第六話「日常」

 食卓は一階だった。

 今更ながら思う。

 豪華な館だ。

 廊下も長く途中に何部屋もあった。

 俺はどんな家系に生まれてんだ?

 俺達が食卓まで辿り着くと初めて見る顔が一人いる。

 食卓は数多くのランプや燭台に照らされ部屋のように薄暗くなく明るい。

 

「ルーシェリア、どうだ調子は? 無理せず部屋へと食事を運んでもよかったのだぞ?」


 メアリーが言ってたのと話がちょっと違うと思ったがまあ……いい。

 アーサー王の円卓を彷彿させるような食卓の上座にて親父がゆるい笑みをこぼした。

 親父の右隣にはママンのエミリー。

 左隣りには初めてみる騎士風の男。

 その隣には純白の法衣を纏ったシメオンがいる。


 俺はママンの隣の椅子へとメアリーに案内され隣にマリーそしてメアリー順で着席した。

 着席すると親父の隣に座る騎士風の男が俺に話しかけてきた。

 

「ルーシェリア王子。すっかりご気分麗しくウルベルトめも安心いたしました」


 赤茶けた髪色で風のように爽やかな笑みを浮かべる青年だ。

 お、王子?

 俺は王子なのか?

 戸惑いながらも俺は返礼した。


「いえいえ、こちらこそ、ありがとうございます」

「ルーシェリア王子、ご丁寧な挨拶、恐悦至極に存じます」


 つーことは親父が王様って話しなの?


 ウルベルトは終始ニコニコしてる印象で気さくなお兄さんって感じだ。

 歳は親父より少し若いかもしれない。


「ルーシェお身体は平気なのですか?」


 隣に座るママンのエミリーが心配そうに声をかけてくれた。

 

「母上、心配無用です」

「何度も言いますが、あなたは二週間以上も寝たっきりだったのですよ?」


 心配そうな眼差しを向けられても本当に平気なんだよな。

 二週間って聞くとリハビリとか本来なら必要な域かもしれないが。

 

「本当に大丈夫です」


 俺の返答にシメオンが顎ひげを整えながら瞳に笑みを浮かべ答えた。


「大丈夫だろうて、貴重な生命の水を三杯も飲みほしたのだ。エミリー殿、そう心配なされるな」

「そうだぞ。我が子ルーシェリアは軟弱者ではない。こうして元気にしておる。明日は二週間前に召喚された者たちの称号授与式だ。ルーシェリアも参加するがよい」


 父が真剣な眼差しで俺を見た。

 召喚? 授与式? なんじゃそりゃ……。

 もしやマリーが言ってた召喚された勇者のことか?

 

「かしこまりまし父上」

「では、食事にいたそう。ミッドガル王国の繁栄と平和。ルーシェリアの快気祝いといたそう。乾杯だ!」


 全員で乾杯した。

 俺とマリーはジュース。

 そして目をみはるばかりの料理群。

 なんとも豪勢な食事だこと。

 俺の為にメアリーや両親が腕を奮ってくれたそうだ。

 玉ねぎ型のスライムみたいな蓋をあげると、鉄板の上に肉汁溢れるステーキが乗っていた。

 焼き立てのようだ。

 湯気と肉と香辛料の香が鼻腔を襲う。

 ナイフを入れフォークで一口運んでみた。

 

 旨い! ジューシだ。


 口の中でとろけていく。

 脂身はほとんどない赤身肉だ。

 食べ慣れた牛肉とも豚肉とも違う。

 鶏肉って感じでもない。

 何の肉か分からないが、とにかく臭みがない。

 

「どうだ、ルーシェリア。久々のドラゴンステーキだ。旨いだろ?」

「ドラゴン?」

「ああ、そうだ」

 

 父がステーキを口に運びながら自慢げに笑った。


 ドラゴンの肉なのか、これ。

 

「ルーくん、これ食べてみて」


 隣のマリーが、ニパっと笑みをこぼしバスケットを俺に両手で差し出した。

 その上には見慣れた菓子があった。

 ……ん? これって。


 マリーが小さな声で囁く。


「パパが未来で作ってくれたポトチってお菓子だよ。ジャガイモを薄くスライスしたモノを油で揚げて塩ふっただけなのにサクサクして、おいしいね。パパの為にマリーとメアリーで作ったんだ」

「どれどれ」


 これも旨い!

 本当はポトチじゃなくポテチなんだけれどな。


「あれ~? 未来のパパは涙して懐かしそうに食べてたのに……あんまり嬉しそうじゃないね?」

「え? いや嬉しいよ」


 俺的な感覚では三日前に食べたばかりだった。

 

「マリー、私も頂いていいかしら?」


 エミリーの目にとまったようだ。

 エミリーが食べ、順にバスケットを全員に回した。


「ほほう、イモを油で揚げるとこんなに旨いとは驚きじゃな」

「味付けが塩だけとは恐れ入りました」


 シメオンとウルベルトが感嘆の声をあげた。

 

「マリーにメアリーよ」

「はい、旦那様」

「はい、お爺様」

「沢山作って街の子供たちにも食べさせてあげるとよい。作り方も教えて使わせ。我が国の名産物になるやもしれん」

「はい、かしこまりました旦那様」

「は~い」

 

 そしてマリーが俺に、二パッと笑みをこぼす。


「パパ、パパのパパはマリーのお爺ちゃんでアイザックって名前なんだよ」

「ほう、そうなのか?」

「名前知ってないとパパ困るでしょ!」

「俺の父の名はアイザックって言うんだな」

「そうだよ? ちゃんと覚えておくんだよ。お爺ちゃん、割と豆腐メンタルなんだからね。下手したらショックで寝込んじゃうんだから」


 マリーが小声でそう囁き教えてくれた。

 あの援護射撃は意図的だったのかもしれないな。


 食事が済むとシメオンとウルベルトは父に礼を述べ帰った。

 ここに住んでる訳じゃないようだ。

 まあ、当然だよな。


「ルーシェリアよ、明日は早い出仕になる。風呂を浴び、ぐっすりと眠るがよい」


 食事が終ると親父は俺に風呂を進めた。


「はい、父上」

「ルーくん、お風呂いこ」


 俺とマリーは食卓から風呂場へと向かう。

 そういや、途中からメアリーの姿が無いな? どこいったんだろう?


「ルーくん、キョロキョロしてどうしたの?」

「メアリーどこいったんだろ?」

「お風呂に薪をくべてるんだよ。お風呂の準備が整ったら食事の後片付けもあるから、マリーも毎晩お手伝いしてるよ」

「二人とも働き者なんだな……」


 前世ヒキニートの俺は進学はおろかバイト経験すらない。

 無論、就職なんて言葉は俺の辞書にはなかった。

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