第二十七話「竜王の城へ」

 玄関にでた。


 今日も晴れやかな天気だ。

 元の世界よりも段違いに透き通った青い空。

 

「ではでは、坊ちゃん。竜王様の居城まで向かいましょうぞ!」


 ウルベルトはとても張りきっている。

 メアリーも当初は反対してたのに、一度決心したら旅行気分なのか。

 ウキウキと色めいている。

 そういや……俺って竜王の城はおろか、この世界の地理すら良くわかってないんだよな。


「竜王様の城ってどこにあるんだい?」


 素朴な疑問をウルベルトに投げかけた。


「馬車で三日、その後、船に乗り南東の大陸に渡りまする」


 ……へっ? そんなに遠い? 

 うーむ。


「どうされたんです? そんなに考えこんで」


 ウルベルトは情報集要員で残して置いたほうが、いいような気がする。

 謀略やら陰謀は情報戦が鍵を握っているからだ。

 両親も留守にしてる。

 館を空っぽにする訳にはいかない。


 それにウルベルトは上級騎士だ。

 何かと騎士としての仕事もあるはず。

 腕も立つ、俺がいなくても不覚をとることもないだろう。


 ――――それに……。

 俺はメアリーと二人っきりで、旅行気分に浸りたい。

 旅行と言っても俺ならば、あっという間に、竜王の城までいけちゃうけどな。


 この身体に馴染めば馴染むほど、不思議と魔法知識が脳裏に溢れだし描かれる。

 そのうち失われた古代魔法エンシェントマジックまで、脳裏に浮かびそうだ。

 この世界の俺は天才だったのかな?

 それとも……。

 俺だけがこの世界に転生している。

 何か特別なものを感じる。

 が、今はそれが何なのか無論、わかる気がしない。


「ウルベルト」

「はい、なんでしょう?」

「悪いけど、ウルベルトには留守番を任せようと思う」

「ど、どうしてなんです……ぼ、坊ちゃん……」


 ウルベルトは狼狽し、寂しげな眼差しを俺に向ける。

 容赦なく郷田や骨山を切り捨てたウルベルトにしては、似つかわない情けない声も発せられた。

 メアリーは俺とウルベルトのやり取りに、口を挟まず黙っている。


「往復だけで、一週間ほどかかるんだよね。その間、家を留守にする訳もいかないだろ?」

「お、おっしゃること、ごもっともですが、このウルベルトは坊ちゃんの護衛も命じられてます。短絡的にホイホイ離れるわけもいかないのですよ」

「仕事もあるんじゃないの?」

「無論、休暇を頂きまする!」


 ウルベルトの意思は固い。

 俺はちょっとご機嫌斜めな感じでむすっとした。

 親父の命令だもんなあ。

 さて、どうしたことやら。

 

「ウルベルト!」

「はっ!」

「ひっつき回るだけが護衛じゃないよ?」

「……と、申されますと?」

「勝敗は戦う前から決まっているもんだよ。僕とメアリーが留守にしてる間、情報収拾をしてほしい。それが僕を守ることにも繋がるのだ」


 言葉にしてみて我ながら説得の材料には妙案だと思った。

 今は黒幕もハッキリとは見えてこない。

 見えない敵には策も講じようがないのだ。

 ならば情報を集めることが最優先である。

 それに牢獄に繋がれてる清家と間宮の様子も探ってほしい。


 それら一連のことを伝えるとウルベルトは納得してくれた。


「ぃよっし! 行こうか!」


 お忍びでの出立なので王宮ご用達の馬車は使えない。


「では、港までは定期便の馬車で向かいましょう」


 メアリーも竜王の城に行くのは初めてだ。

 でも勉強熱心な性格だったのか、この世界の地理にもそこそこ詳しいようだ。


「いいや、飛んでいくよ。メアリーは方角だけ指示してくれたらいいよ?」


 メアリーもウルベルトも首をかしげる。


「メアリー! 僕の後ろから腕を回して掴んで!」

「こ、こうでございましょうか?」


 メアリーは訳もわからずしゃがみ込む。

 少女が後ろから子供に抱きついているような絵になった。


「しっかり掴まっててね! 飛ぶよっ!」

「と、とぶっ? で、ございましょうか?」

「んじゃあ、ウルベルト後はよろしく!」


 風の魔術を脳裏でイメージした。

 理解した。

 なんとも言えぬ、万能感に全身が満たされていく。

 メアリーが恐がらないように、俺はゆっくりと大地を蹴った。


「ル、ルーシェ様!」

「な、なんとっ!」


 メアリーの足が地から離れた。

 俺を掴む手に、ぎゅっと力が籠る。

 

 二人とも驚いている。

 空中に浮いてるんだもんな。

 俺だって驚いたよ。


「ゴホンっ!」


 ウルベルトが真っ赤に頬を染め、咳払いした。

 あっ! こんにゃろう!

 俺はまたもや瞬時に理解した。

 メアリーのスカートの中が見えたに違いない。


 戻ったらこいつはクビだ。なんちゃってな。

 ウルベルトが俺達を見上げ優しい眼差しで、微笑んだ。


 俺とメアリーもウルベルトに微笑み返す。

 そして俺は無限に感じる魔力を解放。


 ふわりと身体を上昇させていく。

 街が一望できる高さまで上昇した。


 こりゃあ……お忍びどころか目立ってしまったかな。

 俺達の存在に気がついた街の人々が、驚きの声あげ空を見上げた。


「す、凄いです! 凄すぎます!」


 メアリーは恐がるどころか、大喜びだ。

 

「ルーシェ様! 竜王様のお城はあっちの方角です!」


 俺の肩のところにはメアリーの顔がある。

 甘酸っぱい気持ちが込み上げてきて、とてもいい気分だ。

 メアリーの豊満な胸の感触も伝わってくる。


 俺達は青空の中、雲を突き抜けるように空を飛んだ。

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