ルーシェリア王子、実は……もう一つ気になることがあるんです」


 桐野祐樹だ。

 彼は知ってる事を、洗いざらい全部、俺に吐きだしたいようだ。


「同じだったんです……」

「同じとはなんだ?」


 更に詳しく話を聞く。


 法王庁は女神アリスティアを崇拝している。

 ファリアス帝国はネクロス教を崇拝している。

 この世界では共通の一般認識だ。

 だが、その常識が見事に覆される話であった。


「どっちも同じ神を崇拝してるみたいなんですよ」


 彼ら召喚勇者達は、法王が御座す神聖王国にも訪れたことがあるらしい。


 表向きは女神アリスティアを崇拝してるようだが、裏では別のモノを信仰の対象にしていることに気がついたらしい。


 その神の名まではわからない。

 わからないが、本殿の奥に祭られていた偶像は女神アリスティアでは、無かったらしい。

 表向きは女神アリスティア。

 だが、真に崇拝されてるのは別の神だった。


 そして彼らは帝国の本殿にも忍びこんだようだ。

 法王庁が敵対してる神とは、どんな神なのか興味がわいたらしかった。

 すると、ネクロスではなく、同じ偶像が崇拝されていた。

 彼らは彼らなりに疑問を踏まえ、行動していたようだった。


 話を纏めると、レヴィ・アレクサンダー・ベアトリックス一世の血筋の根絶なのは変わらないが、彼らの推理を聞くと、帝国と法王庁は水面下で繋がっていると考えるしかない。


 帝国も法王庁も同一神を崇拝してるのだから……。


 その神の姿は――――そう、ただの人だったらしい。

 宇宙服を纏った人の姿の偶像だったと言う。


 俺の思考回路がショートしそうになった。

 つまり俺の敵は、伯父上でもなければ、召喚勇者でもない。

 法王庁と帝国の上にいる偽りの神だ。


 魔逢星とは、きっと宇宙船だ。

 そして、邪神とはきっと……メガラニカ側の兵器だ。


 とりあえず俺はそう結論付ける。

 なれば、この世界のどこかに、レムリア勢力側の大賢者が存在してるはずだ。


 その大賢者に会う必要もある。

 存在してればの話だけど……。

 

「王子、メアリーさんが息を吹き返しましたよ!」


 振りかえると、ぐったりしたハリエットと姫野茶々子がいた。

 ドロシーがにっこりと微笑んだ。

 メアリーは無事のようだ。 


「ルーシェ様、ご心配おかけして申し訳ございませんでした」


 大事に至らなくて、本当に良かった。


 さて、こいつらの処分はどうしたものかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る